第101話 三途の川

(ここは……。)


霧が深く、地面が揺れる……。


(あれ……?船?)


俺は小舟の上に立っていた。


「うわ!船に何で!?」


思わず尻もちをつく。


綺麗な川だった。


そこには渡し船が行き来しており。俺はそれに乗っているようだ。


「はは……。綺麗な川だなぁ。お?そろそろ到着か?」


何故か状況を受け入れる俺。自分でもよく分からない。


向こう岸には何かが見えた。


何と、地球で死んだ母と父だった。


「あ……母さん。父さん!おぉーい!」


俺は久し振りに会えた喜びから、手を振る。


父と母も手を振る。


「ん?」


良く見ると、両親は手を振っているわけでは無かった。


必死の顔で、こっちに来るな!と言っている。


「え?」


そこで俺の意識が途切れた。

「ヤマト!?起きた!?」


意識を取り戻したときには、俺はリーランの膝枕の上で謝られていた。


「え?え?川は?両親が。え?」


「か、川?良く分からないけど、ごめんなさい、ごめんなさい!まさか直撃するとは思わなくって。」


平謝りのリーラン。


どうも俺はリーランのドロップキックにより瀕死の重体に陥ったらしい。そして、血を口から流して倒れる俺をみて、慌てたリーランは、すぐに治療したとのこと。


「ち、治療って……どうやって治したの?」


俺は膝まくらされながら、腹や胸のあたりをさすると、まったく痛み感じないことに驚いた。さきほど確かに俺は肋骨が折れる音を聞いたのだが……。


「私、光魔法使いだから……治療は得意なの。」


リーラン自身の光魔法で治してもらったらしい。それにしても、すごいドロップキックだった……。


「いや、破廉恥なことしてしまってたのは確かだし、いいんだけど。むちゃくちゃ強いね?リーランさん?」


「だからリーランでいいわよ。私もヤマトって呼ぶから。」


「ふはは。リーランの身体強化魔法は龍人族の中でも10本の指に入るものじゃ。強烈じゃったろう?」


「きょ、強烈も何も三途の川が見えたからね!?思いがけず死んだ両親に会えてうれしかったけど!」


聞けば、リーランは龍人族の中ではかなりの戦闘力を持っていて、人族で言えばSランク冒険者10人分くらいの力を持っているらしい。


ちなみに魔法属性も2つも持っている。


光属性と身体強化とのこと。


ちなみに俺の頭は、リーランの膝の上に乗っている。なんだか柔らかくて気持ちいい……。


名残おしいが、リーランの膝枕から俺は起き上がる。


「あ……ヤマト。大丈夫?」


リーランは心配そうな顔をして俺の体を気遣った。


というか……この人、さっき俺にドロップキックをした張本人なのだが……。


「うん、大丈夫だ。リーラン……膝まくら有り難う。」


俺はリーランに、呼び付けをするのを躊躇ったが、頑張って呼んでみた。


「ふふ、いいえ。」


リーランの笑顔は殺人的に可愛かった。


俺はドロップキックされて死の淵をさまよったことをすっかり忘れてしまった。


チョロいな俺……。


さて、改めて周りの状況をみてみる……。


まず俺は目の前の設備に驚いていた。


「改めてみると。す、すげぇ……宇宙戦艦のコックピットみたいだ」


宇宙戦艦の艦橋ような部屋に俺達はいた。


いくつかの運転席が円を描いて配置され。巨大スクリーンが天井すべてを覆っている。スクリーン自体は、まだ何も映っていないのか何か古代文字のようなものが点滅している。


「こ、これがリューグーなのか?」


リリスは満足そうに頷いた。


「うむ。永久動力は生きているようじゃな」


「永久動力!?」 


なんで異世界で、未来宇宙的な話になるのか。


「うむ。永久動力とはな……。」


リリスが、永久動力について説明をしてくれた。


このリューグーの動力発生機関室に秘密があるとのこと。


「永久動力を作る機関ってどんなん……。」


俺はリリスの答えに期待したが、永久動力とは名ばかりで人工生命体(ホムンクルス)が動力部で、自転車のようなもので漕ぎまくっているらしい。


俺は泣きながら、自転車をこぎまくっているホムンクルス達を想像した。


「それ永久動力じゃねーし!!労働基準守ってる!?」


「うむ。詳しいことは発進準備しながらにしよう」


「さらっと流したな……。」


「ここは第二艦橋じゃ。司令塔である第一艦橋に移動するぞ。あそこはすべての機能を持っておる。」


「ここは第二艦橋なのか……。」


「うむ。リューグーは四層になっておる。艦長室・第一艦橋・第二艦橋・第三艦橋とな。ここはその第二艦橋なので三層目になる。」


俺たちはリリスの後ろに従い艦橋の後方に移動すると、床に円盤型のプレートがあった。リリスはそこに立っている。人が5人くらいは乗れそうなプレートだ。


「リリス?これは?」


「まぁ、乗ってみろ。」


「う、うん……。」


俺とリーランは、リリスのとなりに立つ。すると……。


フオン……。


その円盤は宙に浮かび、エレベーターのように上昇しはじめた。


「うわ……浮かぶのかよ。これ!」


俺達は、そのまま上昇すると司令塔エリアである第一艦橋ルームの床に到着。リリスはためらうことなく、第一艦橋に足を踏み出す。俺は恐る恐る部屋に入る……。


「おぉ……すげぇ。」


先ほどと同じようなデザインの部屋だが、部屋の中央に円形設置されたコックピットを思わしき席がズラり……。数がものすごく多い。そして中央には指揮官?もしくは艦長が座ると思われる艦長席が、少し高めの位置に設置されていた。


「では……ここにいろ。ワシは艦長席にいく。」


「艦長席……あれか。」


「うむ、あの一番高い位置にある席じゃ。」


「あれ?でもあの席に階段とか梯子がないぞ?」


「ふふ……まぁ見ているのじゃ」


リリスは、その艦長席席に上るためのどうするのかな……と思ったのだが、なんと指揮官席の傍らに立つと一瞬で指揮官席に座っていた。


「て、転移……。」


こんな小さいところに転移陣を設置してるとは……、さっき起動するときに「入/切」のボタンを押していたとは思えない最新テクノロジーだ。だって、俺が前世で住んでいたアパートについていたスイッチみたいだったぜ?あれが主電源だったらしい……。


大丈夫なのか。この船……。

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