第153話 城壁前のエルフ少女
あれから順調に馬車を進めたヤマト達。
その甲斐あって予定より早く、朝のうちに目的地に到着した。
エルフ王国を象徴する王都、その名も王国名をそのまま引き受けたエルフ族の最大都市。
王都ブルーサファイアに到着した。
そびえ立つ城壁の高さに、ヤマト達は圧倒された。
「な、何て高い城壁なんだ。」
馬車の中から見上げるヤマト。
城壁の高さは15m以上、ところどころに矢穴が開いているが鉄の蓋のようなもので閉じられている。その数が異常に多い。
エルフは魔法も得意だが、弓も得意な種族だ。そのためだろう。
この城壁の特徴的なところは、激しい反りだ。おそらく歩兵が登ってこれないように配慮されているのだろうが、反りが激しい。あきらかに城壁の耐久を下げる角度だが、ここにもエルフ族の魔法技術が結集されている。石と石の間に、魔技材をふんだんに使用していて、石と石の結合と耐久性を高めているのだ。
そのため、この城壁は石のように見えて石ではない。鋼鉄よりも固く、石よりも火に強い強度を誇っていた。
そんな知識を持ち合わせていないヤマトには、とても印象に残る城壁として瞼に焼き付いた。
馬車が城壁に近寄ると、城門が見えてくる。
その城門がまた大きい。
城門前には検問所が設置されており、長蛇の列が出来ていた。
「あれは?ルシナ。」
「あれは検問待ちの行列だよ。」
見れば、行列の先には美しい男のエルフ兵が、大きな槍を持ち。
検問待ちの行列を整理していた。
「二列に並べ!横入りはするな!もめ事を起こすなよ!」
怒鳴るエルフ兵。
これだけの行列を仕切るのは大変そうだ。
検問所までには、馬車の行列と人の行列が二列に並んでいた。
(あれに並ぶのか……。長くなりそうだな……。)
ヤマトがウンザリした気持ちでいると、ルシナは行列には並ばずに検問所のとなりに馬車を並べた。
(……?)
ヤマトは首を傾げていると、当然のように怒られる。
「そこ!何をしている!」
門兵が10名ほど飛び出してくる。エルフ兵だ。
門兵のせいか、どれも相当な力をもっているに違いない。ヤマトは慌てた。
「あわわ……。おい、ルシナ。」
しかし、ルシナは笑った。
「ちょっと、待ってて。門兵に話をしてくる。」
「え?」
ルシナは御者席から飛び降りる。
「……!止まれ!」
長い槍と剣を構えるエルフ兵。後方には魔法兵も居る。
ピリピリとした緊張が流れる。
行列に飽き飽きしていた人々は、「何だ?何だ?」と興味津々だ。
これから始まる戦闘シーンに期待が込められているようだ。
「お、おい……。俺達も外に出る?」
ヤマトがリリスに問いかけると、リリスは首を振る。
「不要じゃ、ルシナに任せておけ。」
「で、でも……。」
再び、外に目をやるヤマト。
そんな中。屈託ないルシナの声が、彼らにかけられた。
「……やあ。ご苦労さん。」
この状況で、間の抜けた波長だった。ルシナらしいテンポは相変わらずと言えた。
馬車の中なので声が聞き取り難いが、ルシナと兵達のやりとりが聴こえてくる。
「……何者だ!……うん?……こ、これはルシナ様。」
何やら、ルシナの姿を認めて驚いた様子の兵達。槍を一斉に下げた。
その様子に行列人が驚く。ヤマトも驚く。
「うん。ご苦労さん。ちょっと通してもらいたいんだ。」
「こ、困ります。ルシナ様だけであれば検問など不要ですが、馬車となりますと、いくら隊長クラスといえども、規則には従ってもらいます。」
しかし、ルシナは馬車の紋章を指さす。
「この馬車は国賓認証車だ。見てみて。」
「……!こ、これは……。」
驚きのけ反る兵達。
お互いに顔を見合わせている。
「そう言うことだから、何も聞かずに通してくれる?翼竜隊の隊長が保証する。」
「は!国賓であれば、一介の兵が口を出せません。お通りください。」
道を譲る兵たち。
他の兵たちは、行列の人達に怒鳴る。
「おい!何を見ている!道を空けろ!国賓が通るぞ!」
行列の人、馬車達は……。
「何だ……何だ?」
「国賓?」
「おいおい……、こっちは1時間も並んでいるんだぞ。」
など、愚痴が聴こえてくるが、そこは兵たちが圧力で制した。
俺達の馬車のために、城門までの道が開けた。
ルシナが戻ってくる。颯爽と御者席に座る。その跳躍は、鳥のようだった。
「お待たせ!行くよ。」
「だ、大丈夫なのか?ルシナ?」
「まったく問題ないよ。ヤマト達はお姫様の賓客だしね、行くよ!」
ヤマトがふと外に目をやると、一人の少女と眼が合った。
非常に整った容姿の女の子だ。緑色の髪に瞳。
魔法使いのようで長い魔法杖を持っていた。
まだ幼い。おそらくヤマトと同年齢くらいだろう。
耳の形からして、エルフ族のようだ。
容姿も相まって、非常に目立つ。
彼女は興味深げな表情でヤマトを見ていた。
「……。」
「……。」
スレ違いに目が合った程度である、ヤマトも彼女に目がとまり。この大勢の中で、ぴったりと目が合った。
(……?何だ?あの子。かなりの魔力だ。)
そう思ったヤマトだったが、城門を過ぎた後の景色ですぐに彼女のことを忘れた。
「うわ……。」
思わず声に出すヤマト。
城門を過ぎると、そこには美麗な建築と活気にあふれる街があった。
大きくまっすぐ伸びる街道は広く。行きかう馬車が通っており、左右には見たこともない綺麗な商店が立ち並んでいた。
「ここが、エルフの王都。」
ヤマトが呟くと、ルシナが振り返りながら笑った。
「ようこそ!エルフの国へ!ここが王都ブルーサファイアだよ。」
リーランやリリスも、外の景色を眺めている。
左右の歩道には、エルフがたくさん居た。
いや……、ほぼエルフだ。
「エルフが沢山……。」
「そりゃ、エルフの国じゃからな。」
「ふふふ。面白いこと言うわね、ヤマト。」
「……っ。」
二人のツッコミに顔を赤くするヤマト。
馬車はそのまま進む。
街の中に街道だ、石造りのため揺れが激しくなるのは仕方ない。
しかし、この馬車には何か仕掛けがあるのか揺れを殆ど感じなかった。
「ルシナ?まずはどこに行くの?」
「うん。まずは王城に入ろう。この馬車を返して、そこで指示を仰ぐ。」
王都ブルーサファイアは、城壁により三重構造になっている。一番外側は、「王都」。真ん中は「王城」。中心がエリアが「王宮」。
今いるのは、王都エリア。商業エリアでもあるため、活気があってあたり前と言えた。
馬車の窓ガラス越しに、王都の人達を眺めるヤマト。
「……ヤマト。」
そんなヤマトの姿を、リーランは見て少し不安になった。
外は、凄まじい人口だ。繁華街以上のものを感じるし、見ていて面白い。
人一倍、好奇心が強いヤマトだ。以前であれば、ヤマトはキラキラとした瞳で外を眺めていただろう。
しかし、どこかヤマトの眼は冷めていた。
両親を亡くしたときから、ヤマトの感情が乏しい。
笑うには笑う。
しかし、どこか無機質な笑いであって心から笑っていない。そんな印象を受けていた。
(ヤマト……。家族を亡くしてから、感情が……。)
そんな心配をよそに、馬車は王城エリアへと入っていった。
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