第125話 龍眼

「目が覚めたか……。どうじゃ?具合は?」


心配そうに俺の顔を覗き込むリリス。


「……っ。」


リリスの美しい顔がクローズアップだ。俺は訳もなく、顔が紅くなるのを感じた。


「どうした。顔が赤いぞ……。やはり調子が……。」


「そうですね!ヤマト……!横になってて!」


俺は慌てる。


「も、問題ないよ!寝ぼけていただけだ。それより昨日……。あれは夢だったのか?」


俺は事実確認をしたかった。いったい何が起きたのだろう。夢にしては、やけにリアルだったような気がする。


俺は左瞼を無意識に押さえた。


「いや、あれは事実じゃ。古龍が出現してオヌシは左目を失った。そして、古龍は消えてしまった。一瞬じゃったよ……。」


「でも、見えてるぜ?失ってないんじゃないか?」


すると、リリスがリーランに向かってコクリと頷く。リーランはテントの奥にある小瓶を取り出してきた。


「瓶?何?ポーションの空き瓶?」


俺は首をかしげていると、リーランが俺の目の前に瓶を、中身がよく見えるようにしてきた。


「ほら、ヤマトの眼はここに。」


すると、ホルマリン漬けにされたかのような、眼玉がプカプカと浮かぶ中身が確認できた。


「うげ!!」


「ね?ヤマトの目はここにあるのよ。」


「わ、わかった……!しまってくれ!!」


リーランは頷くと、「一応”ディメンション・ボックス”でしまっておいたほうがいいわよ」と、アドバイスをくれたので、しまっておいた。


俺は左眼を押さえながら呻く。


「となると、この見えている俺の左目はなんなんだ?」


首を傾げる。あの銀龍が眼を破壊して体内に入ってきた気もするが、もしかして俺の体内にまだ居る!? キモ!!


俺が身震いしていると、リリスが苦笑いした。


「ヤマト。おそらくじゃが……。あの銀龍は左眼に変化したのじゃ。今見えている眼球自体が、銀龍と言って良いじゃろう。」


「へ……?変化?なら、この眼は何のために……。」


俺の眼は、ボランティアじゃねーぞ。訳のわからない霊体の依り代にされても困る。


「どうも、魔眼を授かったようじゃな。見てみたほうが早いじゃろう、ほれ小鏡で左目を確認してみよ。」


「ま、魔眼!?」


リリスは、リューグーからもってきたのだろう。俺に小さなキーホルダーみたいな鏡を渡してきた。俺は恐る恐る覗いてみた。自分の左目のあたりを……。


すると、俺の左目の色がおかしいことが分かる。

俺の瞳の色はブルーだ。アイカラーはすごく気に入っていた。


しかし……。


今、みてる俺の左目はシルバーだ。


いつもと違う!!しかし、むっちゃ綺麗だ。単純にゴールドというより、少し発光しているような……幻想的なイメージもある。


おおぉぉ、いきなりシルバーとブルーのオッドアイかい……。


青い目と銀色の目。ちょっとカッコいい。


(しかし、このオッドアイはすごく目立つな。俺の容姿と相まって凄く神秘的にみえる、まるでこの世のものではないような……。)


目立つのはカラーだけではないのだ。淡く光っている。ポワーっって感じで。


そして、さらに瞳自体が変なことになっている。何か古代語のような紋様が刻まれているのだ。あきらかに普通の瞳ではない……。


「これは……文字?」


瞳の部分をジーっとみてみると気がつく。


「あれ?この瞳の文字……。俺の左手に刻まれた紋様と似てる文字が刻まれている?」


なんだろ、ジっと見つめないと気がつかないかもだけど、凄く違和感を感じるぞ?  何これ!病気?


「ワシらにも、それが何なのか良く分からん。しかし龍族の伝承にある、龍眼(りゅうがん)というものと酷似しておる。オヌシは古龍に龍眼を授かったのじゃろう……。」


「りゅ……龍眼?何それ?」


「それはね……。ヤマト。」


リーランが優しく教えてくれた。


「伝承によると、龍眼は龍神族の勇者が持つ勇者の証なの」


「そ、そうだ……。その龍神族ってさっきグリーンドラゴンも言ってたな。」


「我ら龍人族と龍族の前にいたとされる伝説の種族じゃな。オヌシのステータスにもある。」


「龍神族(りゅうじんぞく)……。」


読み方は一緒だが、まったく違う種族らしい。


「ワシら龍人族の間でも、龍神族はすでに絶滅しており、「伝説の種族」と呼ばれていたのじゃ。情報はほとんどない。伝承でわずかに伝わるのみじゃ。」


「その伝承の中で、龍神族の勇者が持つものなのか?」


「うむ、それが龍眼じゃ。」


「母上。龍眼は不思議な異能を持っていたとされていますわ、それを制御できると神にもなれると。」


「龍人族伝承にある一節じゃ、龍眼を授かりし者、神と相対する運命。また、光とともに世界を制する力を持つ者なり。」


「世界を制する……。」


俺は、混乱していた。


「グリーンドラゴンは、俺と縁がある魂があるとか言っていたような……。」


リリスは顎に手を当てて同意した。


「そうじゃ。確かに言っておった。それにもともとヤマトの中にある魂が……とか。」


「どういうことでしょうか?母上。」


リーランが、心配そうにリリスに尋ねる。


「判らん……。言葉どおり言うのであれば、ヤマトの中にある銀龍の魂を、左眼に変化させたということであろうが、もっと気になるのは、その魂が龍神王のものだとも言っていたこと……。」


「そ、そうだ。そんなことを言っていた。混乱するな……。」


「ヤマト……。」


落ち込んでいる俺を慰めるように、リリスは俺の肩に手を置いた。


「左目は失ったとはいえ、なんだが紋様つきのカッコいい目を手に入れたので、とりあえず良しとしよう。」


「オヌシ……。前向きじゃのぅ。」

「でも、困ったな。淡く光るし、瞳は紋章みたいだし。これじゃ日常生活に支障が……。」


「ああ、それは眼帯でいけるじゃろ。」


そのときだった……。


突如、左目から脳に声が聞こえた気がした。


『やれやれ。イエンムトの末裔が、こんな能天気小僧とは……。気にするところが、そこか?』


「え?」


俺は振り向いて、野営の準備を進めているリリス達を見つめた。


リーラン達が何か俺に言ったのかと思ったのだ。


「リーラン?何か言った?」


振り返り、リーランは意外そうな顔をした。


「え?何も言っていないわよ?」


確かに聞こえた気がしたのだが……。


俺は胸騒ぎがするのを感じていた。

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