第124話 激痛

龍が俺の眼に飛び込んできた。


「ぐあああ!!」


絶叫し、のたうち回る俺。


「ヤマト!」 リーランが叫ぶ。突然のことに驚いて何もできない。


ズズ……ズズズ……!


眼球がなくなったところに、銀龍がズルズルと入ってくる。スプラッタだ。


その激痛は凄まじかった。


「ぎゃぁぁぁああああ!!」


「この!クサレ龍が!!ヤマトに何しよる!!」


リリスが、入り込もうとしている銀龍を掴もうとするが、すり抜けてしまう。


「あぁ!くそ!なんじゃ!?この生物は!?」


「ギャアアアアアア!」


激痛に、のたうち回る俺。


ズルン!


銀龍は既に俺の眼の中に完全に入り切ってしまっていた。


ブシュー!!


噴水のように真っ赤な血が、俺の左目から噴き上がる。


リーランが慌てふためく。顔面蒼白だ。


「母上!突然ヤマトの目から血が!?」


「リーラン?銀龍がヤマトの目に入っていったのが見えなかったのか?」


「えぇ! グリーンドラゴンなら見えていますが、銀の龍?!」


どうやら、リーランからはグリーンドラゴンは見えているようだが、銀龍が見えていないようだ。突然、目から血を流し、苦しんでいるように見えるのだろう。


「痛い!!痛い!!痛い!!痛い!!痛い!!痛い!!」


捕食の痛みなんて目じゃなかった。脳の中がスパークする痛みだ。


「リーラン!左目じゃ、ヤマトの左目を見てやってくれ!!」


「はい!母上、ヤマト ちょっとゴメン押さえつけるよ!!」


リーランは俺の頭をガシ!と掴み。抑えている俺の手を振りほどいて、左目を見る。そして、絶望のうめき声をあげる。


「ない……ヤマトの目がないわ……何てことなの。」


「どうした!?」


「目が、目がないんです。ヤマトの左目が……これでは私の治癒魔法でも」


「眼球ならばさっき、飛び出しておったわ!早く治癒魔法をかけるのじゃ!?出血だけでも押さえねば。」


リリスは珍しく慌てている。リーランは絶望の声と共に魔法詠唱を開始、そして発動した。


「い、癒しの抱擁……『ラパーマ!!』。」


ズア!!


リーランが治癒魔法を全力でかけはじめる。光の靄が、俺の左眼に集まる。リーランの魔力が俺の傷を癒そうとしているのを感じる。


しかし……。


「ぐあああ!!」


しかし、俺の痛みは一向に収まらなかった。


「は、母上!治癒魔法が効きません!く、私の魔力が吸われる!」


ガクリと膝をつくリーラン。 ラパーマは治癒するまで術者の魔力を吸う。


「イカン!リーラン!魔法を停止しろ!」


「で、でもヤマトが」


「いいから停止しろ!リーランお前が死ぬぞ!」


「く……分かりました」


リーランは青い顔をした状態で、ヤマトへの治癒魔法を解除した。もう少しで魔力欠乏(ソースロス)を起こすところであった。


「古龍め!!なにをしたんじゃ!?」


振り返るが、そこに古龍はすでに居ない。火の粉もなくなり、今は焚火があるだけだ。


「ぐああああ!」


俺は、リーランを振りほどくと地面にうずくまり声を出さずに堪えた。


「み、見守るしかあるまい……。」


リーランと、リリスはヤマトが苦しんでいる姿を、ただ傍観する以外できなかった。

30分経過

「ググググ、ギギギギ。」


俺はいつ痛みが収まるとわからないが、それでも耐えた。


少し痛みが収まり、絶叫を出すほどではなくなってきていた。


(よし、このまま耐えれば収まりそうだ。)


そう思った、その時だった。脳内に声が聞こえた。


『可愛い孫よ……共に龍族の再興を……。』


「ぐぎぎぎ……ま、孫!?」


すると、俺の左目に銀色の光が集まりだした。それに伴って、さらに凄まじい痛みが俺を襲う。


「な、なんじゃ、ヤマトの左目に光が集まっている!?」


「ぐあああ!!?」


ガク……。


俺は痛みに耐えきれず、そのまま気を失ってしまった。


「ヤマト!!」

俺は気を失っている中、夢の中にいるような……そんな感覚に包まれていた。


(あったかい……。)


眼の奥がジンと暖かい。痛みはもうない。気のせいかも知れないが……。今は左目がとても温かい。けれど力強い躍動を感じていた。


(なんだろう。俺の左眼に、とても懐かしい。そんな匂いが感じられる。)


「ヤマト!!」


駆け寄る二人、気を失ったヤマトをリリスは抱き寄せて、膝まくらをする。


「左目はどうなったんじゃ!見せろ!うん?これは!?」


リリスがヤマトのまぶたを恐る恐ると、開く。


「こ、これは?!」


そこには、古代の龍族の紋様が瞳に刻まれた銀色の瞳があった。


俺は目が覚めると、起き上がり、とっさに左目に手をあてた。


ずきずきと痛むため、左眼だけ閉じたままだ。


周囲を見渡すと、どうやらここはテントの中らしい。


リーランやリリスが、俺を寝かせるために簡易テントを張ったようだ。


俺は昨日のことを、ゆっくりと思い出してきた。


「確かあのとき……。」


たしか、俺に左眼を失ったはずだ……。あ、あれは夢だったのだろうか。


夢ならいいんだけど……。


恐る恐る、左目を開ける。


すると、俺の左目にも、同様の景色が広がってきた。


「あれ?見える?普通に見える……。」


昨夜、野営したテント、簡易的な寝袋などだ。パチパチと左目と右目を交互に閉じたり開けたりして確かめるが、まったく問題ない。


「よ。良かったぁ……。」


俺は安堵した。10歳で左目を失明とかこれからの人生に、すごく影響あるし。


「でも、あの時。古龍が俺の眼を……夢?」


本当に夢だったのかと、疑いだしてきたとき……。


パサ……。


「ヤマト?起きたの!?」


そこにリリスとリーランがテントに入ってきた。二人とも俺に近寄って顔を覗き込む。とても心配そうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る