第115話 リーランの嫉妬

リューグーはすでに地中深くに潜伏し、姿は見えない。


ここにいるのは俺達3人のみだ。


リリスがこれからの経路説明をしはじめる。


「まず今回の旅の最終目的地点は、ヤマトが生まれ育ったカタナール村じゃ。」


「うん、俺は両親の元へ戻る。そのために頑張ってきたんだ。」


すると、リーランが少し心配そうな顔をした。


「私……ヤマトのお母さんとお父さんに会って大丈夫かしら。」


「大丈夫だよ。母上も父上も事情を話せば歓迎してくれるよ。」


マリーシアもリカオンも、二人ともお人好しだからな。多分大丈夫だ。


とにかく、早くカタナール村に行くんだ。


「さて、そのカタナール村へ帰る経路じゃが……。」


セイルシールドの丘→竜のトンガリ山に入る→悠久の川で聖龍と会う→魔獣の森→ルシナと会う→カタナール村南の宿場町→カタナール村(ゴール)。


こういう順路だ。


ぶっちゃけ来た経路を逆に行くだけ。


しかし、ポイント、ポイントで人と会う必要がある。


まず竜のトンガリ山にある悠久の川では、聖龍と会う約束をしているので寄り道せざるを得ない。(まっすぐ帰りたいが……。)


そこにまず向かうことになる。


龍族の女王の約束を破ると大変なことになりかねないので、これは絶対だ。


次に魔獣の森に到着したら、ルシナからもらったゾルゲールの笛吹く。


これを吹けば、ルシナは気が付くと言っていたが本当だろうか。それでルシナに挨拶だ。


経路を確認したので、後は警戒しながら進むだけだ。


リリスが緊張した面持ちで面々に伝える。


「悪魔バフォラットがヤマトを狙っておるのは間違いない。警戒しながら進むぞい。」


「ま、魔王は襲ってこねーだろうな。」


「それは無いわ。ヤマト。魔王は数年で回復しないし、この辺りには寄り付かないでしょう。魔王エングルドに取っても、嫌な場所だし。」


「そ、そうか。じゃあ注意するのは悪魔だけだな。」


「この森が隠れ蓑になるはずじゃ。すばやく移動することじゃな。」


「わかった!じゃあ、とりあえず聖龍に会いにいくか。」


俺は先頭を切って丘を登り始めた。


リリスが、後ろから声をかける。


「聖龍に会うのは良いが……。どうするのじゃ?大変なことになるぞ」


「大変なこと?どういうこと?ヤマト?」


「えっと……。確か聖龍にツガイになる!とか言われていたんだよ。」


それを聞いて、リーランが驚く。


「ツ、ツガイ?!龍族の王が!?……なぜヤマトに?」


あ……、まずい。そこに詳しく話して居なかった。


あまりにも突拍子も無い話だから、リーランには話をしていなかったのだ。


「それは……。」


俺が答えようとすると、リリスがリーランに答えた。


「聖龍はヤマトにイかされてから、ゾッコンなんじゃ。」


「言い方!!」


「ええ!?ヤマト!?」


驚きの表情から、徐々に怒りの表情に変化するリーラン。


「いや、ち……ちが……違うんだよ?リーラン。これはね?あのね?」


焦ると言葉が出てこない。 マズイ……あれがくる!?


そう思ったときには遅かった。


シュン!


リーランは弾丸のような速度で空中に跳んでいた。


「このエロ龍人!!」


ドコーーン!!!


リーランのドロップキックがさく裂する。


「ぐほーーーー!?」


俺は、ボールのように吹き飛び近くの木に叩きつけられる。あの速度は来ると思っていても避けられるものではない。


ステータスが上がったとは言え、リーランにはまだ敵わないようだ……。


「あ……だ……大丈夫?ヤマト!?」


パラパラ……。


破片を髪の毛にうけながら、立ちあがる俺。


「か、加減しろよな。リーラン。」


それを見てリリスが感心したかのような声を上げる。


「ほほう、リーランの蹴りを受けて無傷か。」


「いや?むっちゃ痛かったよ?」


すると、リーランが申し訳ないような顔をしながら俺に手を貸した。


「だって、ヤマトが……。」


「そこ、照れるところじゃねーから……。」


「いやいや、大したものじゃ。大人の龍人でもリーランの蹴りを受ければ、重傷じゃ。成長したのぅ。」


「…………。お前ら親子は何かがズレているぞ。」


照れるリーランと、感心しているリリスを放置して、俺は考える。


(まあ、確かに聖龍をどうするのか、それは悩みどころではある。)


きゅ、急に不安になってきたぞ。


「リリス。もし、本当に結婚とか言われたらどうしよう?」


「知らんがな。オヌシが招いた結果じゃ。」


「もし聖龍がついてきたら?その時はどうしよう?」


「知らんっちゅーに……、オヌシが悪いんじゃ。」


「もし……。」


「うるさいわい!」


「ヤマトのバカ!」


ボカ!ボカ!


「痛い!」


二人に頭を殴られた俺は、涙目になりながら頭をさする。


文句でも言ってやろうかと俺はリーランを見たが、リーランは何故か相当に苛立っていた。


(やばい……。相当怒ってぞ。何であんなに!?)


【リーランは力をためている】って感じだ。


そして、リリスは空気を読まないセリフを連発する。


「ふはは、確かにハイエルフの王女とも婚約の話が進んでおったのぅ。」


「ば!……リリス!」


「ええ!?は、ハイエルフの王女とも!?」


リーランの顔が赤く染まっていく。


プルプルプル……


【リーランは力をためている】。


(や、やばい……殺される。何とか話題を変えないと!)


死の危険を感じた俺は、必至に話題を変えてみた。


「い、いや!それよりもリーランのことを実家にどう説明しよっかなぁ?」


「!?」


【リーランは驚いた顔をしている】


「リーランは俺の家族みたいなものだし。マリーシアに「この子と一緒に住んでいい?」なんて聞いたら卒倒しそうだ。どうしよう?リリス?」


「はぁ?大丈夫じゃと自分でさっき言っておったろうが。」


【プシュー……リーランのためていた力が抜けてしまった!】


リーランは、顔をピンク色にして俺の袖をつかんだ。


(ほ……。どうやら、怒りは冷めたようだ。)


しかし、何故リーランが顔を赤くして尋ねてきているのかは不思議だ。


「ね、ねぇ。ヤマト?私のこと家族って言った?」


「え?そりゃそうだろ。リーランは俺の実家で暮らしてほしい。嫌か?」


「い、嫌なわけないじゃない!ふふふ……それで、何に悩んでいたんだっけ?ヤマトぉ?」


何故か妙に優しいリーラン……。


それを呆れた顔で見つめるリリスであった。


悩みは尽きないが、リーランが、「私に任せておいて!」と謎請け合いをしたので、さっそくセイルシールドの丘を越えはじめる俺達だった。


目指すは、まずは悠久の川だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る