第88話 龍王 聖龍

「いやぁ。汗かいたからさ。この水美味しいね!」


「ふはは……余程、喉が渇いていたんじゃな。」


(……んんん?)


普通に会話してたけど、誰!?


俺は川の向こう岸を見てみる。


すると、そこにはとても人間とは思えないくらい綺麗な顔をした美少女が立っていた。


「だ、だれ?」


その少女はニコリと笑う。


「名を求めるときには己から名乗るが良いのじゃ。少年よ」


少女とは思えない落ち着いた声。


「じゃ」と語尾につけるリリスみたいな物言いだった。しかし、綺麗な調べのような音楽的な声だ。


(とんでもない美少女だな……。)


彼女の外観は身長160㎝ほどだろうか、それほど高くはない。特徴的なのはエメラルドグリーンのロングへアーだ。太陽の光を反射してキラキラしている。


年齢は幼く見える。16歳くらいだろうか。


遠目で見ても、とんでもない美少女だと分かる。


それに、この世界でグリーンカラーの髪は珍しい。初めてみた……。


「ご、ごめん。俺はヤマトって言うんだ。ヤマト・ドラギニス。」


「ヤマト……?昔、同じ名前の強い男がいたな……。」


そういうと、その少女はこちらにゆっくりと歩いてきた。


(ヤマトって名前って珍しいと思うんだけど、同じ名前?)と俺は思ったが、今は少女に見惚れてしまっている。


少女は俺の近くまで来て、興味深そうに俺を見つめている。


俺は彼女に見つめられて、胸の鼓動が高まるのを感じた。


(ま、まじで超絶美少女だな……この子。)


「そ、そうなんだ。俺は全然弱いけどね。」


近くに来た少女をみて俺は目を見張った。


眉目は繊細なタッチで描かれた絵画のようで、手足のバランスが素晴らしい。


完全な8頭身だ。


それに豊かな胸が強調されたドレスが、俺の目のやり場を困らせた。


(ドキ……ドキ……。)


服装は、白いブラウスに青のベスト、黒のロングスカートという格好だ。


スカーフが少女を可愛く見せている。


ロングスカートは見事な刺繍がつけられていて。良くみるとドラゴンの刺繍だ。背中にはこれまた見事なブルーのマントを背負っていた。


一つ一つの素材が、ものすごく高そうだ。


ぶっちゃけ、このような山奥に相応しくない。


(もしかして貴族の子なのかな?)


「名をこちらも名乗ろう、聖龍と言うのじゃ。」


「セイリュ―……」


「そう、聖龍じゃ。」


「……セイリューね。」


「な、何かイントネーションが違う気がするんじゃが。気のせいか?」


セイリューは、地面に字を書いて説明してくれた。


「そう?聖龍ってこと?」


「そうじゃ。そうじゃ。」


「あはは。でもすごい名前だね。龍族の王様の名前じゃん。」


「いや……。うん。まぁ良いわ。」


何か言いたげだったが、口を閉ざした。


「どうしたの?」


「何でも無い。ところで、オーブを見なかったか?ここにはオーブが良く居るんじゃが……。」


「オーブ?さっき見たけど……。俺がジャグ……」


「あのオーブ達は龍族が大事にしておっての……。祖先の魂達と言われているんじゃ。神聖な存在なんじゃよ。珍しいのぅ。一つも居ないなんて……。」


「へ……へぇ……。」


俺は神聖なオーブでジャグリングしていたと、正直に言おうか悩んでいたときだった。


横から声が入りこむ。


「懐かしいのぅ……聖龍。ワシが判るか?」


俺が振り返ると、そこにはリリスがいつの間にか立っていた。


リリスの姿を見ると、聖龍は驚いた。


「龍人王リリス!?生きていたのか!?」


「え?!」


「オヌシこそ懐かしいな。聖龍よ。引き継ぎがなされているようじゃの」


「え?え?……知り合い?引き継ぎって?」


俺はリリスと、セイリューを交互に見合う。何が何だか分からない俺。この少女とリリスは知り合いのようだ。


リリスは俺の様子を見て、口を開いた。


「知り合いも何も、コヤツが聖龍よ。龍王じゃ」


「えぇ?龍王!?」


も、もしかして。まじで聖龍?龍王?


龍族の王は、畏敬を込めて聖龍と呼ばれる。


こんな小さい子供が?そんなバカな……。


リリスの奴俺をからかってるのか?


「またまたー冗談を……。」


「ふふ、信じられぬか。」


「え?うん……。」


聖龍はリリスに向き直った。


「しかし、リリス殿……魔王との戦いで死んだのでは?まさか生きているとは驚きじゃ。」


「まぁ。いろいろあってのぅ」


リリスは誤魔化した。


「ところでじゃ。なぜ龍王がここに?」


「ここに転移門があるんじゃ。今日は政務に疲れて散歩にきたんじゃ。」


「そうか……しかし、龍王がいなくなって国では大騒ぎではないのか?」


「ははは、たまには良いんじゃ。龍王だって疲れるのじゃ。」


仲良さそうに話し合う二人。龍族と龍人族って仲が悪いって聞いてたけど、全然じゃん?


リリスが俺のポカーンとしているのを見て、声をかけてくる。


「何を呆けておるのじゃ?ヤマト。」


「いや、伝説だと龍族と龍人族って仲が悪いって聞いてたからさ。」


すると、聖龍は笑った。


「ふはは、それはデマじゃ。お互いに尊敬しておった。」


俺はその会話を聞いて違和感を感じた。


「ん?ということは、聖龍って何歳なの?」


リリスが死んだのは、今から何千年も前だ。つまりセイリュ―は数千年以上いきているという計算になる。


「レディーに年齢を聞くとは失礼な奴じゃ、ワシはピチピチの160歳じゃ。」


「ひゃ、160歳?!」


「そうじゃ?若いじゃろ?」


見た目16歳くらいに見えるのだが、160歳なの? 違和感半端ねー!


「え?でもリリスと知り合いだって……リリスは数千年前に死んだから……」


「ああ、我ら龍族の王は、世代交代するときに記憶を一部引き継ぐんじゃ。」


「え!?そうなの!?」


「直にリリス殿と会ったことはないぞい。でも3世代前の聖龍王が面識があった、その記憶はバッチリ引き継がれておるのじゃ。」


つまりこういうことらしい。


代々、龍王は世襲である。龍王になると、名前が「聖龍」となる。1代目の聖龍が死ねば、その子供が引き継ぎ2代目聖龍となる。その際に引き継ぐのは位だけではない。なんと記憶も引き継ぐらしい……。


しかし、どこからどう見ても、少女にしか見えない。この子が龍王とは……。

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