第92話 セイルシールドの丘

リリスの勧めで、さっそく加護を使用してみることになった。


加護って常時発動かと思っていたら、オンとオフがあるらしい。


「ヤマト。地竜と会わずに行けるか。やってみるのじゃ。」


「わ、わかった!でも加護を使うのって、どうやれば良いのかな。」


「簡単じゃ。念じてみれば良い。」


「よし……。『竜種との遭遇率を下げろ』!」


ポワ!


「!?」


俺は念じてみると、俺の体が一瞬光ったように見えた。


しかし、すぐにその光は収まる。


「これで遭遇率が下がったのかな……。」


「まぁ、行ってみるのじゃ」


加護の力を調べてみるのも兼ねて山の登山を開始した。


聖龍の加護のおかげなのか、竜に一匹も遭わず。


俺達は竜のトンガリ山をとうとう越えた。


目の前に平原が広がる。先ほどまでの岩山エリアから、完全に脱したようだ。


「ほ、本当に遭遇しなかったぞ!」


「便利な加護じゃ。ほれ、うっすら見えるか?」


リリスが南のほうを指さす。


「うん?」


「あそこがセイルシールドの丘じゃ。眺望が素晴らしい場所で有名じゃった。」


見ると、地平線まで続く平原があるが。その先に一際目立つ丘が見えた。


そこは緑いっぱいである。


「おぉ。あそこがセイルシールドの丘!?楽しみだ。」


「丘の頂上を越えると、龍人の里が見えてくる。」


「よ、よし!行こう!」


俺達は急ぎセイルシールドの丘へ進んだ。


平原はゆるやかだが非常に広大だ。地平線なんだか、いつまで経過しても丘に到達できない俺は疲れはじめていた。


考えてみれば、朝からの移動距離がすさまじい。何十km歩いたのだろうか。


しかし、1時間も歩くと丘の麓に到達。


「よし!登るぞ。ここは魔物もおらん。安心して登れ!」


「ま、まだあるのかよ。」


「頑張れ!ゴールは近いぞ!」


「りょ、了解……。」


そして、俺はもくもくと登る。


登ること、さらに1時間。


「はぁ……。はぁ……。やっと丘の頂上だ。」


俺は頂上へ辿りついた。


きっと眺望がすばらしいのだろう……、そう思って俺は周囲を見渡した。


しかし、頂上からの眺めは……。


最悪だった。


「な、何これ?ここから先への眺めは……。」


まるで魔界のような風景だ。空はドロドロ雲がうごめいてるし、何か地獄みたいな景色だ。


「荒れておるのぅ……。昔はこんなじゃなかったのじゃが。」


「魔界の庭みたいな景色だぞ。」


「おかしいのう……ここは世界でも美しい眺望で有名なんじゃが。」


「リリス。丘頂上まできたけど。早く龍人の里にいこうぜ?向こうに下るのか?」


「ここからは近い。あっちへ下るのじゃ。そこに谷があるでな……。」


その時だった。


リリスが指さした丘の向こうに、何かが蠢いたのを俺は確認した。


「……うん?何だ?」


「どうしたのじゃ?ヤマト?」


「今、何か見えたような……。」


「ホーク・アイズ(鷹の眼)を使ってみぃ?」


「うん。」


俺はすぐにスキルを発動した。


そして、俺は固まった。


「……ヤマト?」


「ま……じんだ。」


「何?何が見えたのじゃ?」


「ま、魔人だ!向こうに魔人が見える!」


「何ぃ!?」


「1……2……3……10。10体。10体の魔人がいる!」


「10!!異常じゃ、魔人は群れない。おかしいぞ。本当に魔人か!?」


「多分……。」


俺は修行により、魔力を見分けることが出来るようになっている。以前襲われた魔人のオーラとそっくりなのだ。


「白い肌の人型の魔人だ……。顔は口しかない……。」


大きな口が頭部についているが、目や鼻などは確認できない。違和感の塊のような生物だ。


すると、リリスが絶望したような声を上げた。


「下級魔人”ラードク”じゃ。魔人なのは間違いない。」


「ラードク?」


「うむ……。下級と言えども、以前のゲーカト種とは比較にならん。俊敏性に優れた魔人じゃ。」


「い、以前の魔人と比べてどっちが強いんだろう?」


「ゲーカトの数倍の戦闘力を持っておるぞ。今戦えば死ぬ……。しかも10体じゃ。確実に殺されるぞ。」


俺は体が震えるのを感じた。俺はここ数年で各段に強くなった。


スキルもかなり手に入れたし、基礎身体能力も向上した。


しかし……。リリスが言うように殺されてしまうのだろう。


俺は強さは”人間のレベルとして”だ。身体強化魔法にしても、基礎能力にしても人の枠を超えていない。


それでは魔人に勝てないのだ。


魔人は魔界の住人。そもそもスペックが違う。


人の枠で戦えるほど、やさしい相手では無い。


修行中。もしゲーカトと戦ったら?と、俺は何度も戦闘シュミレートしているが……。


あのゲーカト魔人と再度戦っても勝てる気がしない。まだまだ俺の力はそんなものなのだ。


「ヤマト。気がつかれない内に逃げろ。竜のトンガリ山へ戻るのじゃ。」


リリスが青ざめた顔で忠告をしてくる。


「…………。」


俺はホーク・アイズで魔人を見ていた。


呆然としている俺にリリスが警鐘を鳴らす。


「……ヤマト?どうした?はよ逃げるんじゃ。」


「気が付かれた。」


「……なに?」


「気が付かれた。10体の魔人がこっちへ走ってきている。」


「は、走れ!ヤマト!」


「……っ!」


俺と魔人達の鬼ごっこが始まった。

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