第84話 魔人ラスター

森を出る……。


俺はそれを聞いて目を見開き、そして顔を伏せた。


「どうした。ヤマト?」


「いや……嬉しくて涙が……。」


「本当に泣いとる……ふははは!」


「わ、笑うなよ!ほ、本当に森を出るんだな?」


「ああ。この森に居てもこれ以上得るものが少ない。森を出るべきじゃろう。」


「やった……。やっと出れる。やったぞ。」


俺は小さくガッツポーズを取った。


この2年の間。本当に辛かった。

死にかけたことも何度もあった。つーか、即死レベルの傷を負ったこともあった……。


それでも、この捕食が期間限定じゃないか?という疑念のために踏ん張った。


それもこれで終わりだ。


森を出れるんだ。


「では、明日森を出る準備をするぞ。これから、さらに南を目指す。当初の目的じゃった龍人の里を目指すぞ。」


「わかった!」

翌朝。俺はすべての荷物をディメンション・ボックスで格納すると、拠点を後にした。


今まで集めた、珍しい鉱物や薬草なども格納しておいた。リリス曰く、相当な金になるらしいが……。


「良いか。再確認じゃ。これからの道のりを言ってみぃ?」


「おう。今は森の入口から南へ100kmの位置。つまり魔獣の森の最南端にいる。」


「うむ。」


「ここを抜けると。竜のトンガリ山がある。」


「うむ。」


「さらに竜のトンガリ山を越えると、セイルシールドの丘という見晴らしの良い丘が現れる。」


「そうじゃ。」


「そこまでくればゴールは近い。丘の近くに龍人の里がある。」


「その通りじゃ。」


「ここから竜のトンガリ山までどれくらいあるんだ?」


「何……。ここから20kmほどじゃよ。」


「俺の足なら半日で着くかもな。」


「問題は竜のトンガリ山自体じゃ、そこは地竜が出る。」


「地竜……。」


「あれは亜竜に属するので、ドラゴンとはとても呼べんが。それなりに強い。」


俺の前世の知識だと恐竜みたいなものだと記憶している。リリスに確認したら、かなり合っているらしい。イメージはついている。


「俺はかなり強くなったし。負けないだろ?」


俺がちょっと心配になって、リリスに確認を取ると……。


「いや……。地竜は別じゃ。魔物や魔獣と一緒にしてはならん。オヌシでも勝てるか判らんぞ。」


「そ、そんなに強いのか……。」


「仮にも”竜”と付いてるくらいじゃ。桁違いのパワーとスピードを持ってるぞ。おそらく、鱗に傷をつけるのがやっとじゃ……。」


そ、そんな恐ろしい生物がいる山に入ろうと言うのだから、正気の沙汰ではない。


大丈夫なのだろうか……。


「さぁ!出発じゃ!」


リリスは意気揚々と歩きだした。


不安しかない俺は、その後ろを付いていくのだった。

少し時を戻して。ここは2月前の魔獣の森。


魔界の魔王のうちの一人、蠅の王ベルゼブブが地上界に派遣した魔人がいた。


その名はラスター。


彼は魔獣の森の捜索に辟易していた。


「はぁ……どこにもいないではありませんか……。」


ラスターは行きたくもない地上界へ降り立ち。オステリア神が捜索しているという人間を探していた。


「蠅の使い魔達によれば、この辺りなんですがねぇ……。」


ラスターは、美しい人型の魔人である。


見た目は、黒髪と黒い瞳を持つイケメン執事である。


こう見えてベルゼブブが信用する近衛兵長を務めているというのだから、実力は折り紙つき。


魔人というだけで、桁違いの力を持っているのだが、その中でも最高位の実力を持っていた。


腹が減ったら人里や町に入り込み、近寄ってくる若い女性を食べた。


比喩ではなく、魔人にとって地上界の生物など全て捕食対象でしかない。


見た目が美しい魔人ラスターは、その点において何もしなくても「エサ」がホイホイ近寄ってくるから便利であった。


そのラスター。


足を組んで座っていた……。愚痴を言いながら、カップから紅茶を口につけては、また愚痴を言う。


外観からするにお茶を楽しみながら優雅に座っているようであるが、場所が問題である。


そこはなんと、地上から100mほど上空の空中であった。


上位魔人たるラスターにとって「空に浮かぶ」「飛行する」程度は造作もない。


息をするより簡単なことだった。


そのラスターが、面倒くさそうに地上の森の中を魔力探査を使い捜索を続けていた。


捜索対象は、青い髪をした魔力濃度の高い少年。 そこまで絞りこんでいた。


対象が人族と思われるが、データ不足のためはっきりしない。


何せ、女神オステリアですら見つけられて居ないのだ。材料がないラスターは不利に違いなかった。


とにかく青い髪で、魔力が高い者を探していた。


「……ん?これは……」


どうやら、ラスターは高い魔力を感知したようだった。


その魔力は尋常ではない。魔人レベルを保有しているようだった。


「ほう……魔獣でもないですねぇ。これは当たりかも」


笑みを浮かべたラスターは、その魔力のあるあたりに飛行した。


ビュオ!!


風のように飛行するラスター。


現場に急行すると、そこにいたのは……青い髪の少年と少女だ。


桁違いの魔力を感じる。


「当たり……ですね。しかし、これは想定以上の魔力ですねぇ。」


地上には青い髪をした少年が、パープルヘアーの少女と何やら話をしていた。


会話の内容は良く分からないが、状況を見守ってみるラスター。


「ふむ……。ちょっと「視て」みますか。このラスターの眼は欺けませんよ?ふふふ……。」


そういうと、ラスターの眼が怪しく緑色に変化し発光した。

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