第132話 復讐の誓い
「り、リーラン!治癒魔法を!治癒してくれ!」
狂ったように叫ぶヤマト。
リーランは詠唱準備を進める。同時に、リリスに対象が生きているかの確認依頼をした。
死人に治癒魔法は無意味だからだ。
「母上!確認をお願いします!」
「……っ!分かった!」
リリスが直ぐにマリーシア達の脈を確認する。
まだ生きている可能性に賭けたのだ。
「ど、どうだ?リリス?生きてるよな!な?」
しかし、それは絶望を知らせるだけだった。
首を振るリリス。
そして、苦しげに宣言する。
「残念じゃが、すでに……。」
ヤマトは、口を開くのがやっとだった。
「……そ、ん、な。」
ヨタヨタと、マリーシアの遺体のそばに歩いていくヤマト。
「ヤマ……。」
リリスはそこまでしか声を出せなかった。ヤマトを止める術を持たなかった。
マリーシアの遺体の横に立つヤマト。そして、ヤマトは、マリーシアが抱え込んでいる小さい女の子を見た。
「母上……その子が妹?俺の……?」
ヤマトは血だまりの中に膝を着いた、そしてうつ伏せに倒れているマリーシアの遺体に手を添える。
「母上……。帰ってきたよ。母上……。僕です。ヤマトです。」
「ヤマト!」
たまらずリーランが駆け寄ろうとするが、リリスが制止する。
「こ、こんなことって……。」
目に涙を浮かべてルシナは、ヤマトの背中を見詰めていた。
「ヤマト……。どうしてこんな……。」
リーランも口元に手を当てて涙を流しながら震えていた。
ヤマトは、マリーシアに語りかける。
「母上。ごめんなさい……。僕、母上の手を叩いてしまったことを後悔していて。ずっと、謝ろうって……。」
ポタポタと、涙でヤマトの顔が濡れていく。
「父上。ごめんなさい。僕は悪い子でした……。ちゃんと言うことを聞けないで、ちゃんとした息子になりたかった。」
「ヤマ……ト。」
リリスは「たまらない」という表情で、ヤマトの肩に手をかける。
「俺の妹……、その子が妹なんだね。はじめまして……ヤマトだよ?俺がお兄ちゃんだよ………。名前、名前を知らないんだ。ごめんね、ダメなお兄ちゃんで……。」
そして、ヤマトは家族に言いたかったことを最後に告げた。
「母上、父上。ありがとう。こんな僕を育ててくれ……。僕は…幸せで……。くっ」
ヤマトの声はそこで途切れた。
「ヤマト?」
リリスとリーラン達は、血の涙を流しているヤマトを見た。
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ヤマトが泣き止むまで、3名は辛抱強く待った。ヤマトは泣き止むと、そのまま皆に振り返った。
「弔わなきゃ……。手伝ってくれるか?」
その時のヤマトの表情は、今まで見たこともないくらい。青ざめていて、そして絶望に満ちていた。
リーランが「このままヤマトは死んでしまうのでは?」と、不安になるほどに、その表情は絶望に満ちていた。
3名は遺体を丁寧に扱い。庭先に並べた。
ヤマトは率先して、遺体の血を洗い。そして清めた。
葬式をしてあげたり、そのために棺桶を用意する必要がある。
しかし、それを用意している時間は無かった。
このまま村の者たちが起きて現場を見た途端に、ヤマトが殺人犯になるのは火を見るより明らかだからだ。
親不孝者と言われるかも知れないが、ここから直ぐに離れる必要があるのだ。
ヤマトもそれは理解している。
しかし、息子として……。最後に息子として、両親と妹に何かしてあげたかった。
ヤマトは、ふと庭先にある木に手をかける。
「いつも、そうなんだ。」
「ヤマト?」
リーランが心配そうにヤマトの横に立つ。
「いつも、そう。俺を愛してくれた人は、奪われる。前世でも大好きだった両親は事故で死んだ。そして、今も…。」
『イエンムトよ…。』
龍眼は何か言いかけたが、無言を貫いた。
「いつも、いつも、いつも、いつも!いつも奪って行きやがる!俺から大事なものを!!くそ!」
ガン!
ヤマトは木に自分の頭を打ちつけた。
「何故奪う!両親は善良な人だった!何故死ななきゃならない!何故!」
ガン!ガン!ゴン!
何度も頭を打ちつけるヤマト。
リーランが止めに入る。
「やめなさい!ヤマト!」
後ろから、抱き止められながら。ヤマトは泣く。
「俺のせいだ。俺が魔族に狙われていたから。俺が家族を殺したんだ!俺が!」
リリスは叫んだ。
「それは違うぞ!ヤマトのせいではない!オヌシは精一杯、家族を守ろうとした。守るために家を出た!」
「その結果がこれだ!」
ヤマトは、庭先に物言わぬ人となっている三人を指差した。
「妹はまだ4歳だ!死ぬような歳じゃない!俺は妹を、こんな小さい妹も守れなかった!」
「ヤマト……。」
血を涙を流すヤマトに、リリスはそれ以上何も言えなかった。
庭先でルシナが不思議なものを拾った。
「紋章……?魔族語?これ……。」
拾ったものは、手のひらに収まるプレートだった。魔族語で、何か書いてある。
それを何気なしにリリスに渡した。
そのプレートを覗き込むリリス。
「これは……魔族語じゃな。ふむ……。」
「よ、読めるのですか?母上……?」
「ああ。読める。……ベルゼブブ軍 近衛兵長ラスター。ラスターじゃと!?」
「し、知っているのですか?母上!?」
「良く知っている。魔王ベルゼブブの腹心じゃよ。すさまじい強さを持つ魔人じゃ。」
「そ、そいつがヤマトのご家族を殺したんだね!」
ルシナが憎しみを込めた声色で、そう断定した。
「魔人ラスター……。」
ヤマトがその名前を確認するように呟く。
「ヤマト……。」
リリスは何をヤマトに言ってあげるのが適切なのか、判断が出来ないで居た。
「ラスター。そいつが母上達を……。」
ルシナは、そのプレートをヤマトに手渡す。
「ヤマト……。」
ヤマトは、そのプレートを握りしめながら宣言する。
「殺す……。このラスターが俺の家族を奪った奴だ。どこまでも追い詰めて殺してやる……。」
ヤマトの表情は悪鬼と化していた。
リリスは、ヤマトにかける言葉が見つからない理由を悟った。
「ヤマト。オヌシ…。」
「殺す!!地獄の苦しみを与えてやる!ラスターだけじゃ無い。魔族は皆殺しにしてやる!そのためなら、この命くれてやる!」
ヤマトの中で何かが壊れたのだ。
すでにヤマトは居ない。
あの明るく。穏やかな性格のヤマトは死んでしまった。
ここに居る家族達と一緒に死んでしまったのだ。
そこに立っているのは……。復讐の鬼と化した男の姿だった。
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