第2章 魔王復活
第82話 ヤマトの朝
魔獣の森。最深部であり最南端。
そこは強すぎる魔獣、魔物が数多く生息していた。
地上界の魔界。そう言っても良い場所。
人間が入ったことが無いその最南端には未知の鉱物。金山、レアアイテムなどが眠っていると言われている。また群生する野草などは、治癒魔導士達が高値をつけること間違い無い宝の山などが存在するとも言われている……。
一攫千金を狙って森に入る冒険者達は多数いたが、誰一人ここまで到達できた者は居ない。大多数が北入り口で引き返すか全滅した。
人族・エルフ族・龍族・ドワーフ族・獣人族、どの種族であっても到達できない場所。
まさに地上界の魔界。
いずれにせよ、人が居るはずがない。
しかし、その居るはずがない場所に、逞しく生活している少年と美少女が居た。
ヤマトとリリスである。
「ふぁ……。おはよう。リリス。」
高台にある洞窟の前で、朝陽を浴びながら背伸びをするヤマト。
まるで、さわやかな朝を楽しむかのような風景。
ここが、魔獣の森の最深部だと忘れてしまいそうだ。
年齢は7歳。
まだ子供だ。
しかし、容姿は見る者の視線を虜にするほど優れている。
一見すると女性に見えるが、凛々しい眉が男性だと主張していた。
青い髪を朝陽に反射させている容姿は、まるで絵画から出てきたかのように美しい。
まだ7歳であるが、将来はこの地上界いちの美形になることは約束されているかに見えた。
森に入りたての2年前から比べ、身長も150cmを超えていた。手足が長く、子供ながらにスタイルは非常に良い。
ただし……、涎をたらして寝ていたのか、頬には涎の跡がついている。そして半目な状態はひどく間抜けな顔に見えた。
「おはようヤマト。涎がついておるぞ。きちゃないのぅ。」
「まじで。川に行って顔洗ってくるわ。」
「あの川にはオークが出る。気をつけろ。」
「オーク?はは……。行ってきます。」
リリスからの忠告を聞いているのか、迷わず川に顔を洗いに洞窟から下るヤマト。
リリスはため息を交えて見送る。
リリスの背後の洞窟には、レアアイテムや鉱石がぎっしり積まれていた。
ヤマトからすると「食えないから無駄。」と評価されているが、リリスが「売れば相当な金になるから持っておけ。」と、ヤマトに採取させたものだ。
運ぶのにも一苦労しそうだが、ヤマトには運搬スキルがあるので問題ない。
リリスは呟く。
「そろそろ頃合いかのぅ。」
そして、ヤマトは忍者のように川に向かう。
その足取りは軽い。
道なき道を、まるで兎のように跳びながら降りていく。
通常の人間であれば30分はかかるところを、ヤマトは3分ほどで踏破した。
バシャ……。
「ふぅ……。冷た。」
気持ちよさそうに顔を洗うヤマト。ついでに川に口をつけて水で口をすすぐ。
そんなヤマトの背後から、巨大な人影が揺れる。
オークだ。
【オーク】
身長は2mはゆうに超え、筋肉隆々とした腕はヤマトの胴回りを2つ合わせても太い。顔は豚と人の間であり、醜悪の対象とされる。
口は大きく、下顎から突き出た2本の牙の大きさがオークの年齢を見分ける方法とされる。
その力は人の10人分とされており。緑色のぶ厚い皮膚は高い防御力を持つ。
なにより厄介なのは、スタミナだ。
彼らは一旦戦闘に入ると、少々傷がついても戦闘を止めない。
冒険者数人でも倒せるかどうかの獰猛な魔物に分類される。魔獣ではないかという説と分かれるが、知能がある程度高いことと、群れてコミュニケーションを取って生活をするところから「魔物」と分類される。
討伐にはAランク冒険者が最低でも5名推奨とされている。
見た目と違って肉は美味く、高値で取引される。
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ただし。それは一般的なオークの話。
通常のオークと違い、この魔獣の森に生息しているオークは桁違いのパワーを持っている。
リリスの見立てでは、キングオークに近いレベルの戦闘能力を持っており、冒険者であればSランカー必須であろうと評価している。
そのオークが、ヤマトを背後から狙っていた。
しかし、ヤマトはオークの接近に気がついているようだ。
面倒くさそうに振り返る。
「お?リリスの予想どおり、オークかぁ。」
間延びした口調だ。そこに焦りは全く無い。
オークは知性を全く魔物だ。ヤマトの態度に嘲りを感じた。
「ブモモォ!!」
怒りの雄叫びを上げるオーク。
その声には「威圧」スキルが含まれていた。
棍棒を振り上げながら突進するオーク。
しかし、ヤマトは振り返りながら焦った様子はない。威圧された様子も無い。
「はぁ……もう。朝から見たくない顔なんだよなぁ。威圧なんて俺には効かないよ。」
目の前に迫るオーク。
ブン!
その棍棒で、ヤマトの頭部は消し飛ぶかに見えた。
しかし、ヤマトは軽くその攻撃をいなす。
「この前の奴らの生き残りか。復讐にきたのか?」
会話する余裕すらあるヤマト。
怒り狂ったオークは、棍棒を握り直して再び振りかぶる。
「無益に殺したくなかったけど、仕方ないね。」
ヤマトはゆっくりと右手を上げると呟く。
「ウォーター・ダンス・スネーク(水舞蛇)!」
川の水がせりあがる。まるで生命を持ったかのように盛り上がる。
それは一本の柱のような形状を取ったかと思うと、水の大蛇に変化した。
「ブモィ!?」
その水の大蛇は、オークの体に巻き付く。
そして、そのままオークの口に侵入を始める。
当然に呼吸が出来なくなるオーク。
「ボモォ!ゴボォ!」
のたうち回るオークを足元にみながら、ヤマトは呟く。
「朝からオーク肉のステーキか……重たいな。ゲールクロー(改)!」
ヤマトの日常がはじまる。
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