第114話 リューグーを後に
出発の時は近い。
一応、船内で忘れ物がないかを皆で確認し合った。今は第一艦橋で待機している。
リリスは、船内にある珍しい物体や武器を俺のディメンション・ボックス(次元格納箱)に突っ込んでいる。
ミスリルソードや、ミスリルのインゴッド。オリハルコン。虹の魔石。古代龍の素材各種などなど。
滅多に手に入らない素材が、このリューグーの倉庫には眠っている。それらをごっそり詰め込んだいるようだ。
「次にいつ来るか分からないからのぅ。とりあえずこれだけ持っていくわぃ!」
(リリスはいつも忙しいな。しかし、そうか……。もう来れないかも知らないんだな。そう考えると何だか寂しいな。)
この船は想い出が多い。色んなことが、この船であった。辛いことも楽しいことも……。
走馬灯のように想い出が巡る。
いや、走馬灯って表現が違うか……。
俺は人工知能リューグーに向かってお別れを告げた。
「リューグー。聞こえているか?世話になったな。」
すると、ディスプレイに幼い日のリリスの映像が浮かびあがる。
このリューグーのイメージ映像は、顔は美少女。体がマッチョ男というアンバランス仕様だ。
最初は違和感の塊だったが、もう見慣れた。
『龍人ヤマト、10歳おめでとうございます。また会えますよ。次は次世代の子供を乗せる予測です』
「お、俺の子供ってこと?」
『はい。私の計算では龍人リーランとの間に100年以内に出来る可能性が95%と算出しています。』
それを聞いてリーランが、顔を真っ赤にした。
「ちょ、ちょっとリューグー!?何言ってるのよ。」
『私は理論的に計算したまでです。龍人ヤマト 龍人リーラン。二人の子が出来る可能性は高いはずです。』
「も、もう!」
リーランは、真っ赤にしながら全否定まではしなかった。
『また、35%の確率で龍人リリスと龍人ヤマトの子供が出来る確率が……』
「なぁ!?」
これにはリリスも驚いた。
「わ、ワシは死んでおるぞ!?何を言っておるんじゃ、リューグー!?」
『……。』
何故か、そのあとリューグーは沈黙した。
(俺とリリスが?想像だにしていなかった回答だ。第一、リリスは死んでいるぞ……?リューグーはそれでも35%の確率って言ってたな……。)
リリスが、バツが悪そうに話題を変えた。
「ご、ごほん!皆、忘れものはないか?それでは第一艦橋へ移動するぞ」
「そ、そうだな。風呂も入ったし、歯も磨いたし、メシも食った。」
リーランはリーランでショックを受けていた。
「母上とヤマトが、まさか……。」
リューグーに雰囲気ブチ壊しにされたが、もう直ぐ下船だ。船は超高速で移動しているみたいだが振動や音がないので、まったく分からない。まったく凄いテクノロジーである。
しかし、一方で艦内の動力は人工生命体の自転車漕ぎだ。未来船なのか理解に苦しむ船だ。
『セイルシールド上空に到着しました。自動結界を展開します。』
船がセイルシールドの空に止まると結界が発動したのか、船体が振動し始めた。
リューグーがアナウンスを流す。
『これから地中に入ります。振動に備えてください。』
そして、ゆっくりと下降すると感覚があった。窓ガラスから外の景色を見てみると俺は仰天した。
リューグーが地面に当たると同時に、地中深くズブズブと沈んで行くのだ。
まるで海に沈むように沈んでいく。
「すげ。地面が水みたくなってくぞ。」
俺が感心していると、リリスが頷く。
「これも、龍人の魔導テクノロジーの一つじゃ。土魔法を仕込んだ魔石を外壁に展開しているのじゃ。」
「へぇ。すげーな。」
改めて龍人族の技術力の高さがうかがえた。
地面が水みたく変化して、船を飲み込んでいく。そしてリューグーがアナウンスする。
『深度600mに到達。永久機関をメンテナンスモードに移行、これよりスリープに入ります。龍人族は外に出る準備を急いでください。』
「じゃあな、リューグー。」
「またね。リューグーちゃん。」
『たくさんの繁殖をお待ちしております。』
「は、繁殖って……」
『マスターリリスに伝達。黒い虹魔石も、アダマン鉄を2tあれば当船の主装備が修理可能。完全機に戻ります。お待ちしております。』
「……うむ。覚えておこう。」
『では良い旅を。』
最後まで、リューグーペースにのまれていたが、第一艦橋にいた俺達は、外のゲートと接続された転移魔法陣が床に出現。
いよいよ外に出るようだ。
「気を引き締めて出るぞ。魔王が封印の地でもある。このセイルシールドの丘に戻ってくるとは思わんが、気をつけるのじゃ……。」
「おう。は、早く行こう。」
「くすくす……ヤマト。母上の言葉聞いていないわよね。そんなに両親に会えるのが嬉しいんだ?」
「そ、そんなんじゃねーよ!」
「ふふふ……。顔に出てるわよ。」
リーランは優しい目で俺を見つめている。
リーランと俺は一緒にいた時間の長さから、今では心許せる存在になっている。
カリアースとリーラン、何があったのか知らないしリーランは語ってくれない。リーランはカリアースが好きだったんだと思う。
当初、彼が居ない世界だし。その他に龍人が居ないことに悲しんでいたが、それも克服したようだ。
リーランと俺は数年の間にとても身近な存在となった。
「さぁ門が開くぞ。いきなり魔物に襲われることはないと思うが、一応警戒しておけ。」
ブン!
転移転送されたようだ。
一気に景色が変わる。
気持ちの良い風が、俺達の頬を撫でた。
ここは既に地中ではなく、転送により既にセイルシールドの丘の麓にある転移門の前だ。
ここを最後に通ったのは2年半前のことだ。何か懐かしい。
数歩外にでると、麓から見上げる丘への風景が目の前に広がる。
そこに見たのは、青い空、どこまでも続く森林と青い草原がダンスする生命のあふれる山景色だった。
「え?数年前のあの毒しい。ザ ……魔王の城みたいな雰囲気はどこいったんだろう……全然違うぞ。」
「魔王の封印が解けて、この地域に溢れていた魔素が抜けてきているようですね。」
リーランが嬉しそうにそういった。
「それでここまで変わるのか。すごい綺麗だな!こういう山だったら、また来てもいいかなって思える。」
「ふふ、ヤマトにそういう感傷があったのね。」
リーランが笑って景色を見つめる。
「はは!こんな美しい世界だもんな……。子供達の笑顔が似合う、そんな世界にしなきゃな。」
「!」
その言葉を聞いて、リーランはハッとヤマトの顔を見る。
今、ヤマトが言ったセリフは、かつてカリアースが言ったセリフと全く同じなのだ。
【リーラン。子供達の笑顔に相応しい世界にしなきゃな!】
リーランは、ヤマトにカリアースの面影を見た。
(ヤマト……。やはり貴方は間違いなくカリアースの生まれ変わり。)
ヤマトは笑顔で景色を愛でている。それを見ていたリーランは自然と涙が溢れていた。
数千年ごしに、自分が好きだった人の言葉を耳にしたのだ。カリアースがそこにいるような錯覚を覚えたのであった。
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