第103話 ※資料 ランクー・ドラガラム(前編)
これは、とある龍人のお話。
その龍人の功績は大きく、とくに龍人族二人に影響を与えた。その二人とはリリス・ドラガラムとヤマト・カリアースである。
その昔、龍人族は神に近い存在として地上界では別格であった。
ただし、龍人族にはいくつか悩みがあった。まず挙げられるのは、龍人族の出生率の低さだ。神に近しい寿命をもつ存在として、避けられない傾向なのか、自殺者も多い。そのため龍人族の人口は年々減少の一途を辿っていた。
「このままでは、我が種族は滅亡するぞ……」
そう危機感を募らせていた。
さらに当時の龍人達の頭を悩ましていたのは、「天敵」の存在である。
龍人は、魔人や魔族に狙われる宿命だった。どういうわけか、魔人は龍人族の子供を好んで襲った。その死亡率はかなりの高さで、種族全体の絶滅の危機に追い込まれていた。
「龍人の子を保護せよ!」
当時の国王の命令のもと、龍人の子の徹底的な保護を推進していた。
村や里を作り隔離したり、強力な護衛をつけて、子供達を保護しようとしたのだ。
ただし、選任された護衛は、魔人との戦闘が必須なことから腕利きでかつ、壮絶な人生を歩むことになることが運命付けられた。
繰り返すが当時、龍人の政策は単純に隔離された里や村などを作り、そこに子供達を隠すものだった。
そんな時代に、一人の男が護衛官に任命された。その人物は……
ランクー・ドラガラム
この人物が、リリスにまず影響を与え、そしてヤマトにも多大な影響を与えることになる。
ランクーは、リリスのたった1人の実弟である。リリスの唯一人の血の繋がった家族だ。
※リーランは養子であり、リリスは生涯独身だった。
ドラガラム家について説明しよう。
リリスが王座に座る前の龍人王、アスミール王の元に次期王候補として、7つの公爵家がいた。ドラガラム家はその七柱のうちの一柱である。
ドラガラム家の現当主は気の優しい男であり貴族社会での駆け引きなどから身をひき、絵画や芸術にしか興味を示さなかった。
子供達や体の弱い者達への保護政策などには力を入れてはいたが、それは熾烈な貴族社会で勝ち残るにはあまり意味のないことではあった。他の6公爵家からは、「負け組」として認定されかけてもいた。
長男ランク―が生まれたとき、他の貴族たちは怖れを抱いたが、愚鈍そうなランク―をみると、「競争相手にもならぬ」と安心されたものだった。
しかし、姉である長女リリスが優秀だった。さまざまな功績を立てるリリスのおかげで、ドラガラム家はいっきに王家継承候補の家として注目されるようになる。
リリスは知能指数は著しく高く、政治的なアドヴァイスを王が自ら求めるまでになっていたのだった。
優秀な姉。愚鈍な弟。
周囲からは嘲笑の種である。
「リリス殿は、母親の腹の「才能」をすべて持っていってしまったのでは?これでは弟が可哀そうだ」と揶揄されるほどに……。
弟ランクーと姉リリス。知能指数に差はあるが、二人とも戦闘力は群を抜いていた。その点は名門「ドラガラム家」の血筋は残っていたが、二人の気質は対象的である。
リリスは知能も気質もすぐれていたのだが、ドライな性格をしている面がある。一方でランク―はどこか優し気な気質で、子供や動物が大好きであり、父親の血を濃く受けついでいるように見えた。
ランクーはボーっとしていることが多く。貴族間では「デクの棒」扱いされていた。しかし、ランクーは気にしない。どこふく風で休日は、森で動物や鳥達と戯れ子供達と遊ぶのが何より楽しい人物であった。ドラガラム家は、リリスがいなければ王族候補家からは外されていたのかも知れない。
リリスに対しての評価はうなぎのぼりだったが、ランク―の評価は下がる一方である。
「政治問題にかかわれないのであれば、せめて龍人の子供達の護衛官でもやっておれ」と。アスミール王に、その職を賜った際も、子供好きなランクーは喜んだという。
リリスはその喜ぶ弟ランクーをみて呆れた。
「護衛官!?ランクーよ、良いのか?そのような職はドラガラム家に相応しくないぞ」
「何を言うか姉者よ、次世代を担う幼龍の護衛は立派な職よ。全うしてみせる」
思いの外、ランクーのやる気に、「弟が良いのであれば……」と放置していた。
実際ランク―の戦闘能力は非常に高く、魔人相手でも一歩も引かないので適職でもあったのだ。
のちにリリスは王座につき女王となる。そしてヤマトも軍人として頭角を現す時代になる。
ランクーはリリスの予想どおり、護衛官として任務を長い間全うしていた。それまでに撃退した魔人の数は620以上にも及び、ベテランの域を越して「護衛官の達人」、「龍人の国の立役者」とまで言われていた。
ランク―護衛官の活躍により、龍人の数も徐々に増えていった。
ランクーの魔法力、戦闘力をもってすれば実際、なんの問題もなかったはずだ。
あの事件さえなければ……。
事件が起きたのは、とある寒い季節の雪の日だった。ランク―は龍人の里……つまり隔離された村にいた。 ランクーはその中でもたくさんの子供達が住んでいる屋敷を担当していた。
護衛対象の子供達が寝ている部屋を二階に、2人交代で1階の出入り口で警備していた日だった
襲撃は突然であった。ランクーは、その日は長剣、動きやすい軽防具で夜番を行なっていた。さらに、用心深いランクーは、魔人索敵魔法を半径1キロに張っていた。
暖炉の前で暖をとりながら、剣を脇に置きランク―は外への警戒を怠らない。警備中に居眠りをするなど、ランク―の性格からは考えられない。それくらい索敵魔法に力を入れていた。
「今日は冷えるな……。」
ランク―は、今朝一緒に過ごしていた子供たちが、鼻水を垂らしていたのを思い出して、一人微笑む。
「風邪をひかせてはいけない。屋敷を温めてやるか。」
ランクーは、子供達が風邪をひかないように暖炉にくべる薪を取りに、裏扉へ向かった。
(2階には護衛官が張り付いているので大丈夫だろう、念のため裏庭の見回りをしつつ……。)
そのときだった。
ドガ!!!
なぜか索敵魔法が効果を為さずに屋敷の裏扉を蹴破られ、騒音と共に襲撃は始まった。
黒ずくめのフードの男が、長剣をランク―に突き出す。突然の攻撃にもかかわらずランク―は持ち前の反射神経の良さをいかんなく発揮した。
「ぬん!!」
シュバ!
光の速さで剣を鞘から抜きだすと、ランクーはその剣を上に弾いた。
ギン!!!
「!!」
絶対のタイミングで剣を突き出した男が、弾かれたことに驚く襲撃者。
ランク―は2階にいる護衛にも聞こえるように叫ぶ。
「襲撃者だ!」
先に剣を突き出してきた男は、そのまま部屋に侵入すると、フードをかぶった男達が次々に乱入してきた。
「何者だ!……ここは龍人の子供達しかおらぬぞ!盗賊なら去れ!」
「悪いが全て死んでもらう……。」
「魔人か……?」
「……。」
(いや……魔人ではないな、この感じは……)
ランクーが唸ると、男達は剣を構えランク―に襲いかからんと詰め寄った。
「ここは場所が悪い……場所を変えさせてもらうぞ!」
数人の男達と剣を交えると、ランクーは風魔法を行使。
「ドラゴニックブロー!!!」
ゴア!!
「!!」
強力な風魔法を行使して5人まとめて屋敷の外に吹き飛ばす。1人だけ強風に耐え、子供達が寝ている2階に侵入を許したが上階には、もう1人護衛がついている。任せるほかないと判断した。
4人の襲撃者と向き合うランク―。
裏庭での戦いである。魔法での戦いは向こうも同士撃ちの可能性があるため望んでいない、ランクーにしても同様だった。強化魔法で格闘、剣技で決着をつけようと、ランクーは4人の襲撃者に戦いを挑んだ。
上位魔人クラスでも引けを取らないランクーは、負ける気がしなかった。
「うぉぉ!」
ドドド!!
ランクーの超高速の蹴りと剣撃、ランクーが得意とする格闘と剣の剣武技であった。上下左右から機関銃のように雨あられと撃ち込んだ。普通の相手であれば、対応できずにこれで即死である。実際、ランクーは今まで何人もの魔人を倒してきた。
しかし、今回は違った。
ギン! ドン!
なんと、相手の1人がそれ以上の手数で応戦してきたのだ。
「何!?」
その事実にランクーは驚愕した。魔人レベルの強さではない。
「何者!?魔人ではないのか!?」
ランクーは怒鳴るが、返事はない。
返事のかわりに、戦闘が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます