第152話 忘却人への期待
転移門の設置されている展望台から降りると、勾配の激しい山道が続いていた。
まずは、この山を下山しなくてならない。
クネクネと迷路のようになっていて非常に歩きにくい。
「ルシナ。道は合っているんだよね?」
ヤマトが心配になってそう尋ねる。
「あはは。もちろん。」
「そ、それにしても分岐が激しいな。それに勾配も……。」
「セキュリティ上、仕方無いんだよ。結界も張ってあるんだ。」
さすが、エルフの国を守る要衝。厳重である。
しかし、転移門にある都市が王都だから当たり前なのかも知れない。
それからヤマト達は、もくもくと歩く。
数時間かけて下山するのに、いくつもの結界を突破しなくてならなかった。そのため、1時間もかければ下山可能と思われたが、まる半日経過してしまった。
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下山しきると、そこには馬車道のようなものがあった。
先を見ると、いくつもの高い山が道を阻んでいる。
その度に、山を越えて行くかと思うとウンザリする。
ヤマト達は、「かなり歩くな……。」と、覚悟を決めていたら。
道に馬車が手配されていた。
「な、何故ここに馬車が……。」
驚くヤマト。
すると、ルシナだけが状況を理解していた。
「ドドリゲスに、手紙つけて王城へ連絡しておいたんだよ。馬と馬車を寄越してくれたみたいだね。」
「早くないか!?ドドリゲスが到着して間もないだろう?」
ヤマトが驚くと、ルシナは笑った。
「転送魔法だよ。エルフの魔法部隊が転送してくれたんだよ。」
「「転送魔法!?」」
今度は、リリスとリーランが驚く。
この二人が、魔法技術で驚くのは珍しい。
「転送魔法じゃと!?あれは、当時ワシくらいしか使えん魔法。超レア魔法じゃぞ?」
(お前は使えていたんかい!)と、ヤマトは心の中でツッコム。
すると、ルシナは「ふふん……。」と胸を張った。
「エルフ国には、忘却人が居るからね!」
顔を見合わせる、リリスとヤマト。
「忘却人……。ミヤビ・コバヤカワのことか?」
ルシナは、眉をピクリと上げて反応する。
「そう。忘却人を抱えているエルフ国はいろいろと有利なんだ。」
リリスも頷く。
「ワシも風の噂くらいしか知らん。ミヤビ・コバヤカワ……忘却人は、転送魔法を使えるということは。かなりの高等魔法を使えるのか?」
「うん。彼女は、今は王都の魔法師団に所属しているよ。天才魔法使いと呼ばされていて、軍でも有名なんだ。」
「へぇ……。」
ヤマトの前世で、幼馴染に同じ名前の少女が居た。ヤマトはその忘却人が、その転生人なのではないかと疑っていた。
信じたくはない。
転生していると言うことは、彼女が地球で死んでいたと言うことだからだ。
しかし、まだ断定はできない。なので、「彼女のことを知っているかも知れない。」と、ルシナに伝える段ではないとヤマトは判断した。
「…………(今は黙っていよう)。」
ルシナは元気よく馬車に近寄る。
「さぁ。馬車に乗ろう。せっかくだから使わない手は無いよ!」
ヤマトも馬車に近寄ると、手綱に繋がれている馬二頭がジロリとヤマトを見た。
立派な馬だ。かなり大きい。
「ず、随分と立派な馬だな。」
ヤマトがビビってそう言うと。ルシナも意外そうな顔だ。
「これは賓客用の馬車だね。随分と高級馬車を手配したもんだね。ほら、王家の紋章がついているだろう?」
ルシナが指さす。
「?」
ヤマトが馬車の横を眺めていると、水の精霊と思わしき少女の立ち姿と、交差してある剣が刻印されていた。
「これがエルフ王家の紋章なの?」
「そうだよ、王家は水の精霊オンディーヌの加護をうけているからね。」
「へぇ。オンディーヌ・・・・・」
なぜだか、その紋章から俺は目を離せなかった。
「……。」
リリスは無言だ。
「とにかく、この馬車でいけば紋章もあるし王都へはスルーパスだ。さぁ乗って、乗って。ボクが御者をやるよ。」
「馬車を運転できるの?ルシナ?」
「む。バカにしないでよ、翼竜が乗れて馬車が運転出来ないわけないじゃん。」
ぷぅ……と、むくれるルシナ。
美人だけど、かわいらしい仕草にヤマトは笑ってしまった。
「あはは……悪かったよ。乗るよ。」
ヤマト達は馬車に乗り込み、ブルーサファイアへ進むことにした。
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馬車の旅は、快適だった。
車輪に特殊な魔法がかけられているらしく、デコボコ道も難なく進む馬車。
スピードもかなり出ていた。
とても山道を進むスピードではないが、飛ばすルシナ。
さらに数時間もすると、陽がすっかり落ちた。あたりは真っ暗である。
優秀な馬車でも、夜道を進むには道が悪い。
ルシナは、馬車を停めた。
「今夜は、ここで野宿しよう。」
「そうじゃな。賢明な判断じゃ。」
「ここから、王都ブルーサファイアまでどれくらいかかるの?」
リーランが質問をする。すでに、馬車から降りて周囲を伺っている。
しかし、ブルーサファイアが見えてくる様子が無い。
「あと、半日ってくらいかな。明朝に出れば、昼には到着するよ。」
「そうか。」
ヤマト達のエルフ国での初日は、野宿となった。
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