第150話 エルフの国へ ※ 第3章 帰還。完。

「では、一旦ここでお別れじゃ。まことに遺憾じゃが……。」


聖龍は、この世の別れのような表情でそう言った。


ヤマトは苦笑いしている。


「お、落ち着いたら、会いにいくからさ。ね?聖龍。」


「辛いのじゃ!辛過ぎるのじゃ!ヤマト様ぁ!」


泣きながら抱きつく聖龍。


「おわ!?」


何故、聖龍にここまで好かれているのか理由は判らない。


しかし、今回の魔王からの救出劇で、聖龍の好意はさらに高まっているのを感じているヤマトであった。


「会いに来るとかでなく、今度会うときには結婚をするときじゃ!絶対でずぞ~。」


滝のように涙を流しながら、聖龍はそう言った。とても、世界最大の王国の女王には見えない。


実は、聖龍。


龍王国を誰にも言わず飛び出してきてしまったのだ。そのため、龍王国はおそらく大変な騒ぎになっているだろう。


それでも聖龍は、「ヤマト様に着いて行くのじゃ!エルフの国に行くのじゃ!」と、はじめ駄々をこねていたが、ヤマト達の必死の説得により、ここでお別れすることになった。


「次に会ったときには、結婚……。結婚じゃぁぁぁぁ……!」という、セリフを連呼しながら聖龍は去って行った。


まるで、嵐のような聖龍が去って行くと、途端に静かになった。


「静かじゃな……。」


「……だな。」


「うん。静かですね、母上。」


頷き合うヤマト達。


「じゃ、じゃあ。エルフ王国の王都ブルーサファイアまで案内するよ!」


その後、ルシナの翼竜に乗せられて、エルフの国への入り口でもある転移門までき飛んで行った。


転移門は日本で言う鳥居のような形状をしており、石作りで立派だった。


高さは3m以上はあるだろう。


「こ、こんな立派な転移門だったら、発見され易いんじゃないのか?」


ヤマトが疑問に思うのも当然だった。この転移門は、それくらいの威容を誇っている。


ルシナ曰く、ここは結界になっていて普通では発見されないらしい。


「え?そうなの?」


「うん。ボクらエルフは、魔法結界が得意だからね。ここまでに何重にもかけてあるんだよ。」


「でも、そんなの感じなかったぞ?」


ヤマトの言葉を受けて、ルシナが笑った。


「ははは!感じられるような魔法結界は三流だよ。」


リリスの曰く「魔王でもこれを見破るのは不可能じゃ。」とのこと。


リリスが言うくらいだ。エルフはかなり高度な魔法結界技術を持っているようだ。


「ふーん……。」


ヤマトが門の上部を見てみると……。


何か垂れ幕のようなものが下がっている。


(何やら文字が見える……うん?)


『ようこそ!エルフの里へ!!』 って書いてある。


ヤマトは崩れ落ちた。


「おい!秘密にしてるんじゃないのかよ!なんでこんな歓迎してるのよ?」


「結界を乗り越えて辿りついたってことは、友ってことなんだよ。だから垂れ幕。」


当たり前のように言うルシナ。


変に自信たっぷりなため、ヤマトは自分が間違っているような錯覚を受けた。


「そ、そういうものなのか?でも垂れ幕必要ないんじゃ……。」


ヤマトの疑問を無視して、ルシナがその巨石の転移門に近づいた。


左側の石柱にルシナが立ち、何かを見ている。


(……あれは?)


ヤマトが覗き込むと、そこに小さい魔法陣が刻んである。


ルシナは、その魔法陣に向かって詠唱を開始した。


「エルフの永遠なる歴史、そして我が森の賢者たるエルフ族の栄光は自然とともに……。」


ボコ!


ルシナの目の前の魔法陣が凹み、ちょうど手形に窪んだ箇所が発生した。


「ここに手を当てるんだ。そうすれば起動するんだよ。」


そういうとルシナは躊躇わず、そこに手をはめる。


すると……。


ゴガン!


巨石の門が発光しはじめ、門と門のあいだが虹色に変色した。


リリスが興味深そうに門を見つめた。


「ほう。相当高度な転移門じゃなこれは……。」


ルシナが先頭に立つ。


そして、ヤマト達について来いとジェスチャーする。


「ついてきて。」


「そ、その門に入るのか?怖いんだけど。」


「あはは!大丈夫だよ。」


「なんか虹色に光ってるし……。」


「ヤマトは怖がりだなぁ。魔王と戦った男とは思えないよ。」


「そ、それとこれとは……。」


「じゃあ、ボクが先に入るからついてきてよ。」


ルシナは先にその門に入っていった。


スゥー……。


虹色の光に吸い込まれるように消えていくルシナ。


転移門をくぐり姿が消えていったルシナ。


「おぉ!消えた!四次元空間みたい!」


ヤマトは動物型ロボットのアニメを思い浮かべた。


ヤマトの心を読んだリリスが質問をする。


「なんじゃ、そのロボットというのは?」


「青い色の動物型ロボットが、不思議道具ですべてを解決していく話だよ。」


「ほう。」


「大体がダメ飼い主の尻ぬぐいなんだけどね。」


「泣ける話なのか?」


「全然……。いや、映画版は泣ける。」


「それよりもヤマト。オヌシも転移門に入るんじゃ。」


「わ、わかった。入ってみるわ……。」


ヤマトは意を決して門の中に、足を踏み入れる。


ブア!


ヤマトの肌に一瞬何か触れたような気がして、背筋が冷たくなる。


「うわ……。なんだこの感覚!」


一瞬引き返そうかと思ったが、リリスがテレパシーで声をかけてくる。


(大丈夫じゃ、そのまま進め。)


(わ、わかった。)


リリスに励まされ、ヤマトは二歩三歩と目を閉じながら進む。


後方からリーランが続くのを感じる。


やがて、ヤマトの閉じた瞼越しに太陽の光が飛び込んでくる。


「眩し……。」


ヤマトがしかめ面で目を開けると、目の前に広がる空間に驚いた。


新しいステージが、ヤマト達を迎え入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る