第100話 ドロップキック

俺達3人は、リューグーへ向けて歩きだした。


丘を下る俺達。


行きと違って、周囲の風景が明るく見える。


「何かセイルシールドの丘。雰囲気変わってないか?リリス?」


「じゃな。魔王が消えて、邪悪な魔素が消えつつあるのじゃろう。」


「あの魔王のせいだったというのか?」


「その通りじゃ。魔王は災悪の根源。周囲の森を魔界に変える。」


「……そんなのに俺達は目をつけられているのかよ。」


げんなりする情報を貰ってしまった。


(気を取り直して進もう……。)


里という名の空中戦艦に入るためには、地中に転移する転移門を探さないといけないらしい。龍人族が実に数千年ぶりにリューグーに入ることになるのだ。俺はこれから先どうなるのか、想像もつかなかった。


結構歩くのかと思ったのだが……。

「着いたぞ。ここじゃ。」


「もう!?」


転移門には直ぐに到着した。


リリスの言う通り、セイルシールドの丘を下るとすぐにあった。


俺たちは、巨石でできた門の前に立っている。


「ここが、リューグーへの転移門?」


よく見ると石柱と石柱の間には、さっきポッカリ空間ができている。そこには何も無く、当然のように向こうが見える。


「そうじゃ。ワシの声紋にしか反応せん。見てろ。」


「う、うん。」


「我の名はリリス。龍人王リリス。リューグーへ入る。」


ブン!


リリスがそう言うと空間が歪んだ。虹色の光の空間とでも言えば良いだろうか。


石柱と石柱の間は異様な空間に変化した。


「おぉ……!すげ。」


俺はちょっと感動していた。


「うむ、ちゃんと転移門が開いておる。ここに入って転移するぞ」


「おい?……これは入って大丈夫なのか?異次元空間みたいになってるぞ。」


「転移門とは、こう言うものじゃ。これは地中に埋まっておるリューグーの入り口じゃ。無事転移門が開いておる。さぁ入るぞ」


やはり、この石柱で囲われたものは転移門だったらしい……。


たしかにエルフの里で見たものと同じだ。ここからリューグーという艦の中に転移するのか……。


「お、おう……(空中艦って……どんなんだよ)。」


「なんじゃ、ビビっておるのか?」


「び、ビビってなんかいねーよ」


「さぁ、入りますよ。ヤマ……ト君?」


リーランは俺のことをヤマトと呼ぶことに違和感があるのか、若干ためらいながら俺の名前を呼ぶ。


「うん……。あの……ヤマトで良いよ?それに敬語は要らないよ。」


と俺が応えると、リーランは嬉しそうな顔をした。


「ありがとう。ではヤマト。そう呼ぶね。私もリーランでお願い。」


「わ、分かった。リーラン。」


「ふふふ。ヤマト。行きましょう。」


既にリリスは、さっさと転移門に入ってしまった。


リーランはそれに続く。


「ま、待ってくれ……。」


恐々と、俺も門に入る。


リューグーの中は想像以上だった。


転移先である。リューグーの中は真っ暗だった……。


おい……、空中艦とかじゃねーのかよ!真っ暗じゃねーかよ!


俺は暗闇の中にいることへの恐怖からリリスのことを呼んだ。


「なんも見えない……。おい、リリス!リリス!!」


「なんじゃい。うるさいのぅ。」


(ほ……)


「私もここにいるわ、ヤマト。」


リーランも、リリスも、そこらにいるらしい。暗くてみえないけど……。でも安心したぞ。


「ここ何?真っ暗で何も見えないぞ?」 


「母上、私も暗くて見えません。」


リーランも不安そうだ。


「もうリューグーの中なのじゃが……。少し待て……確かここらへんに照明スイッチがあったはずじゃ」


スイッチ?空中戦艦なのに主電源みたいのがあるのか?なんなの一体……


……ごそごそ……


リリスが何か探している音がする。暗いから不安が駆り立てられる。


「おい、リリス?何してる?」


「……むぅ……たしかこの辺りに。」


リリスは何かを探しているようだ。おそらくスイッチを探しているようだ。空中戦艦でスイッチって何……。


俺も暗闇の中、スイッチとやらを探すことにした。


「リリス、どんなスイッチなんだ?」


「「入/切」のボタンがある、カチカチするスイッチじゃ。」


(なんかテンション下がるな……俺の故郷の室内灯スイッチみたいだな。)


たしか、このあたりからリリスの声が聞こえたような……。


あのあたりにスイッチがあるのか?


……むにゅ……


「あん!……だ、誰じゃ!?」


俺の両手が何かに触れたようだ。なんだこれ?……俺は確かめるために手を動かしてみる……。


むにゅ、むにゅ……


(え?これって何なの?なんだか柔らかくて気持ちいいぞ?)


サワサワ……もみもみ……。


「ああん!あん。や、やめるんじゃヤマト……あ!スイッチがあった!……あん……。」


そして、明かりがついた。


パ……。


「こ、これは」「これは!?」


3人が3人とも違う反応だった。


明るみのなか、俺はリリスの胸をまさぐっていた。


「あ……あうん……やめるのじゃ。ヤマト……。」


悶えるリリス。


「な、な、な、」と、状況を凝視するリーラン。


「こ、これは……違うんだ……リーラン。」


「いやぁぁ!!」 


顔を真っ赤に怒るリーラン。


「ちが!これは!」


俺が弁明する暇もなく、リーランの反応は早かった。


シュン!!


「え?」


リーランは、高速でしゃがみこんだかと思うと。そのまま跳躍した。そしてロケットのようなスピードで俺に向かって飛んできた。


あまりの早さに対応できない俺。


「うわぁぁ!?はえぇ!!」


ドゴォ!!!


リーランのドロップキックが俺の腹に決まる。


ボキボキ……。


俺は、自分の肋骨が折れる音を聞いた。


「ぐぼぉ!?」


俺は血を吐きながら吹っ飛び。壁に叩きつけられ、気を失った

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