第96話 魔王復活
雷雲が空に満ちた。空の裂け目を警戒するように、暗闇を切り裂くような雷が落ちる。
「うわ!」
ドン!ドンン!
ザァァ………。
雷雲から大量の雷が降ってきた。
「雨が……。さっきまで晴れていたのに……。」
俺はズブ濡れになりながら、再び空を見上げる。
やはり巨人が這い出そうとしていた。
「俺の目の錯覚か?あれが……あれが魔王エングルドなのか?」
魔王エングルド。
リリスの元肉体。片眼球にして、魔王へと進化を遂げた突然変異体。
龍神大戦、龍魔大戦の元凶。
リリスから聞いていたが、それがあれなのか?
龍人族を滅亡へ追い込み、リリスを殺した張本人。
魔王エングルドなのか!?あの巨人が……?
俺はリリスの顔を伺った。
「……。」
リリスの表情は険しい。しかし、若干怯えが入っているようにも見える。
「め、目の錯覚じゃないよな。」
巨大な手が空の裂け目から出ている。その手は何かをこじあけようとしているのか、周囲をまさぐっている。
「か、顔が出てきた。」
隙間から二本の腕が完全に出てくると、中から骸骨……いや、ゾンビの顔が出てきた。
「うわ!ゾンビ!?」
リリスはその顔を見て3歩ほど後退しながら呟いた。
その顔は青ざめている。
「やはりエングルド……!顔の肉が腐り落ちているが、間違いない。」
魔王は裂け目からズルズルと出てくると、完全に裂け目から出た。
全身があらわになる。
そして空中に立った。
比喩ではなく、空中で腕を組み仁王立ちしているのだ。
足先から頭までの肉は腐り落ち、そしてゾンビのような巨人……。聖龍がドラゴン化したときの数倍はあるように見えた。
「な、何て大きさだ。」
この中、バフォラットの動きだけが迅速だった。
『……一旦引く……。ここで死にたくないのでな。』
シュン!
「……消えた!」
「バフォラットと言えども、エングルドの相手にならぬ。逃げたのじゃ。」
「悪魔が尻尾を巻いて逃げるなんて……。」
あれだけ強かった悪魔でも敵わない相手、それが魔王エングルドなのだ。
改めて魔王の強大さを感じた。
そして、巨人に動きがあった。
ゆっくりと、こちらに首が向く。
「お、おい……。魔王の奴こちらを見ていないか?」
「気がついておる。はっきりとワシを認識しておるよ。」」
そう言うリリスの顔は、顔面蒼白だった。
巨人は、ニヤリと笑った。笑ったのだ。
「う……わ……。」
俺はおぞましさで鳥肌が立っていた。
生理的嫌悪の域を超えた気持ち悪さだ。
すると魔王が口を開く。その声は小声だったようだが、こちらにはっきりと聞こえた。
「リリスか。生きていたのか……。我は弱体化している。後日殺してやる……。」
すると、魔王の体に変化が起きた。
ズ……ズズ……。
「ま、魔王の体が小さくなって行くぞ!」
「……む。」
スルスルと、サイズダウンしていく魔王。一体どういうことだ?
俺とリリスは、それを黙って見ているしか出来ない。
小さくなるに従い、通常の人間サイズになったようだ。
距離が遠いせいか、ここからでは認識が難しい。
「ホーク・アイズ(鷹の眼)!」
俺はスキルを使って、魔王を確かめる。
「ん!?」
魔王の顔が見えた。見えたのだが……。
「あれ?」
「どうした?ヤマト。」
「いや……。何か魔王だよな。あれ……。」
「ホーク・アイズで見えておるじゃろう。」
「ああ……見えているんだけど。何て言うか……。美少年が居るんだよ、空中にフワフワと。」
「……半分が白髪で半分が黒髪のか?」
「そうそう……!え!?何で判る!?」
リリスの言うとおりだった。ちょうど右半分が白。左半分が黒。黒白のヘアカラーの美少年がいるのだ。
「それは魔王エングルドじゃよ。間違いない。」
「ええ!?」
さっきと全然違う……。あんな美少年になるの!?さっきのゾンビが!?
「おそらく、長い封印で力が戻っておらんのだろう。さっきの巨人の姿を見たろう?」
「ああ……。」
「あれを維持するだけの力が残っておらんのじゃ。」
「……。あ!」
俺達が話し合っている間に、魔王エングルドが動いた。
上下に空中を浮遊していたかと思うと、超高速で西のほうへ飛んで行ってしまった。
暗雲が晴れ、雲が消えた。
途端に太陽の光が刺して周囲の様子が明るく変化する。
リリスは腕を組み、深刻な顔をしている。
「……魔王の封印が解けた。これは大変なことになるぞ。」
「え?」
リリスの言葉を俺は問い返す。聞きたくない単語が飛び出すことを予想して……。
「魔王復活じゃ。」
「うわ。聞きたくなかったわ。それ……。」
どうしてこのタイミングで……。今日は散々だ。
魔人10体に襲われ死にそうになり……。
悪魔が現れて殺されそうになり……。
今度は魔王復活ショーを見せられた。
どんだけテンコ盛りなのよ。今日は……。
「魔王の力が全回復しておらんのは判った。やはり龍の里に戻って……。」
リリスがこれからのことに頭を回そうとしていた時だった。
俺は魔王が居た空に違和感を感じた。
ホーク・アイズで視線を凝らす。
「……ん!?」
俺は魔王が出てきた空の裂け目に注目すると、ありえない光景が眼に入る。
「あれは!?」
空から少女が、ゆっくりゆっくりと落ちてきているのだ。
俺は思わず叫んだ。
「シー◯!?」
「何じゃそれは?」
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