第122話 不思議な火の粉
//////ヤマト視点に戻る///////
地竜を倒し、一気に竜のトンガリ山を麓まで駆け抜けた俺達。
道が分からなくて何度も遭難しかけたが、途中でリリスが謎計算を完成させて座標を特定したので、それからは早かった。
セイリューとの待ち合わせである「悠久の川」を無視して通り過ぎた形だ。
(セイリューごめん。今度ぜったい会いに行くから!)
そして、魔獣の森の入口に到着。
「はぁ……はぁ。疲れた。さすがに疲れた。」
「そう?ヤマト。スタミナ無いわね。」
シレっと答えるリーラン。
リーランの体力は驚異的だった。
「リーランって体力ば……。」
ボカ!
「痛い!まだ全部言ってないのに!」
俺が頭をさすりながら言うと、リーランは笑った。
「大体わかるのよ。ヤマトの考えていることなんて。」
リリスが、笑いながら宥める。
「ほれ、ゾルゲールの笛を吹くのじゃ。ルシナには会えるかも知れんぞ。」
「そ、そうだ。」
俺は思い出したように、笛を取り出す。
ルシナと再会のために、また魔獣の森に入るときには、この笛を吹く約束だったんだ。
この笛を吹くと、どんなに遠くてもルシナには届くらしい。
形状は完全に小さいリコーダーだ。ツルツルしてて肌触りが良い。
「よし。吹いてみる!」
俺は息を軽く吸い込むと、笛を空に向かって吹いてみる。
「…………。」
しかし、何の音もしなかった。
「あれ?」
俺は何度か挑戦してみたが、まるで音がしない。
「こ、壊れているのかな?」
「おそらくじゃが、ちゃんと音が出ておるのじゃろう。ワシらには聞こえない周波数なのじゃよ。」
「そ、そうなの?」
「多分じゃがな。ま、定期的に吹けば良い。森を進みながら位置を教える意味もある。」
「そ、そうだな。」
すでに時刻は夕方。太陽が傾いていた。俺達は、今夜はここで野営をすることにした。
野営中準備だ。
「ふむ。夜空の星の位置から位置がわかった。明朝 一気に魔獣の森も駆け抜ける作戦でいくのじゃ」
「了解。」
「今夜の見張りはワシがやる。ワシは睡眠をとらずとも影響がないのでな。」
とリリスが言っていたが、ただ彼女は疲れを感じないわけじゃない。そのため、リリスも休ませてあげたかったので交代制にした。
火をおこし、ディメンション・ボックスに格納していた食料を取り出す。
このボックスは、温かいものはそのまま維持するので、入れたときのまま。ホカホカの状態だった。
火は魔物や動物避けの意味を兼ねている。
食事を取り、腹が膨れた俺達は仮眠を取ることにした。
リリス→リーラン→俺の順番で見張りをすることになった。
リーランと俺は、朝から走り通しだったこともあってすぐに寝息を立てた。
・
・
・
・
・
「ヤマト。交代よ?」
寝袋を揺すられ、俺は眠りが覚める。
「あ……、交代の時間か。」
俺は寝袋からゴソゴソと這い出して、焚火の傍による。
それを見届けると、リーランが欠伸をした。
「ふあ……。じゃあ、お願いね?ヤマト。」
「わかった。おやすみ。リーラン。」
「うん。おやすみ。」
俺の見張りのターンだ。俺は周囲を警戒しながら、焚火に当たっていた。
この世界にも四季がある。
いまの季節は秋ということもあり、そこまで寒くはない、しかし夜に焚火は必須だ。
「はあ……先行きが長いな……。無事に実家まで辿りつけるのかな。」
長い修行の成果があって、魔獣の森に魔物にやられる心配は無いと思う。
修行は半端ではなかったのだ。
しかし、考えてみれば剣の練習とか全然やってない。
大丈夫なのか?リリスは間違いなく魔法使いとしては一級なんだろう……。しかし、剣についてはあまり師匠として頼れないところがある。
リリス的には、魔法高いとして大成するには余計なことに手を出さないほうが良いとのことだが……。
「剣の師匠……実際、欲しいよな。」
ラノベなんかでも、剣士はカッコ良い。ちょっと憧れてしまう。
「まぁ、実家に帰ったら考えてみよう。」
そんなことを思いながら、焚火を見つめていた。
周囲への警戒は怠らない。
(いまは夜中の2時か3時くらいか、このくらいの時間は不気味だな。)
そのとき俺は何か異変を感じた。
「?」
森が騒ぎ出すというか、なんか変な感覚なのだ。
「な、なんだ?またモンスターか?」
俺は立ち上がり周囲を見渡す。
「魔力探査(ソナー)!!」
グア!!
魔力ソナーを展開し、周囲を探る。
膨大な魔力と、精密な魔力操作が出来ないと、この魔力探査(ソナー)は出来ない。
これは魔力操作の訓練で得た技術だ。スキルとかいう大それたものではない、単純に魔力を操る技のようなものだ。
(うん?何もいないな?)
「では、これならどうだ!?熱感知像(サーモスタットヴィジョン)!」
熱感知像(サーモスタットヴィジョン)は、周囲の熱源を探って、対象を視覚化するスキルだ。ちなみに、視界が悪くても視覚化するので有用なスキルだ。
対象が生物や熱を発するものでないと意味が無いが……。
半径100mを探るが、何も引っかからない。熱感知にも、ソナーにもかからないのは異様だ。
「な、なんだ……?もしかしてゴースト系か?」
熱感知像(サーモスタットヴィジョン)は、ゴーストには無効だ。それも考えられる。
俺はゴースト系は苦手だ。
「と、とりあえず。リーランには悪いが起こして……。」
そう思ったときだった。
パチ……パチ……
焚火が勢いを増してきた。
「うん?この焚火……?」
遠くばかり気にしていたが、俺は目の前の焚火が妙に気になってきた。
(この焚火……なんか変じゃないか?)
シュン!
「リリス……。」
休んでいたリリスが俺の異変に気がつき、腕から出てきた。
俺が焚火をじっと見つめているので、心配になったようだ。
「ヤマト……焚き火がどうかしたか?」
「いや……何かさ……。」
ジッと焚火を見つめる俺。それというのも理由がある焚火に何か不思議な力があるように感じたのだ。何でなのかは分からないんだけどね……。
ブワ!!
「うわ!風!?」
風が吹き焚火の火の粉が舞い、火の粉が空中にバラまかれた。何でもないことのようだが、その火の粉はいつまでも空中にとどまったまま落ちようとも、消えようともしなかった。
「火の粉の様子がおかしい!なんだ!?」
「ぬぅ……なんじゃ?もしや、何かの形になろうとしているのか?」
俺は危険を感じてリーランを起こすことにした。
「リーラン!起きろ!」
リーランを呼ぶと、リーランはすぐに寝袋から出てきた。そして、焚火の様子がおかしいことにすぐに気がつく。
「な、何?敵襲?」
リーランは火の粉を見て固まる。
「な、何あれ!火の粉が!」
「俺にもどういうわけか……。」
リリスが警戒を促す。
「新手の魔族か!?焚き火から距離を取るのじゃ!」
「わ、わかった……。」
俺達は動揺しまくっていた。変な火の粉は依然として空中に漂っている。パっと見、大量に飛び交う蛍に見えなくもない。
火の粉が集まり、まるでダンスをしているかのようだ。
それは集まったり離れたりしていて、何かの形を取っているようだ。
リーランが叫んだ。
「りゅ、龍の顔!?」
「た、たしかに!」
なんと、火の粉が龍の顏を模しはじめたのだ。
そのとき、不思議な声が聞こえた。
『案ずるでない。始祖たる魂を宿す子よ』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます