第149話 次の旅先

「エ、エルフ王が魔王に狙われる!?」


ルシナが叫ぶ。


リリスは頷いた。その表情は真剣だ。


「そうじゃ。」


「ど、どういうこと!?リリス!?」


ルシナは食い下がる。顔面蒼白だ。


彼女は、エルフ王国ブルーサファイアの国民だ。リリスの発言は見逃せないのだろう。


自らの国に魔王が来るだけでも一大事なのに、王様を狙ってくるというのだ。エルフ人でもあるルシナが慌てるのも無理がない。


「リリス。どうしてだ?ちゃんと説明してくれよ。」


ヤマトが溜息まじりに言うと、リリスは苦笑いした。


「うむ。ちゃんと説明していなかったな。まずは魔族の捕食者について説明しよう。」


「魔族の捕食?」


「そうじゃ。魔族の中で捕食できる種族は限られている。魔人のみだ。」


「…………。」


ヤマトは怒りの表情だが、黙って聞いている。その魔人のおかげで自分の家族が惨殺されてしまったのだ。魔人というワード一つで思うところがある。


リリスは続ける。


「魔族……その中でも魔人は龍人族を捕食する。龍人の心臓は、魔人のステータスを大きく上げる効果があるのも理由の一つじゃ。」


リリスは、次に続けた。


「次に捕食する種族がある…、これは種族というか1人なのじゃ。それは魔王エングルドじゃ。」


「魔王が捕食?」


「うむ。魔王は対象構わず捕食をすることで有名じゃ。じゃが、魔王が好んで捕食する対象は魔力の高い者だ。」


「魔力の高い者……。」


「そうじゃ。魔王の場合、回復が目的じゃ。ステータスアップは望めない。」


「何故だ?」


「うむ。ヤマトよ。魔王の実力は感じたであろう?」


「ああ……、痛いほどに。」


「……ふ。ヤマトは捕食を経験しているので理解できると思いが、捕食とはステータスアップが目的な場合が多い。」


「うん。」


「ヤマト、理解したようじゃの。そうじゃ、魔王のステータスは凄まじい高さを誇っておる。その魔王が、自分より弱者を捕食したところでステータスアップは望めないのじゃ。」


「なるほど……、つまり魔王の”捕食”目的とは弱体化した肉体の回復のみというわけじゃな?」


「そうじゃ、聖龍よ。オヌシはそれで狙われたのだ。」


「……ボクも理解してきたよ。つまり、魔力が高い者を襲って魔王は回復したがっている……。聖龍様の襲撃に失敗した魔王が、次に狙うのは……。」


「そうじゃ、ルシナ。この世界で四番目に強い魔力保持者と言われているのは……、エルフ王じゃ。」


「「「!!」」」


一向の表情に緊張が走る。


「ちょ、ちょっと待てよ。リリス。」


「何だ?ヤマト?」


「四番目って、微妙じゃないか?一番が聖龍?二番と三番は?」


「アホ、オヌシの魔力量は世界いちじゃ。自覚しておらんかったのか?」


「「「え?」」」


皆の視線がヤマトに集まる。


ルシナが震える声で尋ねる。


「ヤ、ヤマトの魔力ってそんなに高いの?」


「高いとは思ってたけど、母上がそう言うってことは……。」


リーランも意外そうだった。


もっと意外そうだったのは、聖龍だ。


「なんじゃ。皆の衆は、ヤマト様の能力を把握しておらんかったのか?ワシは把握しておったぞ。」


この中で、ヤマトの魔力を正確に把握していたのは、リリスと聖龍だけのようだった。


「リ、リリスさん。それでも四番目って意味が判らないよ……。」


「なんじゃ?ルシナ?」


「この世界で魔力量のランキングで言えば、①ヤマト ②聖龍 ③エルフ王じゃない? この三人の他にそもそも誰がいるの?」


「リーランがおるではないか。」


「え!?」


今度は、皆の視線がリーランに集まる。


すると、やはり聖龍が呆れたような声を出す。


「そうじゃ。リリス殿の言うとおりじゃ。何を驚く。」


「うむ。リーランは龍人族だ。現種族の中では最強種族と言えよう。ヤマトは別格だとして、聖龍は龍族のトップだ。この二人以外でステータス優位を誇れるのは、リーランが妥当じゃ。」


「と、ということはリリス、こうなるのか?」


「なんじゃ?ヤマト?」


「①ヤマト(俺) ②聖龍 ③リーラン ④エルフ王……ってこと?」


「そうじゃ。あくまで魔力量じゃからな?魔力量ランキングとでも言えば良いかのぅ?ふはは。」


何故か笑っているリリス。


しかし、冗談ごとでは無い。


「そ、そんな。王様が……。」


ルシナが唖然とするのも無理が無い。


エルフ族と言えば、魔法が得意であり。龍族には劣るものの、魔法種族と呼んでさしつかえない。


そのトップ中のトップである、エルフ王が、魔力量とは言え世界2位から4位に転落したのだ。これは一大事である。


伝説の種族:龍神族との混血種ヤマト。そして、こちらも伝説の種族:龍人族のリーラン。この二人が世界に突然現れたことで、バランスが崩れ始めているとも言えた。


呆気に取られているリーランを放置して、リリスは進める。


「……ということでじゃ。」


「どういうことでだよ……。」


ヤマトがツッコミを入れるが、それも無視するリリス。


「魔王が狙う可能性が高いのは、エルフ王じゃ。何としてもエルフ王を捕食するのを阻止する必要がある。魔王を完全復活させるわけにはイカン。」


「…………!」


一向の行先が決まった。


次の旅の目的地は、エルフの国だった。


皆で旅の経路について相談をはじめたとき、ヤマトの脳裏に「忘却人」の単語が浮かんでいた。


忘却人……。異世界からの迷い人。転生者。


そこに、ヤマトの幼馴染と同じ名前のミヤビ・コバヤカワが居るはずだった。


(ブルーサファイア王国のギリスナールだったっけ。その忘却人が居るのって。もしミヤビの転生者なら……。)


ヤマトは、エルフに行くことへ希望を見出していた。

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