第87話 悠久の川

危険な山を登り続ける俺達。


トンガ〇コーン山とか茶化していたのが懐かしい。


「リリス……。俺は何だか魔獣の森が懐かしいよ。ここ危険過ぎるよね?」


「何をビビッておる。大丈夫じゃ。地竜は足がそれほど速くない。オヌシの足なら逃げられるじゃろう。」


「ほ……遅いのか……。」


俺は足には自信がある。スキルを使えば相当な速度を出せる。


「まぁ、時速50kmくらいで追いかけてくるがな。」


「め、めちゃくちゃ速ぇじゃねーかよ!!」


俺はそれくらいの速度は余裕で出せそうだが、予想外に足が速い。持久戦になると分からんぞ。


全然遅くないぞ、地竜。


「き、気をつけて行こう。出会わなければ良いんだ。」


それから俺は怖くなってしまった。洞窟を見るたびにビクビクしながら進む。


過剰にホーク・アイズ(鷹の眼)を使って警戒していた。


「まったく、だらしないのぅ……。龍人族としてデンと構えんかい。」


「うるせーよ。俺はまだ7歳なんだぞ!それとも何か?昔の龍人族の子供でも地竜と戦って勝てたのか?」


「いや……そりゃ無理じゃな。」


「だろ?俺がビクつくのも無理ないって……。」


「はぁ……仕方ない。先を急ぐぞ……。」


リリスと、そんな掛け合いをしながら山を登ること数時間、まったく頂上が見えないことに俺は疲労を感じていた。


結構、標高が高くなっているようだ。空気が薄いし気温も下がっていた。


普通ならヘバってるんだろうけど、気候耐性が効いてるみたいで何とか大丈夫な感じ。


「喉が渇いたな……。」 


俺がそういうと、リリスが休憩を提案した。


「ここらで休憩にするかの。そこに川がある。」


「え?川?」


俺が目を細めると、たしかに少し小高い崖の向こう側に川が見える。


「あの川は悠久の川と言ってな。龍人族が良く好んだ川じゃ。」


リリスが懐かしそうな顔をしていた。


「へぇ……悠久の川……いい名前だな……。」


俺は少しホッコリした。


「あそこでカップルがエロいことをするので、カリアースがよく覗きに行っていたのぅ」


「雰囲気ブチ壊しだな!!」


そして、カリアーアスが覗きをしていたと言う悠久の川に到着。


「とりあえず、ここで休憩じゃ。」


「わ、わかった……。」


俺たちは腹も減ったので、ディメンション・ボックスから干し魚を取り出して焼いて昼にすることにした。


リリスが火を焚いて準備を整えていると、俺は猛烈な喉の渇きを覚えた。


「喉が渇いた……。」


「……ならば川で喉を潤せ。ワシはこの干物を焼いておる。スープも作るから、ついでに川から水を汲んでこい。」


「了解。」


俺はリリスに火を管理させ、悠久の川に行くことにした。


すこし迂回して川辺まで来ると、サラサラと、せせらぎの音が耳に心地良い。


近くで観察すると、とても綺麗な水だということが分かった。


(ここだけ別世界のようだ……。)


優しい陽の光が差し込み、”天界のとある場所”と、言われても信じたくなるようだ。


川に近寄ると、光る球体が確認された。


「あ、オーブだ!」


川の周辺にオーブがいくつか確認された。


この辺りの空気は浄化されているようだ。オーブは魔素が濃すぎる場所にはいない。


「ははは……オーブみるとリリスの昔を思い出すな。」


(これは必然……出会いから運命の調べが奏でられる。)


「ん?なんだ?」


オーブから何か歌のようなものが聞こえる。俺は耳を澄ましてみた。


(これは必然……龍人族は復活する……そのための出会い。)


オーブが歌ってるよ。珍しい。


「め、珍しいな……。」


俺はオーブ達に近寄ってみることにした。


近寄ると、オーブは俺のことが好きなのかフワフワと俺の周囲を飛び回った。


「なんか。かわいいな……掴めそう。」


(これは必然……龍人族……あ……。)


ガッ!!


「あ、掴めたよ」


俺はオーブをガッシリ掴んでいた。


周囲の他のオーブが心配そうに俺の周囲を飛び回る。


「よ!っと」


俺は3つほどのオーブを掴むと、そのままジャグリングをしてみた。


ヒョイ!ヒョイ!!


「おぉ……オーブでのジャグリング成功!?」


しばらく遊んでいると、他のオーブ達が俺の頭めがけて突進してきた。


ボン!ボン!


「痛っ!痛い!?」


(このクソ龍人が……。)


「な、何ぃ!?」


掴んでいたオーブ達は俺の手から離れると、そのまま逃げていってしまった。


「あ、行っちゃったよ」


遠くから聴こえる……。


(出会う……まもなく出会う……クソ龍人に……。)


「誰がクソ龍人だ!!」


オーブは俺の言葉を無視して行ってしまった。


「ここのオーブは会話できるんだ……。」


そんなことを思いつつ。


ここにいても仕方がないので川に近寄ることにした。


川を眺めてみる。


「おぉ!?すげぇ透き通っていて透明な水だ。これなら飲めそうだな」


川が清いことを確認した俺は喉を潤すことに決めた。


周囲を確認して危ない魔物などがいないことを確認すると、俺は川辺に膝をついて川の水で手を洗うと、手の平にすくって口をつける。


ゴクゴクゴク……。


「プハー!なんだ、この水!無茶苦茶うまい!」


口をつけてビビったのだが、川の水が異様に美味い。


ミネラルウォーターなんか比ではないくらいのうまさだ。


なんだ?この川は……。


ゴクゴクゴク……。


「うめー!止まらない!」


ゴクゴクゴク……。


俺が一心不乱に飲んでいると、声が聞こえた。


「そんなに川の水を飲むと腹を壊すぞ、少年。」


「え!?」

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