第145話 龍眼 vs 魔王エングルド
『どら。魔剣に少しは対抗できるようにしようか。』
魔王が眉をひそめる。
「何?ミスリルごときで小細工しようと言うのか。笑わせる。この魔剣にかかれば、小枝を叩き折るより容易い。」
『……。』
無言の龍眼(ヤマト)は、ミスリル・ロングソードを天に向ける。
『【龍神剣:雷鳴】!』
晴れ渡った空から稲妻が走る。
そして、それは龍眼が構えたミスリル・ロングソードに落ちた。
尋常ではない爆音、雷鳴が轟いた。
「きゃあ!」
「な、何?何?」
リーランとルシナが驚く。
雷が、ヤマトの剣に落ちたのだ。
「ヤ、ヤマトは無事なの!?」
目を凝らすリーラン達。
そして、二人は見た。
金色に光るロングソードを携えたヤマトの姿を。
まるで、剣が光の剣に変化したようだ。
『よっしゃ。これで魔剣にも敵うじゃろう。行くぞ!』
「!」
シュン!
ルシナとリーラン達の視界から、龍眼(ヤマト)の姿が消失した。
「来る!」
次の瞬間、魔王は剣を縦にして構えた。
そして、甲高い金属音が響く。
ガキィン!
金色に光る龍眼の剣と、魔王の剣が鍔迫り合いをしていた。
それはただの”踏み込み”。それだけだった。
数mの間合いを、一瞬で詰めたのだ。
しかも、スキルも身体強化も使わずに……。
龍眼の剣は、電気的な火花を散らしている。
『良く受けたわい!そら!』
そのまま龍眼は剣を押し込む。
「……っく!」
背中がのけぞる。
その姿に、リーランが驚く。
「ま、魔王が力負けしている!?」
魔王の、そのような姿を見るのは初めてのことだった。
片手で城門すら破壊してしまう魔王の怪力は、良く知られている。
魔龍大戦のときなどは、リューグーを素手で捕まえたこともあるくらいだ。
人外の化け物と言うセリフでは、生ぬるいほどの腕力を持った魔王。
それが力負けしているのだ。
驚くな、と言うほうが無理がある。
しかし、その超怪力であるはずの魔王が押されていた。
「……っ!」
たまらず魔王は跳躍して、空中に逃れる。
上空に距離を取ろうとする魔王を見上げる龍眼。
「まずいわ……。距離を取られると魔法で……。」
リーランが警鐘を鳴らそうとしたときだった。
『逃がさんわ!』
龍眼は、剣を地面に突き刺す。
「な、何を……!?」
ルシナとリーランが驚く暇もなく、龍眼が技を披露する。
『【龍神剣:飛龍剣】!!』
地面に刺さった剣から大爆発が起きる。
ドゥン!!
その爆発に乗り、龍眼は飛翔した。
「と、翔んだ!?」
ロケットのように飛翔する龍眼。
多少、強引な飛翔方法だが、そのスピードはバカにできない。
グングン空を駆けのぼる。
しかし、直線的な動きは魔王への軌道から少しずれていた。
「ふはは!馬鹿者め!そのような飛翔があるか!」
魔王が笑うと、龍眼は剣を左に向けた。
『よっこいせ!【龍神剣:飛龍剣】!』
空中で大爆発をする龍眼の剣。その爆発により、空中で軌道が変わる。
そして、そのまま魔王に追いすがる龍眼。
「何だと!?バカな!?」
さすがの魔王も仰天していた。
まさか、剣技で空を飛ぶわ、起動を変えるわ……。無茶苦茶であった。
『追いついたわい!』
ガキィン! ガキン!
そして、いつしか空中で魔王とヤマトが斬り結んでいた。
空中戦が始まったのだ……。
「す、すごい……。凄すぎる……。」
「翼竜だって、あんな空中戦は出来ないよ。」
ルシナとリーランが、ただ茫然としていると。
剣の応酬は10分以上続いた。
剣では敵わないと思ったのか……、魔王が魔法を使おうとする。
「このガキがぁ!黒き炎よ……!」
しかし、それをさせまいと龍眼が猛攻撃をしかける。
『させるかよ!吾輩は、魔法はそれほど使えんしなぁ!』
剣を下段に構えると龍眼。
そして目をカッと開くと、龍眼は上段に剣を構え直す。
『【龍神剣:流星】!!』
魔王の上から、剣を振り下ろすと。剣がいくつもの刃に分裂する。
「!?」
魔王はとっさに魔王発動を中止して、防御の態勢に切り替える。
ザァ!!
千を超える刃が、魔王の頭上から襲いかかる。
「ぐああ!!」
避けきれないのか、数十の剣を受けてしまった魔王。
そのまま……地面へと墜落していく。
『ふははは!待て待て!』
墜落していく魔王を追う龍眼。
その表情は楽し気だった。
ルシナとリーランは、瞬きする間にシーンが変わることに驚き通しだ。
ドン!
魔王は、何とか地面に着地する。
そして、悔し気に上空を睨む。そこには龍眼(ヤマト)が迫っていた。
ガキィン!
龍眼の剣が、魔王の剣と交わる。
「ぬぅ!?」
まだ魔王は力負けしているのか、押し込まれている。
地上戦に戻った二人。
『そら!そら!そら!』
龍眼の目に留まらぬ連斬撃が始まった。
ギン!ギン!ギン!
周囲にある木々などは、魔王たちの剣の応酬で吹き飛ばされ。剣風で周囲の風が巻き取られ、龍眼と魔王を中心として台風の目と化す。
烈火の如く……。その言葉が適切な攻撃を繰り出していた。
為すすべも無い魔王。
完全に龍眼は、魔王を手玉に取っていた。
「く、くそ!力さえ回復していれば!回復していれば!」
悔し気に叫ぶ魔王。
しかし、それを聞いて龍眼が攻撃を緩めるはずもない。
このまま龍眼1人で勝利してしまいそうな勢いだ。
「あ……ああ。あ、あれがヤマトなの?」
「ち、違うわよ。ルシナ?あれはヤマトではなく、龍眼の力よ。」
「そ、そうか。」
二人とも呆気に取られている。
龍眼は、元は龍神国の王様だと聞いていた。それが、ここまでの剣士だとは予想外だ。
『ふん!トドメじゃ!龍彷徨刃!!』
雷鳴が轟き、魔王を銀色の龍が襲う。
直撃……。
雷のような一撃を魔王に加え、左肩から右下に強烈な斬撃が走る。
「ぐあぁぁ!!」
胸に裂傷を負った魔王が、そのまま吹き飛ぶ。
木々を薙ぎ倒して10mほどで、魔王は止まった。
シーン……。
リーランとルシナは、ただ茫然としていた。
あれほど圧倒的な力を見せていた魔王を、龍眼はさらに上の力でねじ伏せていたのだ。
驚愕……。戦慄……。
どう表現すれば良いのだろうか。
伝説の龍眼族の力をまざまざと思い知らされた気分だ。
・
・
・
しかし、2人は知らなかった。
状況はそれほど、良いものでは無いことを……。
・
・
・
『はぁ!はぁ!ど、どうじゃ!』
龍眼は、剣を振り抜いた姿勢のまま息切れをしていた。
ふと、自分の太ももを見ると微かに震えていた。
『チッ!』
舌打ちをする龍眼。
今のところ押してはいる。
普通であれば、このまま勝てるはずだった。
魔王は数%の力しか発揮できていない。龍神王たる自分の剣技と、力をもってすれば勝てるはずだった。
自分の肉体であれば……。
しかし、今操っているのは10歳の少年の肉体。
そろそろ限界が近いことを告げていた。
(いかん……小僧の体にガタがきておる。吾輩の剣技に、小僧の肉体がついてきておらん。)
憑依により、無理やり龍眼の剣技を借りている訳だが、ヤマトの肉体がその負荷に悲鳴を上げていた。
(このままでは、小僧の体が壊れてしまう。ぬぅ……引き際か。)
龍眼は、これ以上の戦闘は難しいと判断していた。
しかし、だからこそ必殺の技で臨んだ。
結果は、先のとおりだ。魔王は斬撃を喰らって吹き飛んだ。
さしもの魔王も無事ではいられないだろう。
『直撃したのだ。魔王とて…。」
そこまで言いかけて、龍眼は固まった。
土煙の中、人影が見えた。
『な、何と……。』
その人影は魔王だった。
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