第123話 古龍グリーンドラゴン
俺の脳に直接届くような不思議な声……。感覚的にはリリスのテレパシーに近いものがあるが、それとも違った。
心に直接声が突如響いたという表現が正しいだろうか。
なんと火の粉のドラゴンが話しかけてきたのだ。
『案ずるな』
「な!?火の粉の龍が喋った!」
「こ、これは……テレパシーじゃ!」
「リリスも聞こえるのか?あの龍の顔が語りかけているのか!?」
「おそらく……」
「良かったぁ。俺、ストレスで精神が病んだのかと思ったぜ。」
「そこかい!」
俺とリリスが、ボケとツッコミをしっかりやっていると、リーランが割って入る。
「な、何?ヤマトと母上は何を聞いているの?」
「リーランには聞こえないのか?」
「う、うん。全く……。」
リリスには同じ声が聞こえているようだ。しかし、一方でリーランには全く聞こえていないようだ。
『始祖の子よ、我は古龍『グリーンドラゴン』
「さっきから始祖って……それってどういうことだ?」
『……。』
(む、無視かよ。)
とても重厚感のある、人のものとは思えない響いた声、おそらく男性の声だ。
「古龍じゃと?……古龍(エンシェント・ドラゴン)のことか!?」
「古龍……」 俺は呆気に取られている。
古龍とは、伝説に出てくるドラゴン達の祖先だ。
誰と見たことがない存在。架空の生物とさえ言われている。
その古龍だと言うのだ。
「……。」
リーランは何が起こっているのか動揺している。
その声は威厳と深みを帯びた声で返答してきた。
『いかにも……』
いきなり火の粉に「古龍」と言われても困る……。どこからどうみても火の粉でしかない。形は龍の顔を模しているけど……。
「……その……俺が想像していた古龍と大分違うんだけど?」
少なくとも火の粉でない。
なんかこう……ドラゴンチックな巨大な生物を想像していたのだ。
グリーンドラゴンと名乗る火の粉は、緑色に激しく発光していた。さながら抗議するかのようだ。
『我の肉体は朽ち果て久しい。我は魂そのもの。』
傍目から見れば怪しい存在だが、グリーンドラゴンが嘘を言っているようには見えなかった。
「魂……つまりオーブみたいなものか。」
俺は、リリスが死してなお地上界にオーブとして留まっていたことを思い出した。火の粉の龍は、「正解」とでも言うかのように、緑色に発光しはじめた。
『……』
「それで?その古龍の魂が俺に何の用事なんだ?」
『我は龍族全体の守護者なり、始祖の子よ。しかと聞け。』
俺はふと、横をみるとリーランがポカンとしたまま俺が会話しているのを不思議そうに見ていた。
「リーラン。随時通訳するよ」
俺はリーランに、会話の流れを平行して話すことにした。
「す、すごい……古龍でかつ龍の守護者ということは、精霊と同じじゃない」
リリスは腕を組んで状況を見守っていたが、前に出ると声高に叫んだ。
「古龍よ、オヌシが本当に善なる存在か確かめるすべがない。ヤマトに危害を加えるようなら許さぬぞ。」
フワ―……
グリーンドラゴンの火の粉は、ゆっくりとリリスのほうへ顔を向けた。この頃になると、グリーンドラゴンはさらに大きくなっており、頭から尾まで形を完成させていた。
『……リリス・ドラガラム。かつての龍人王よ。案ずるな。』
「何……ワシのことを知っておるのか?」
確かに、俺は「リリス」と呼んではいたが、「ドラガラム」までは言っていない。リリスのことを知っているとしか思えない。
『我は万の時を生きた。知らぬ者など少ない、ましてや神と戦をした者などは特に。』
「ふむ……本当に古龍の魂のようじゃな。悪意は感じぬ。」
リリスは、この会話で古龍のことを信じたようだ。
「リリスのことを知っているようだな。」
リリスは俺のほうへ振り向くと、コクリと頷いた。
「おそらく太古の龍の精霊じゃろう」
「そ、それだ。さっきも聞いたが、その古龍が俺に何の用事だ?」
『いにしえ(古)より我らは存在していた、龍人族、龍族、龍神族。その3種の元は一つ。古龍族より生まれ出でた種族なのだ。』
(龍神族って。俺のステータスにもあった。)
『しかし龍神族、さらに龍人は滅亡。残る龍族が滅亡したとき、もはや龍族は地上から姿を消す』
(龍族ってことは、聖龍の国のことか。ややこしいな。)
「えっと、絶滅危惧種指定したいってこと?野生動物みたいに。」
「ヤマト……タメ語はやめい。」
『……残る希望はオヌシ。龍人族の再興どころか、龍神族の復活の可能性もあるのだ。龍族全体の存続はオヌシに託された。』
そういうと、古龍は上空に高く舞い上がり。尾が二つに割れた。
『魔王が龍王を狙っている。まずは龍族を護るのだ。その後に、龍人族。龍神族を再興させよ。』
「ま、魔王が!?ど、どういうことだ!」
『力を与えん。』
ズア!!
体を半分に分けた古龍の魂は、2体に分裂した。
「に、二体になった……」
俺が驚いていると、二体の片方から声が聞こえる。
『オヌシの中には龍神族王であった銀龍の魂が存在する。それをオヌシの左眼としよう。顕現させるにはそれしか無い。それもオヌシとも縁がある龍よ。受け入れよ。』
別れたもう片方の龍は火の粉が集まり銀色の色を放っている。まるで空に浮かぶ銀の龍だ。
グリーンドラゴンは、緑色に発光し続けている。
「りゅ、龍神族王の魂じゃと……!?」
「俺に縁?どういうことだ?」
2匹の龍になったグリーンドラゴンと、銀龍(シルバードラゴンと呼ぶ)は俺のことを上空から見ている。
『銀龍とともに龍族の再興を願う。』
銀色の龍は、俺のほうへ顔を向けると急降下してきた。その速度は、光そのもので瞬きする暇もなく俺は反応できなかった。
「うわわああああ、なんだ!?なんだ!?」
両手を前にして、銀龍との接触を避けようとする俺。しかし、銀龍は俺の手をすり抜けていく。
ズボォ!!!
嫌な音と共に俺の左目に龍が入ってきた。代わりに俺の左眼球が飛びだす。
「グアアアァァァァ!!」
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