第141話 再会と対話
「待たせたな、聖龍。」
しかし、ヤマトはすぐに苦悶の表情を浮かべた。
「ぐ……。」
「ヤ、ヤマト様!?」
「かっこよく助けに来たかったんだけどな……ごめん。」
「ヤマト様?」
聖龍はヤマトの言っている意味が分からず、視線をヤマトの背中に向ける。
聖龍がヤマトの背中を見ると、魔王の黒炎がヤマトの足元から背中にかけて重傷を負わせていた。
聖龍は理解した。
ヤマトは聖龍の盾代わりになり、背中で炎を受けていたのだ。
「何ということじゃ!ヤマト様!」
「ぐ……聖龍……。に、逃げろ……。ウォーター・ダンス・スネーク(水舞蛇)!」
ヤマトの足元から、水の蛇が湧き立つ。
その蛇が、魔王の闇の炎と絡み合う。
ジュワ!!
一瞬で、ヤマトの水蛇は蒸発してしまった。
そして再び、闇の炎がヤマトの背中を焼く。
「ぐああぁ……。逃げろ、聖龍!」
焼かれたまま、苦悶の表情のヤマト。
せめて聖龍を逃がそうとしている。
聖龍は立ち上がると、すぐに魔法を発動した。
「今、火を消しますぞ!ホワイト・ピュア・フレイム(白き浄火)!」
聖龍に力は残されていなかったはずだが。
最後の力を振り絞り、ヤマトを襲う炎を消した。
「はぁ……はぁ!…。ありがとう。聖龍。」
炎が消えると、ヤマトはガクリと膝をつく。
「ヤマト様!ヤマト様!。」
涙で顔を濡らしながら、ヤマトの名前を叫ぶ聖龍。
「う、うぐ。何してる……聖龍。お前だけでも逃げろ。」
聖龍を引き離すと、背中に彼女を庇い。
なんとか立ちあがるヤマト。魔王エングルドと対峙する。
聖龍はヤマトの背中をみて青ざめる。
「あぁ……。」
ひどい傷だ。
「……。」
魔王は突然現れた男に興味を持ったらしく、しばらく攻撃を止めていた。
「ほう……お前は誰だ?数%ほどの力しか出せないとは言え……我の炎を受け、立っていられるとは。それに魔物のスキルを使ったな?興味深い。」
「こ、これで数%かよ……。ぐ……。」
ヤマトが憎々し気に呟く。何とか戦闘態勢を取ろうとするが、背中の傷の痛みで集中できない。
「見れば、まだ子供ではないか……。大した子供だ。我は魔王エングルド。名だけ聞いておこう。」
すると、ヤマトは魔王を睨む。
「俺の名前はヤマト。魔王だか何だか知らねーが。聖龍はやらせない。」
ギン!っと魔王を睨むヤマト。目だけは爛々と光を失っていない
「ヤマト……。聞いたことがあるような名前だな。その強気……。誰か仲間でも待っているのか?」
魔王エングルドは周囲が気になったのか、一瞬目を離した。
するとエングルドの背後から、リリスが怒鳴る。
「エングルド!!そこまでじゃ!。」
その声の方向をみて魔王が驚く。リリスを見て、目を見開く。
「ほう……。やっと会えたな。リリス。」
「…………。」
「我が復活した直後、お前の顔を見た気がしたのだ。探したぞ……。」
「ふん。ワシの顔を忘れられないようじゃな。」
軽口をたたくが、リリスは焦っている。これは虚勢だ。
「しかし、奇妙な……。あの時殺したはず。どんなトリックを使ったのだ?」
魔王はすぐに無表情に変わる。どんな感情を抱いているのか伺い知れない。
「…………さぁてな。」
一方、リリスは背中に冷たい汗をかいていた。
(出来る限り時間を引き延ばすのじゃ……。チャンスは来る……。)
確かに、エングルドは弱っている。最盛期の面影すらない。
一番良い手は、このまま聖龍を見捨てて逃げることだ。
リリスは、チラリとヤマトを見る。
ヤマトは、聖龍を背中に庇い。戦闘態勢を取ろうとしている。
ヤマトの性格上、聖龍を見捨てるとは思えない。
(まったく……。)
長くリリスはヤマトと時間を共有しているが、ヤマトの性格を熟知していた。
ヤマトは女性や子供を見捨てられない性格だ。ましてや、聖龍とは縁がある。
絶対に逃げないだろう。
「答えろ……、リリス。お前は死んだはずでは?。」
魔王はイラ立つように、再度同じ質問をしてきた。
(ふぅ……ヤマトにも困ったもんじゃ。)
気が弱いところがあるのに、弱者を見捨てられない。
そんな性格をリリスは好ましく思っていたが、その性格は、ヤマト自身の命を危険にさらしていた。
リリスは魔王と問答することを決めた。
「さぁ?こうやって縁あっての。ここに立っている。」
とぼけるリリス。
「むぅ……どういうわけだ。まぁ良い、調べてやる。」
魔王はリリスを睨む。そして魔王の眼が怪しく光る。
「ぬ?魔眼ソウルハントか……。」
魔眼:ソウルハント
魂の性質をスキャンし、その者の性質を見極める能力を持つ。魔王エングルドが強い理由の一つとして、相手の弱点を見抜く力を持っているからと言われている。
暫くにらみ合いが続いていたが、リリスに魔眼を止める術はない。
やがて合点が言ったかのように、魔王は笑った。
「ふ……ふはは!死んでおるな。たしかに死んでおる。この死霊めが、化けて出てきたか。そして、その男に憑りついておる。」
すぐにリリスが、魂として存在しているだけの存在ということを見抜いたようだ。
「死霊とは失敬な奴じゃ……それに憑りついておらん。」
「……。確かに、今のお前はおかしな状態だ。その男と魂が同じオーラを放っておる……。その男はお前の子孫か何かか?。」
「ワシは生涯独身よ。」
魔王エングルドは顎に手をおいてリリスと、ヤマトを交互に見た。
「そこの男は龍人族なのか?ヤマトとか言ったか。」
「答える義理はない。」
ぴしゃりと言うリリス。
そのとき、現場にリーランが到着した。
「はぁ。はぁ。ヤ、ヤマト。追い付いたわ。」
状況を見渡すと、ヤマトが傷を負い。リリスが魔王の前に立ちはだかっている。
「ま、魔王!。」
ギリっと憎々しげに魔王をにらむリーラン。
魔王はニヤリと笑った。
「ほう……リーランも来たのか。ククク……良い良い。今日ここで一気に始末してやる。」
魔王の背中から、魔力が立ち上る。
リリスが、横目でリーランに合図を送る。
(いまは、時間を稼ぐ。早くヤマトを治療するのじゃ)
(わ、分かりました。)
「待て。エングルド。オヌシ……。此度の復活とヤマト。それに神がかかわっているのを知っているのか?」
「何……?」
今にも飛び掛からんとしていた、エングルドの魔力は収束するのを感じる。
(かかった……。少しでも時間を……時間を稼ぐのじゃ。)
時間を稼ごうとするリリス。
それは延命でしかないと言われればそれまで。
しかし、リリス達には作戦があった。
龍眼が提案する作戦が……。
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