第95話 悪魔バフォラット

【悪魔族】

悪魔族は2つの種族に別れる。


1つは原初から存在する悪魔。


もう1つは神族だったものが、悪魔族へ変化したもの。


”後者は堕天使”とも言われ、前者は”純血の悪魔”とも言われる。


悪魔が最も欲するものは人間の魂である。魂を喰らうことで悪魔族は永遠に近い寿命を得ている。そのあたりが神族と明確に異なる点だ。


悪魔は魔界に住む。魔界は地上界との次元門が通じているため、悪魔にまつわる伝承や伝説が人間界では多く残されている。人間にとっては馴染みが深い異界の住人ということになる。


悪魔は群れることを非常に嫌う。そのため、魔界の魔王になることは滅多にない。魔物、魔人、魔聖が魔王になることがほとんどである。


悪魔と神は紙一重であり、強大な力を持つ。知性や力は神と何ら変わらない。

そんな悪魔の1人である。バフォラットがヤマトの目の前に立っていた。


「あ、悪魔……?」


「そうじゃ。奴は純血の悪魔種族バフォラットじゃ。」


「な、何で悪魔がこんなところに!」


「……そうじゃ。バフォラットは上位悪魔。地上界などに姿を見せるなど、滅多にないはず。」


しかし、現にバフォラットは俺達の前に立っていた。


二人が動揺していると、バフォラットは俺達に視線を向ける。


ちなみに、俺はイレイス・サイン(気配隠蔽)を使用中だ。存在が感知されるはずが無かった。


バフォラットは俺へと視線を合わせ。俺もまっすぐに見た。


その目は真っ赤に充血しており、怪しい光を放っていた。


『お前がオステリアが言っていた小僧か……。』


(オステリア!?)


意外な場所で、意外な存在からオステリアの名前が出てきたことに驚いた。


『ふ……そのようなスキルで我の目を欺けるか。』


バフォラットが、右手をかざす。


ブン!


俺のイレイス・サイン(気配隠蔽)が、強制解除されてしまった。


「な!?俺のイレイス・サインが……」


同時に、リリスは実体化した。


「……っ!リリスか。」


バフォラットは、リリスを見て少し驚いた。


リリスは悪魔バフォラットを憎々し気に睨んでいる。


『何故。死んだはずでは……。これは簡単にはいかぬぞ。オステリアめ、情報が少なすぎるぞ。』


俺はリリスとバフォラットを交互に見る。どうやら、リリスのことをバフォラットは知っているようだった。


バフォラットは、リリスを警戒しているようだ。


「バフォラット。どうやらオステリアに唆されたそうじゃの。」


すると、バフォラットはヤギの目をさらに細めた。


『我とてオステリアに言われるままに動くのは本意ではない。』


「オステリアに何を言われた。」


『……答える義理はない。』


「何?」


すると、バフォラットは俺のほうへ体ごと向き直る。


『小僧が神崎だな?』


俺はビクっする。


(か、神崎だと……。俺の前世名を!?)


リリスは叫ぶ。


「オステリアの目的は何じゃ。こやつを転生させたもの奴か!?」


俺が半ば震える声で問いかけると、バフォラットは笑った。


『ふ……ふははは!これは面白い。何も知らないのだな。』


「何がおかしい。」


『ふ。魂研究技術を研鑽していたお前が、神崎の魂に気がついていないことが

滑稽だ。』


「何を……。」


俺とリリスは顔を見合わせた。


『まぁ。良い。悪魔族は龍魔大戦のときには不参加を貫いた。しかし、悪魔族は見ていたぞ。カリアースの変化を。』


「カリーアスの変化を……?」


リリスの声は疑念に満ちている。


もともと悪魔は人を騙す。そのため、会話を続けたとしてもあまり益が無い。


しかし、俺は横で聞いているが、”悪魔族が不参加……”。これはリリスから教えてもらった歴史と一致している。


かつてリリスは、魔界の魔王軍と地上界で戦いを繰り広げたが、魔界の全魔族が参加していたかと言うと、違う。


魔界には、強い勢力として『三大魔王』と『悪魔族』が存在している。


その三大魔王は、リリスの右眼から変化した信仰勢力である『新たな魔王』を嫌っていた。そのため不参加。


さらに悪魔族は参加していない。悪魔族は群れることを嫌うため、そのため、傍観していたと聞いている。


つまり龍魔大戦での戦争は、『新たな魔王』vs『地上界全戦力』 との闘いであったのだ。 


「な、何を言っているのじゃ。バフォラット。カリーアスの変化じゃと?」


『……まぁ良い。我の知ったことではない。ここでお前らを殺し、魂を啜るまで。』


すると、バフォラットから黒い魔力が迸った。


「ぬ!」


「!」


俺とリリスは、硬直した。


(逃げられない……。必ず殺される。)


動物の本能として、俺はそれを悟った。


蛇に睨まれた蛙は動きが止まると言うが、まさにそれだ。


『龍人族王に敬意を……一瞬で殺してやる。』


これまでか……!


そう思っていたときだった。


大きな地震が起きた。


「……!」


「……!」


『……何だ。これは。』


バフォラットが何かしたのかと思ったが、どうやら違うらしい。


地震は思ったよりも大きい。


俺とリリスは立っていらないほどに……。


(バフォラットは……)


俺はバフォラットを見た。


(空を見ている……?)


バフォラットは今までの余裕の態度からは変化していた。天を見て慌てているように見えた。


『まさか。まさか……。くそ、どうなっている。我は欺かれたのか。』


そのときリリスが叫んだ。


「あそこ!」


(空……?)


俺が目を凝らすと、そこには。


空が裂けて亀裂が入っていた。その亀裂から、大きな手が見えた。


「あれは……?」


まるで巨人が這い出て来ようとしているような光景だ。


あまりに現実離れしている光景から、俺は傍観することしか出来なかった。


やがて、亀裂から巨大な顔……、上半身が出てくる。まさに、巨人が天の裂け目から這い出ようとしているようだ。


「リリス!あれは!」


するとリリスは青ざめた顔で呟いた。


「魔王エングルド……。」


「……っ!?」


世界は変わろうとしていた。

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