第119話 魔人ラスターとドラギニス家

ラスターは、もともと美少年の容姿だ。年齢的には16か17歳そこそこに見えるだろう。


しかし、それでは人族の同情を誘えない。もう少し幼い肉体にする必要があった。


「仕方ない。得意では無い”変化(へんげ)”を使うか。」


一部の魔族は、肉体を変化(へんげ)させることが出来た。


魔界の最大帝国王。メフィスト・フェレスなどは動物や、老人などに化けることが出来ると言う。


しかし、魔人ラスターは変化(へんげ)は得意なほうでは無かった。せいぜい5~6歳若返えらせることくらいだ。


しかし、今回の場合。それで十分だった。


10歳くらいの少年に変化し。


ドラギニス家の者に発見されるところまでは成功した。


ドシャ降りの雨の中、女の人族はラスターを発見すると、「大変……!」と、家の中に入れた。


気絶した振りをしていたラスターは、驚きを禁じ得ない。


(まさか。ここまで上手く行くとは……。何と無防備な人種なのだ。)


暖かいベッドの上で休ませてもらい。暖炉で服を乾かしていると、事情の説明を求められた。


ラスターは、用意していた嘘を並べる。


「ボクは大道芸人の家の子です。リーローの村から南下していました。名前はラスティンと言います。10歳です。」


ラスターをもじってラスティン。


(我ながらセンスの無い名前だ。)と、思いながらマリーシア達の反応を伺う。


「ラスティン。お父さんとお母さんは?」


優しい笑みを浮かべながら、男性がラスターに問う。


その声は、極力ラスター……ラスティンを警戒させないように気遣っているのが感じ取れた。


自分が、食われるかも知れない魔人相手に話しかけているとも知らずに……。


ラスターは、まじまじと男を観察する。


(こいつが、ヤマトの父親の人族か。名前はたしかリカオン……。いたって普通だな……。)


「山道で盗賊に襲われて殺されました……。」


半泣きの演技を交えながらラスターは答える。


「まぁ……。」


心底かわいそう……と、と言う顔で女性は同情を表情に出した。


(こいつは……。ヤマトの母親のマリーシア。ふむ、こいつも普通だな。)


予め魔眼で魔力を測定していたが、予想どおり人族の範疇を超えない。


とてもヤマトのような魔力を保持しているようには見えない。何故、奴はあそこまで強大な魔力を持つようになったのだろうか。リリスとはいつ知り合ったのだ?


それとも、ヤマトは突然変異か何かだろうか?と、ラスターは考えた。


リカオンは続けてラスターに語りかけてくる。境遇を知ってますます優し気な声だ。


「親戚とかはいるのかい?リーローの村まで送り届けてあげるよ。」


リカオンが、少年を気遣うように優しく提案をしてくる。これも予想済だ。


「リーローには1人叔父が居ますが、……戻りたくないです。」


「どうして?叔父さんが居れば安心じゃない?」


「叔父は飲んだくれで、暴力をふるう人です。それにお金に困っていて、きっとボクが戻れば、これ幸いに……と、奴隷に落とされます。」


顔を見合わせるリカオンとマリーシア。


(…………さあ。どうくる?)


リカオンとマリーシアは悩んでいるようだった。


(厳しいか……。)


正念場だった。


ここまで言ったとしても厳しいかも知れない。見ず知らずの子供を引き取るには、ちょっと厳しいだろう。


厳しい状況を見て、ラスターは次の用意していたセリフを吐く。


「ただ……。行商に出ている従兄弟がいます。従兄弟はとてもやさしいです。その従兄弟が3年後にリーローに戻ってきます。そのタイミングで戻れば……。」


その言葉で、マリーシアは決意したようだった。


「あなた……。」


「うん。そうだな。」


善良な二人は、コロ!っとラスターの言葉に騙された。


「3年で良ければ、家にいなさい」だ……。


こうして、ラスターはドラギニス家の潜入に成功した。

それから魔人と人族の共同生活が始まった。


マリーシアは甲斐甲斐しかった。


少し躊躇っていたが、部屋も与えてくれた。


「この部屋を貸してあげるわ。ベッドのサイズもちょうど良いしね。」


ラスターが部屋を覗き込むと、確かに男の子の部屋のようだった。


「ここは?」と、問いかける。


確か、ヤマトが消失した事件は2年半前だったはずだ。何故、ここに男の子の部屋があるのだろうか。


(もしや、魔眼にもかからない人物がもう1人居るのか?)


どこまでも勘ぐったラスターだったが、答えは不可思議なものだった。


聞けば、ヤマトと言う息子が居たのだが、ちょっとした事件で行方不明になっているとのこと……。きっと戻ってくるから、部屋をそのままにしてあるのだとか……。


(バカな……。魔人に襲われたと判断しておきながら。戻ってくる?)


ラスターは、この夫婦が何を言っているのか意味が理解出来ない。


一般的な魔族であれば、家の者が魔界で行方不明になったら、「殺されたんだな」くらいにしか考えない。すぐに次の子供を作るか、忘れるかだ。


戻ってくると信じて、部屋をそのまま保持しておくなど、不合理この上無い。


まったくもって意味が判らない。


「で、でも良いのですか?ボクに貸してしまって……。」


「ふふ。ヤマトちゃんはすっごく優しい子なの。きっと許してくれるわ。」


そう言うマリーシアという女の目は、少し悲しそうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る