第127話 リミッター

リーランが思い詰めたように、答えを待っている。


龍眼の答えはこうだ。


『いかにも……。ヤマト・カリアースは、小僧の数世代前の魂だ。』


リーランは、龍眼の声を聴くことは出来ない。


「それは確かなのか?」


俺が代わりに確認をする。


『間違いない。吾輩は転生の度に、イエンムトと共にあった。かのカリアースは、7世代目の”ヤマト”だ。』


「な、7世代?」


『いかにも……。先に言ったとおり、イエンムトが死んでから、何度も転生を繰り返している。カリアースは、その7世代目にあたる。』


無限ループかよ。それキツいな。


「ちょ、ちょっと待て。じゃあ、神崎龍二のときは?俺は地球という星に居たんだけど。」


『それは11世代目だ。』


「でも、捕食なんてスキルは発動しなかったぞ?」


『地球や物理法則に縛られている世界では、スキルや魔法は発動しない。ちょうど9世代から11世代までは、地球での転生を繰り返していた。』


「……カリアースのときには捕食スキルはあったんだな。」


『うむ。カリアースは皆と同じであることを望んでいた。しかし、神龍大戦や魔龍大戦時に、捕食をせざるを得ない状況に追い込まれていた……。誰も知られずに捕食を繰り返しておった……。見ていて辛い人生であったな。』


「判った……。一旦、リリス達に伝えるよ。」


『うむ……。』


俺はここまでの話を、リリスやリーランに伝えた。


「……まことか。」


「……っ!」


驚くリリス。そしてリーランは泣き崩れてしまった。


「カリアース……。彼は秘密が多かった。捕食をするときには痛みが襲いかかるんでしょう?彼は優しい人だった。きっと、知られたら同じ生活が出来ないと不安に思っていたんだわ……。」


俺は黙ってリーランの言葉を聞いていた。


「カリアースは、いつも何かに悩んでいた。今分かったわ、彼は捕食をすることに苦しんでいたのよ。強くなければ、子供達を守れない……。だから、誰にも知られずに捕食を繰り返していたのよ。うぅ。何て可哀そうなカリアース。私が早く理解してあげていれば……。カリアース!う……うぅ。」


声を押し殺して泣くリーラン。


リリスはリーランの肩を抱いた。


「リーランだけのせいではない。ワシもカリアースの秘密に気がついてやれなかった。ワシも同罪じゃ。奴の力の強さに頼り続けていた。それをカリアースは責任に感じて捕食を……。何と罪深い人生を歩ませてしまったのじゃ。」


どうやら、二人ともカリアースの捕食スキルのことを知らなかったようだ。


無敵の強さを手に入れていたカリアース。


しかし、彼は捕食を望んでしていた訳では無かったようだ。


戦争で皆を守るため、子供達を守るために捕食を繰り返していたのだろう。


(俺は……、まだマシだな。)


俺にはリリスが居た。いつでも横にリリスが居て、辛いことも悲しいことも共感してくれる人が居た……。


しかしカリアースは孤独だっただろう。


俺は1人で捕食を繰り返すことが出来ただろうか?


否……。


絶対無理だ。精神が崩壊してしまう。


捕食は想像を絶する痛みとの闘いだ。それを自ら繰り返していくなんて、拷問以外の何ものでもない。


龍人族を……。世界を守ろうとしたカリアースの壮絶な人生を垣間見た気がした。


「…………。」


俺は振り返り。天を仰いだ。


自分の前世とは到底思えない。


しかし、他人ごとと思うことも出来ない。


(俺は……。俺はどうなってしまうんだろうか。)


この先の不安を抱えながら、俺達は夜を過ごした。

その日の夜。俺達は重い空気の中、夜を過ごした。


「………。」


「………。」


やがて、リリスとリーラン達の寝息が聞こえてくる。


俺は、野営の見張りをしている。


このタイミングで、龍眼が語りかけてくる。


『落ち込んでいる暇はないぞ。吾輩がこれからお前を強くしていく。毎晩、訓練をする故、時間を作ってくれ。』


「訓練?何の?」


『吾輩は魔眼であり、お前を導く存在だ。お前は気がついていないが特殊な力を持っている。それを使いこなす訓練。』


「特殊な力?捕食スキルなら使っているよ。」


『それは一部だ。ヤマトよ、歴代の転生者達は、誰一人として力を使いこなしては居ない。』


「何それ?カリアースは歴代最強だって聞いてるぞ?」


『いや、カリアースは良い才能を持っていたが、適性が足りなかった。』


「……。リリスやリーラン達の話では、神を圧倒していたって。」


『ふ……。はじまりの精霊は神や悪魔をも喰らっていた最強の霊魂だぞ?お前は、その血を引いているのだ。そんなレベルで収まる魂ではない。』


「…………。」


俺は呆気に取られていた。とても受け入れられる話ではない。


『どうした?』


「悪いけど、見込み違いだよ。俺は魔法適性が1つしかない。歴代転生者たちの中でも”落ちこぼれ”だ。」


あまり口に出したくなかったが、魔法適性の”身体強化”は、魔法使いの中では”ハズレ適性”と呼ばれている。リリスは「気にするな。身体強化のみでも極めれば強くなれる。」と、言っていたけど……。


この適性だけで、俺が神や悪魔と渡りあっていくとは思えない。


今だって、逃げることで精いっぱいだ。


『落ちこぼれ?ふはは。逆だ。ヤマトよ。お前は歴代でも最高の魂だ。』


「でも……、俺は魔法適性が少な……。」


『当たり前だ。リミッターがついているからな。』


「……リミッター?」


『そうだ。お前は赤子のときから膨大すぎる魔力を持っていた。それをセーブするために自らリミッターをかけているのだ。』


「……!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る