第80話 内緒

「ゲールクロー『疾風爪』!!」


ズア!!!


光る爪が発生し、目の前に飛んでいく。


「!!」


仰天するルシナ。


そして木々に激突すると細い木だったせいか、全部なぎ倒してしまった。


バキバキ……ズズゥーン……。


「な……な……。」


呆気に取られるルシナ。エルフにあるまじき顔をしていて笑える。


俺は笑顔で話しかける。


「ね?出来るでしょ?」


「……でしょ?じゃないよ少年!!一体何者なのよー!?」


森にルシナの叫び声がこだました。


(エ、エルフって感情があまり無いんじゃなかったのかよ。)


ルシナは超美人にもかかわらず、感情が迸るタイプで面白い。


俺のエルフのイメージは「クール」「ビューティ」「森の住人」「物静か」だ。


俺のイメージを返せ。


「じゃ、じゃあ。瞬間移動みたいなやつは?」


「ああ。あれは、これだよ。」


俺は腰を屈めると、スキルを発動した。


「瞬転!」


シュン!


ルシナの目の前からいなくなり、俺は1m先に着地した。


「デビルウルフのスキル……瞬転……!」


驚きのあまり、無言になるルシナ。


「……。」


「……あの?」


すると、ルシナは思い出したように視線を俺に向けた。


「魔法も使える?」


「うん。使える。身体強化だけだけど……。」


「身体強化……。君の年齢は10歳以下だよね?」


「俺はこの前5歳なった。」


「はぁ……。もう何が何だか……。」


ルシナは頭を抱えていた。


「どういうこと?どうして魔獣のスキルが使えて、何故10歳になっていないのに魔法も使えるの?」


「いや、俺も判らないんですよ。何故、スキルが使えるのか。魔法も使えるのか……。」


これは嘘ではない。


魔法は理由なく使えるようになったし、スキルは捕食が原因だけど、何故捕食をしてスキルが吸収できるのかも俺は判っていないのだ。


「嘘……を言っているようには見えないね。あの魔法契約でも修行が目的とも言っていたしね。このスキルと魔法の修行のことなの?」


「はい。そうです。」


「でもどうして……。そもそも、リリスさん。あなたは何者なんです?」


ルシナと俺の視線がリリスに向かう。


(リリス……。何と答えるんだろう……。)


俺が興味深かく見ていると、リリスは俺の予想を裏切る返答をした。


「内緒じゃ。」


「「!」」


俺は慌てた。


まさか、そう本当に答えるとは思わなかった。テレパシーで話し掛ける。


(お、おい。リリス?)


(うむ。仕方あるまい。答えられんものは答えられん。)


「ひ、秘密?」


「うむ。答えられん。」


はっきりと言い切るリリス。何かかっこいい。


しかし、ルシナは食い下がる。


「そういう訳にはいかないよ!ボクにも責任がある。」


「……。エルフの娘よ。誰にでも答えられん秘密の1つや2つはある。そうではないか?」


「……う、うん。」


「それにワシらは、魔法契約にも応えた。さらに魔眼者の審査にも応えた。敵意がないことも証明した。これ以上、何を求める。エルフは礼儀を重んじる種族 ではなかったのか?」


「……う。そう言われると。」


「じゃから、これだけ言っておこう。ワシらは“とある敵から逃げておる“。」


「敵?」


「その敵が誰か、何者かは言えん。じゃが、これ以上、ワシらに関与するとエルフにも被害が出る。そのため、ワシらはこの後に身を隠す。どうか探さないで欲しい。」


「身を……。そうか。ヤマトとリリスは逃げているんだ。誰から逃げているのか、何の理由で逃げているのか、それは答えらない……ってこと?」


「そうじゃ。」


「じゃ、じゃあさ。エルフ女王に言って匿ってもらおうよ!それならお互いの……。」


「ダメじゃ。」


「な、何故?ブルーサファイア王国は強大だよ。きっと力に。」


「その敵は、ルシナが想像以上の凶悪さじゃ。おそらくエルフ王国に甚大な被害を出すじゃろう。」


「そ、そんな敵に追われているの?リリスが?」


「いや、追われているのヤマトのほうじゃ。」


「ヤ、ヤマトが?」


ルシナは憐れむような目で、俺を見つめた。


「こ、こんな年端もいかないような子が、そんな目に……。」


「そうじゃ。こんな年端もいかない子がじゃ。健気に逃げに逃げ、魔獣の森まで逃げて来たのじゃ。どうか、判って欲しい。」


「……。」


正直、うまいと思った。


相手の情に訴えながら、突っぱねるところは突っぱねている。これならルシナも何も言えない。


「……判った。エルフの王国にはうまいこと伝えておくよ。」


おぉ!説得が成功した!?


「ありがたい。ほれ、ヤマト。お前からも礼を言うんじゃ。」


「う、うん。ありがとうございます。ルシナ。」


「ヤマト。大変なことに巻き込まれているんだね。本当に大丈夫?何か力になれない?」


「大丈夫。リリスもついてくれてるし。」


「そうか。ごめんね。色々こっちの都合ばかり押し付けて。」


「ううん。全然気にしてませんよ。」


そういうと、ルシナは目に涙を少し浮かべていた。


彼女は善良な人だ。何か傷つけてしまったかも知れない。


リリスは淡々と告げる。


「では、明日の朝にはこの拠点を引き払うのじゃ。元気でな。ルシナ。」


「あ、明日……。そんなに急なんだ。そう……、もう会えなくなるんだね。」


そう言うルシナの肩は、ひどく小さく見えた。


俺はいたたまれなくてルシナに声をかける。


「ルシナ。俺はまた帰ってくる予定だから。その時はまた……。」


「帰ってくるの!?ここに!?」


「うん。今から……そうだね。約5年後には問題なくなっているだろうから。」


俺はリリスの顔を見る。


リリスは頷いていた。


「そ、そう!じゃあ、これを渡しておくよ!」


そう言うと、ルシナは胸元から1つの骨笛を取り出した。

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