第131話 ヤマトの帰宅

「あの……ルシナ……。」


ルシナのネーミングセンスに俺がツッコミを入れようとしたが、リーランに止められた。


「ヤマト、乗せてもらうんだから止めなさい。」


「……うん。」


しばらく、すると翼竜が空から舞い降りてきた。


バァサ!バァサ!


「うわ!」


風圧で、俺達は吹き飛ばされるんだじゃないかって思った。凄い迫力だ。


目の前に立つ、翼竜。


「で、でかい……。」


俺は間近で見たのは初めてだったのだが、翼竜の大きさと迫力に圧倒された。


茶色の鱗に大きな翼。口は尖っていて獰猛そうだ。


ギロリ……。


俺を睨む翼竜。


(こ、これに乗るの?大丈夫なの?)


俺がビビっていると、翼竜が俺に顔を舐めた。


ペロ!ペロ!


「うひゃあ!」


「あ!」


驚くルシナ。


そして、翼竜は俺の頬に顔を寄せて子犬みたいに鳴いた。


「キュイーン……。」


「え……え?」


何これ。外面とギャップがすごいぞ。


「キュイーン……。キュイーン。」


ちょっと可愛いじゃないか。翼竜、好きになれそうだぞ。


「こ、こんなことってあるの?ボク信じられないよ。」


俺はルシナが何故、そこまで驚くのか意味が判らずに首を傾げる。


「何で?翼竜が懐くのって稀だったりするの?」


「あ、あのね。ヤマト。翼竜は絶対主人以外に懐かないんだ。それにさっき、顔を舐めたでしょ?」


「うん。」


「あれって服従の証でもあるだよ。」


「ふ、服従……。」


リリスに助けを求めたが、リリスも首を傾げていた。


「ふむ。不思議なこともあるもんじゃのぅ。」


「せ、聖龍の加護のおかげとか?」


リーランが横から首を出して、俺の意見を否定する。


「違うわよ。ヤマト。加護にそんな効果ないわよ。あれは竜相手への攻撃と防御の効果向上と、遭遇率加減でしょ?」


「ま、まぁ。好かれたってことだよね。それなら、それで良いことじゃん?」


俺が無理やりまとめようとすると、ルシナも同調した。


「う、うん。とりあえず乗って。カタナール村まで6時間もあれば到着するよ。」


こうして、俺達は翼竜に乗り込み。カタナール村にショートカットで向かえることになった。

そして、何事もなくカタナール村に到着した。


翼竜の乗り心地?


うん……。最悪だった……。


ケツは痛くなるし、急降下の度に死にそうな浮遊感で怖いし。


(二度と乗りたくない……。景色は最高だったけどね……。)


とにかく!俺達はとうとうカタナール村に到着した。



「やっとだ……、やっと帰ってきた……。」


俺はカタナールの入口にある広場に立ちながら、感動に打ち震えた。見るものすべてが懐かしい。


「さぁ、ヤマト。お前の家の場所は覚えているな?」


「当たり前だよ。」


俺は駆け出しそうになるの必死に抑えながら、自宅への道に一歩踏み出した。


後ろを振り返ると、そこにはリリス、リーラン、ルシナが着いてきていた。


(ルシナ……お前。着いてくるんかい。)


素朴なツッコミを入れながら、俺は進む。


考えてみれば、凄い光景だ。美少女3名が、ゾロゾロと俺の後ろついてくるのだから……。


幸い、時刻も明け方のため。誰も村の外には出てきて居ない。


(そ、それはともかく……。)


俺の足は最初早かったが、徐々にスピードダウンしていく。


何だか怖かった。


本当に両親は、まだこの村に居るのだろうか……。俺のことを受け入れてくれるのだろうか?


そんな根拠の無い不安が、俺の胸に広がっていく。


(そ、早朝から失礼かな?じ、実家に帰るの明日にしようかな……。)


その時、リリスが叫んだ。


「おぉ。見えてきたぞ。」


「!!」


俺は視線を上げると、そこには懐かしの屋敷があった。


「……お……俺の家……。」


屋敷までは300mほどあるが、うっすら見える屋根は間違いなく。俺の実家だ。


俺は、そこで立ち止まってしまった。


「へぇ。あれがヤマトの家。早く行こうよ。」


ルシナがせっつくが、俺は立ち止ったままだ。


立ち止まる俺に、リーランとルシナが不思議そうな顔をする。


「ヤマト?」


「どうしたのじゃ?ヤマト?」


「………。」


足がもう一歩踏み出せない。怖いのだ。


自分の家、実家だ……。


しかし、5年の月日と最後の別れから、何だか気恥ずかしさがある。


自分は血のつながっていない養子である。マリーシアとリカオンには、すでに4歳になる娘がいるだろう。俺のことを本当に受け入れてくれるのだろうか……。


「ヤマト……」


リーランが、俺の肩に手をおく。


「……!」


驚く彼女。


ブル……ブル……ブル……。


「ヤマト、あなた震えて……。」


魔物にも立ち向かっていく男である。まだ10歳とは言え、数多の苦難を乗り越えてきた男だ。そのヤマトが、「家に帰る」という行為に震えているのだ。


リーランは、ヤマトが心底怯えていることを悟った。


「ヤマト……」


「ヤマト……」


リリスやルシナも、そんなヤマトを優しい目で見つめる。


1分ほど待ったあと、リリスがヤマトに声をかけた。


「ヤマト……、行かんのか?」


すると、ヤマトはリリスの顔を見つめながら苦笑いを浮かべた。


「リリス。俺は……俺は……。母上に会って謝りたい。あの日のことを謝りたいんだ。」


「うむ。そのために帰ってきたんじゃろう?」


「母上にも父上にも。俺は二人の子供だって胸張って言いたいんだ……。二人を心から愛しているって……。でも、怖いんだ。」


「怖い……?」


「ああ……。もし、もしだ。凄く迷惑そうな顔をされたらどうしよう、俺なんかいらないって言われたらどうしよう……。」


「馬鹿な…。あの両親がそんなことを言う訳ないじゃろうよ。」


「それは5年前の話だろ。気が変わって……」


そこまで言うと、声が聴こえた。


『小僧。何かおかしい。早く家に行ってみろ。』


龍眼だ。


「龍眼?どうした?」


『あの家から魔のオーラを感じる。』


「何!?」


『大事な家族がいるのであろう?急いだほうが良い。』


「わ、分かった!」


俺は、先ほどまで躊躇っていた気持ちを忘れて走り出した。


驚くリリス達。


「ヤマト!?」


「もう!急に!」


「決意したんだね!ヤマトぉ。待ってよぉ。」

3人がヤマトに追いついたときには、ヤマトはすでに家の玄関を開けていた。


ノックもせずに中に入っていくヤマトに違和感を感じる3名。


「ど、どうしたんじゃ。ヤマトの奴……。」


「さ、さぁ?判りません。」


そして、リリスがまずヤマトの背中に追いついた。


「はぁ……はぁ……。ヤ、ヤマト。どうしたんじゃ一体……。」


ヤマトは、すでに家のリビングまで入っていた。そして、何やら立ち尽くしている。違和感を感じるリリス。


ヤマトの横に立ち、ヤマトが見ているものを見定めようとした。


「ヤマト……。何を見てい……。」


リリスは、そこまでしか言葉が出てこなかった。


リーランやルシナも、追いついてくる。


「も、もう!ヤマトったら。急に走……え……?」


「リーランさん?リリスさん?」


ルシナも。リビングにある”その光景”を見て固まる。


そこには、血だらけで倒れているマリーシア、リカオン。そして幼い少女の遺体があった。


ヤマトは震える声をやっと絞り出した。


「は、母上……?父上……?」

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