第110話 アカシャが生まれた日
//////マリーシア、リカオン視点///////
そのころ、かつてヤマトが育ったカタナール村では……。
ここに新たなる命が誕生日しようとしていた。
「はぁ……はぁ……。」
「頑張れ!マリーシア!産婆を呼んだから!もう少しだ!」
マリーシアがとうとう産気づいたのである。マリーシアは二日の間、陣痛に苦しんでいた。かなりの難産である。
リカオンは背中をさすったり。ボールを腰にあてたりして、マリーシアの苦しみを和らげようと頑張っている。もうすぐ産婆が到着するので、それまでリカオンが対応している。対応と言ってもリカオンにできるのは、これくらいだが……。
「が、がんばれ!マリーシア!ヤマトも待っているぞ」
マリーシアはコクリと頷く。その目は力強かった。リカオンは思う。
(今のマリーシアは大丈夫だ。ぜったい大丈夫だ)
マリーシアの左手には、ヤマトが昔描いてくれた似顔絵が握られていた。
3日目の朝、とうとう新しい命が誕生した。
女の子だった……。真っ白な肌に金色の眼が特徴的な赤子だった。
「この子の名前はアカシャだ。アカシャと名付けよう。」
夫婦は、その可愛い赤子をアカシャと名付けた。ヤマトに妹が出来たのだ。マリーシアは、赤子を抱きしめた。
嬉しさの反面、ヤマトがここにいたら何と言っただろうと、涙がこぼれた。
家を出るときに、自分が本当の子供でないことに苦しんでいたヤマトを今なら安心させることができるかもしれない。
何故なら、アカシャもヤマトも、自分の最愛の子供なのだから……。2人同時に愛情を注ぐことが出来るからだ。
「ヤマトちゃん……早く会いたいわ。可愛い妹が産まれたわよ。私の息子……」
赤子の頭を撫でながら微笑むマリーシアの目には、大粒の涙がたまっていた。
//////オステリア視点//////
「何ですって?リリスが生きていて、魔王エングルドが復活したですって?」
ここは魔界のとある湖畔。ケルベロスの巣穴とも呼ばれ、周辺には強力な魔物が多く。魔界の住人ですら誰も周囲に寄り付かない場所。
その湖畔に、オステリアと悪魔バフォラットは立っていた。
神たる立場のオステリアが、来て良い場所では無い。
しかし、確かに女神オステリアは魔界に居た。
長いエメラルドブルーの髪。美しさの権化のような容姿。すべてが美しく。拝見の魔界の風景すらも飲み込まんとしていた。
オリテリアの表情は驚きに満ちていた。
『事実だ。』
一方で、バフォラットの表情は読めない。非常にアンバランスな二人とも言えた。
『ああ。オステリア。貴様、我を謀ったのではないか?』
「バカな。何のためにそのようなことを……。」
『……その様子では貴様も予想外だったようだが……。リリスが居て、さらに魔王が居ては我も手が出せん。』
「しかし、信じられません。リリスが生きていたなどと……。」
『確かに見た。ピンピンしておったぞ。』
「それで?奴の傍に神崎が居たのですね?」
『ああ。居た。今は、ヤマトという名前になっているらしいが……。』
「ヤマト?あのカリアースと同じ名前……。どういうことでしょう。何故、神崎とリリスが一緒に……。」
オステリアは意外な名前を聞き、戸惑っていた。
『知らん。それよりも魔王エングルドだ。奴が復活したとなると厄介なことになるぞ。地上界はもって30年というところか。』
「完全には復活していないのでしょう?30年は言い過ぎですよ。」
『神が介入すれば、その時間は変化するだろう。しかし、エングルドは強いぞ。どうするのだ?』
「確かに、厄介ですね。魔王エングルドは神達でも手を焼くでしょう。」
『ふ……。』
小馬鹿にしたかのように、鼻で笑うバフォラット。
オリテリアは、それに眉をひそめた。
「何がおかしいのです。バフォラットよ。」
『いや、笑えるなと思ってな。』
怪訝そうな顔をするオステリア。
「何がです。あまり調子に乗ると……。」
『魔龍大戦のときにも、神は何もしなかったではないか。レシータを派遣したのみだったはず。それがおかしかったのだ。』
「……。」
『どちらにせよ、我は我で奴らが油断するときを待とう。魔王エングルドの動きも気になるのでな。』
バフォラットが周囲を気にしはじめていた。
誰も来るはずが無いのに、この悪魔は見た目に反して慎重だ。
(だからこそ、古から生き残っているのかも知れませんね……。)
オステリアは、肝心なことに釘を刺しておくことにした。
「ええ……。それは構いませんが。約束どおり、神崎の魂を持ち帰ってきてくださいよ?」
『分かっている。そちらこそ取引を忘れるな。』
「もちろん……。」
そういうと、バフォラットは姿を消した。
誰も居なくなった湖畔で、オリテリアは一人佇む。
青い髪はエメラルドに光り、その表情は曇っていた。しかし、やがて喜色に変わる。
「カリアースの魂が引き寄せた縁ですか……。これは面白いことになりそうですね。ふふふ。神崎…、いえ……これからはヤマト・ドラギニスと呼びましょう。ヤマトよ、逃がしはしませんよ。」
そういうと、金色の翼を背中から生やすオステリア。
バサ!
そして魔界の空へ飛び立っていった。
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