第117話 幼地竜 vs ヤマト

「ブフー!ブフー!」


地竜が目の前にいる。まるで恐竜だ。


地竜は鼻息を鳴らし、涎を垂らしながら、こちらを獰猛そうな顔で睨みつけている。


鼻息だけで吹き飛ばされそうな勢いだ。


体長は7m以上はある。眼の前でみると迫力がある。デカイ……。


「で……でかい……。これが地竜か。」


「見たところ、これは幼い……。おそらく子供の地竜じゃな。」


「こ、これで子供?ぜ、全然可愛くない。」


7m級の化け物が子供とか、迫力あり過ぎでしょ。


「この距離はいかん。距離が近すぎるのじゃ。」


俺の魔法は身体強化に特化しているが、スキルでは遠隔射撃能力もある。リリスはそれを先にけん制として使いたかったのだろう。


「ど、どうする?リリス。」


「一旦、逃げて距離を取るのじゃ。地竜よりオヌシらのほうが足が速い。」


「りょ、了解!!」


「走るわよ!ヤマト!」


「ワシも走れるが、右腕に戻るぞ!」


シュン!!


リリスが俺の右腕に戻ると、回れ右をして俺とリーランは猛烈に走りだした。


ドウン!!


ドウン!!


普通に走っても追い付かれるので強化魔法をかけ全力で逃げ出した。脱兎のごとくだ。


ロケットのようなスピードで走る俺。


さすがに、この速度で走ると長時間は無理だ。しかし、地竜から距離を取るために仕方ない。


横目でリーランを見ると、リーランは余裕で着いてくる。むしろ、俺より速い脚力を感じる。


(リーラン。まじかよ。時速90kmは出てるぞ。)


俺は走りながら、テレパシ―でリリスに感想を漏らす。


(当たり前じゃ!リーランは龍人族の一流戦士じゃった。しかも魔法属性の光と身体強化の魔法戦士じゃ。)


(ま、まじか……。)


(まぁ、魔力の多さではオヌシはリーランを超えておるがの。ただ、まだまだ子供の龍人に過ぎない。オヌシは純粋な戦闘能力ではリーランにはまだまだ敵わないじゃろう。)


「ヤマト!まじめに走るわよ!母上とテレパシーしている場合ではないわ!」


リーランが俺に警告をする。


そうだ! 俺たちは地竜と追いかけっこをしているんだった。


追いかける地竜、逃げる2人。


「くそ……こうなりゃ!」


俺は振り向きざまにスキルを発動。


「ゲールクロー(疾風爪)(改)!」


ドン!


「グア!?」


地竜の顏に直撃した。頭がのけぞり地竜の足が止まった。


「やった!直撃だ!」


俺とリーランは、足を止めて様子を伺う。


俺が独自に開発したゲールクローの進化版だ。大木でも切り裂く殺傷能力がある。


地竜の足は止まっている。俺とリーランは顔を見合わせた。


「き、効いたよね?」


「さ、さぁ……。」


リーランは首をかしげるが、何かがおかしい。


「あ!」


リーランが驚く。


なんと、地竜の頭半分が消失しているのだ。


「あ、頭が……。」


ドウン……。


地竜はそのまま倒れ込んだ。


ズゥゥン……


土煙が周囲に巻き起こり、地響きが起きた。


「え?え?」


リーランは状況が分からず、俺の腕に抱きついた。


プニュ……。


リーランの豊かな胸が、俺の左腕に当たる


「リ……リーラン……胸が……。」


「キャア!ご、ごめん。ヤマト……。」


「い、いや……いいんだけど。」


しかし、離れないリーラン。ちょっと役得だ。


シュン!


リリスが右腕から出て状況を確認しはじめた。


「二人とも!チチクリあっている場合じゃないのじゃ。まったく」


「ご、誤解です。母上!」


リーランは、顔を真っ赤にして否定した。しかし、何故だか俺の腕から離れようとはしない。


リリスは地竜の様子を真近まで行って確認をした。そして、こちらに振り返ると、静かに呟いた。


「地竜を倒しおった……。」


「え?あれ……?俺倒しちゃったの?」


「うむ……しかも一撃での……。」


「うそ……。」


リーランは俺の腕に抱き着いたまま驚いた。


(つーか、まだリーランの俺の腕に当たってるんですけど……)


リリスは顎に手をやり考えた末に、思いついたように叫んだ


「そうか!!セイリュ―の加護のせいか!!」


「え?加護?」


「そうじゃ!!オヌシ!たしか竜に対しての攻撃力倍化の加護もらっておったろう?」


「あ……たしかに。」


そうだ。俺は聖龍の加護をもっている。これがあると、地竜や飛竜に対しての攻撃や防御が有利になると言っていた。その効果なんと2倍。


それを忘れていた。

リリスは、倒した地竜を背に宣言した。


「やはり、ここら一体は危険じゃ。聖龍には悪いが再会の約束は破棄じゃ。魔獣の森入口まで超高速で駆け抜けるぞ、魔獣の森なら何とかなる。」


「危険?来たときより?」


「何かがおかしい。地竜がセイルシールドの丘まで来ていることも異常じゃ。本来、竜のトンガリ山から出てこんのじゃ。地竜は。」


「でも倒したじゃん。ほら、捕食しなくていいのか?」


「せんで良い。あの地竜は子供じゃった。大したスキルもないじゃろう。ゲール・クロー1発で倒せるものではないのじゃ。」


「げ……あのサイズで子供なの?」


「そうじゃ。戦闘力もサイズも半分以下じゃ。地竜は侮ってはならん魔物じゃ。数頭に囲まれると厄介なことになりかねん。」


「でも一応捕食したほうが……。」


「捕食には1時間近くかかる。今、ワシらにはリューグーが無いのじゃ。オヌシを安全に保護できるシールドも展開できん。ここで捕食は無理じゃ。」


「す、数頭。そりゃヤベーな。じゃあ……セイリューと悠久の川で待ち合わせしていたんだけどな。やっぱ素通りする?」


「命のほうが大事じゃ。素通りさせてもらおう。」


「後で問題にならないと良いなぁ……。」


一抹の不安を感じつつ、俺たちは幼地竜を捕食するのを諦めて、ディメンション・ボックスに保管だけして龍の巣を高速で駆け抜けることにした。


子供の地竜と言えども、素材にはかなりの値段付くだろうとのことだ。


今度は加護も忘れずに発動しておいた。


なんとか地竜たちにも出会わず、俺たちは魔獣の森、南入り口まで来た。

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