第148話 穴ぐらで話そう
落ち着いたところで、ヤマト達は今後のことについては話し合わないといけなかった。
しかし、ここは魔獣の森。危険な魔物が多すぎる。
ヤマトは唸るように呟いた。
「どこか落ち着ける場所で話したいな。」
すると、リリスが提案してしてくる。
「では、以前の拠点にいけば良かろう。」
「あそこ?でも、かなり遠いぞ?」
「ルシナの翼竜に乗せてもらえばすぐじゃろうよ。」
「なるほど。」
ヤマト達は場所を移動した。
そこはかつて、ヤマトが”拠点”としていた洞窟(穴ぐら)だった。
魔獣の森の入口近くでもあるのでこの辺りは魔獣が少ない、さらに拠点は高台にあるので周囲を警戒しやすかった。
ヤマトは懐かしさで、穴ぐらを見渡す。
「ここなら、魔獣も寄り付かないし。安全だよ。」
聖龍とリーランは、ここに来るのは初めてだ。不思議そうに周囲を見渡している。
「ここは……、どうした訳じゃ。自然に出来たものではなさそうじゃが……。」
聖龍は、ヤマトの”マイ・ホーム”でもある穴ぐらに興味津々のようだ。
「ここは、俺が数年前に使っていた拠点だよ。」
「え!?ヤマト様、ここに住んでいたんですか?」
驚く聖龍。
「ああ……、そうだよ。ここで修行してた。」
「これは、驚きましたのじゃ……。5歳か6歳で、この魔獣の森で生活するとは……。」
「ボクと出会ったのはここだもんね、ヤマト!」
ルシナは得意気だ。
確かに、ここはルシナと出会った場所だ。ヤマトの想い出の場所でもある。
「出過ぎるでないぞ!エルフふぜいが!」
親し気にするルシナに、聖龍は怒鳴った。
「ひ、ひぃ!龍王様!」
怯えるルシナ。
ヤマトは後で聞いたのだが、龍族は世界でも最強種族として名を馳せているだけでなく。身分的にも、非常に高い種族らしい。その王様ともなれば、最高位である。
一介のエルフ軍の兵士でもあるルシナから見れば、一生口を利くことも出来ない相手である。
「ふん!ヤマト様はワシの伴侶となるかた。頭が高いわ。」
ふん!と、鼻息が荒い聖龍。
「せ、聖龍!ダメだよ!ルシナは俺の大事な人なんだから。」
「だ、大事な人……!そ、それはどういうことじゃ。ヤマト様。」
「え……。ポ……。ヤマト。ボクのことをそんな風に……。」
頬を赤らめるルシナと、愕然と膝を落とす聖龍を放置し、今後について会議を開くことになった。
リリスが通常営業で語り出す。
「とりあえず難は去った。魔王を撃退したのは良いが、奴の動向に注意しながら動く必要がある。」
「また、ワシを狙ってくるとかあるのかのぅ?」
ヤマトの腕に抱きつきながら、聖龍が心配を口にした。
先ほどまで落ち込んでいたのに、立ち直りが早い。
「いや。断言は出来んが、それはもう無いじゃろう。」
「どういうことじゃ?」
「そうですよ。母上、魔王エングルドは回復するのに聖龍の血が必要と……。」
皆が首を傾げる。
リリスは何とも言えない表情を浮かべながら、少し間を置いて答えた。
「奴のことは、ワシは良く知っておる。魔王エングルドは、元々ワシの眼じゃ。」
「あ、ああ。それは知っているが……。」
「うむ……。それのせいかのぅ……、何となく奴の考えが読めるのじゃ。」
「えぇ?今回の襲撃は読めなかったのに?」
ルシナが痛いところにツッコミを入れる。
「う……。ルシナよ、話を最後まで聞け。」
「……。」
”ゴホン”と、リリスはわざとらしく咳払いをすると、話を続けた。
「今回、魔王エングルドは、ヤマトのことを”当面の宿敵”と認めた。」
「確かに俺のことを、そんな風に言っていたな……。」
ヤマトは、最後に魔王が残したセリフを思い出しながらそう言った。
リリスは頷く。
「そうじゃ、奴はプライドが異常に高い。そして強い者には、それ相当の敬意を払う。」
「敬意?俺に?」
「そうじゃ、魔王エングルドはオヌシを宿敵と認めた。つまり、ヤマト……。お前は魔王のライバルとして認められたのじゃ。」
「ライバル……。俺はとても……。」
ヤマトは、魔王の強さを身に染みて感じている。何とか戦えていたのは、龍眼の”龍神剣”という剣技と、強さのお陰だ。
自分は、とてもライバルとして認められるような実力ではない。
「……ヤマトがどう思おうが、エングルドはそう思っているはずじゃ。」
「そうね、私もそう思うわ。」
「リーラン。」
「私はエングルドとは、封印結界の中で数千年の時を共にした仲。私も母上と同じ感覚を持っているの。エングルドは、ヤマトの大事なものには手を出さないわ。彼なりの敬意ってやつよ。」
「そ、それで?俺がライバルと認められたとして……。それで何故、聖龍が安全ってことになるんだよ?」
「うむ。ヤマトよ。魔王はお前を認めた。つまり、お前が守ろうとした聖龍については”ライバルを倒してから奪うもの”。そう考えたはずじゃ。」
「……おぉ。何だか、ワシは冒険譚の姫のような立ち位置じゃな!」
「……聖龍よ。実際は、魔王にとってお前は”メインディッシュ”。つまり食料的な立ち位置じゃがな。」
「何じゃ!その役割は!」
リリスと聖龍のかけあいは置いておいて……。ヤマトは続けた。
「つまり……。魔王は俺に義理立てして聖龍を襲わないってこと?」
「そうじゃ。しかし、絶対ではないぞ?これはあくまで予想に近い。それよりヤマトよ……。」
「な、何だよ。リリス。」
「心配するのはオヌシ自身のことじゃ。聖龍を心配している余裕などないぞ?」
「……う。確かに……。それは後で考えよう……。じゃあ、聖龍は国に返しても問題ないな?」
「ワシらと一緒に居るより安全じゃろう。実際に狙われているのはヤマトじゃからな。」
「そうじゃのぅ。ワシも一国の王。龍国を飛び出してきてしまったが故。戻らねばならんしのぅ。そうだ!ヤマト様!このまま龍国へおいでなされ!そこで結婚の儀式を!」
聖龍の言葉を遮るように、リリスが口を挟む。
「いや、エルフの国に行くのが良かろう。」
「な、何でじゃ!」
すると、リリスはルシナの顔をチラリと見てあと、ため息を吐いた。
そしてハッキリと断言した。
「魔王エングルドが、次に襲う者はエルフ王に違い無いからじゃ。」
「「「!!」」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます