第76話 ルシナは見た

///////ルシナ視点が続く//////////


ボクの名前はルシナ・ウールー。


ウールー族の族長でもあり、ブルーサファイア王国ウールー領の領主でもある。


年齢は今年で85歳になる。エルフは長命種族だ。人族で言えば18歳くらいかな?


族長になれるのは、人徳を備え。精霊の意思を読み取れる400歳を超えたエルフだけだ。ボクみたいな若い族長は珍しい。


でも、この年齢で族長になれたのも理由がある。


それはボクが精霊魔法・風属性魔法という2属性持ちと言うこと。それに弓に関しては稀なスキルを持っていたこと。


そして何より……飛竜使いの才があった。


これが大きい。


飛竜と意思疎通できるのは、ほんのわずかなエルフだけだ。


王国内で、飛竜を操れる者は77名しか居ない。


ボクにはその才能があった。


そのため、領土内の仲間に推薦されて族長になった。領主になった。


しばらく領主として活動していたんだけど、それも短かった。


この飛竜使いは王国内でも非常に珍しいため、女王陛下に陛下専属の飛竜部隊に配属を依頼された。


とても光栄なことだった。


歴史に名を刻むことは間違いない栄誉職でもある。


迷うことは無かった……。


領地は副族長のララに任せ。ボクは女王陛下に命に従った。


とても名誉なことだった。


その後、ボクは軍の中でもめきめきと実力と実績を出した。そして、今では飛竜隊の斥候部隊長を務めている。


白兵戦でも、ボクは非常に高い力を持っていると自負している。弓はもちろん。剣を使った戦闘能力も高い。魔法能力も非常に高いと自負している。


しかし、単独でクローベアーと戦って勝てるか?と言われれば首を横に振らざるを得ない。


1人ではとても無理だ。


そりゃあ、飛竜を使えば別だけど。


単独で……、風魔法や弓、精霊魔法を駆使したとしてもクローベアーの皮膚を突破するのは無理だろう。


奴らは鎧のような皮膚をもっている。


さらに厄介なのは、あの爪と牙だ。鉄をもバターのように引き裂くと言われている爪にかかれば、間合いに入った時点で死を覚悟しなければいけない。


クローベアーは中距離でも強い、特有スキルの【ゲールクロー(疾風爪)】というチートスキルを持っているからだ。


あれは厄介だ。まず発動時間が短いことと、威力が半端ない。


クローベアは生きる戦車。そんな呼び名が相応しい魔獣だ。


そんな恐ろしい魔獣相手に、ヤマトは蹴りを入れた。


信じられない。蹴ったんだよ?

ドガ!!


(え!?)


ボクは驚いた。


あの小さいヤマトが後ろに回り込み、巨大な魔獣クローベアーを蹴り飛ばしたのだ。


「い、いつの間に……?」


意味がわからない。さっきまでヤマトはクローベアーの前にいたはずだ。


(い、いつ回り込んだの?ここから見ていて見えなかった…。)


しかし、たかが小さい子供の蹴りだ。生きる戦車たるクローベアーに効くはずがない。


しかし、蹴られたクローベアーはゴムボールのように弾き飛んだ。まるで巨大ハンマーで背中から殴られたかのようだ。


(なんて蹴力!?)


ボクは驚いた。蹴られたクローベアーは、よほどの打撃だったのか口から血を吐いて立てないでいる。


地面で生まれたての小鹿のように震えていた。


(致命傷に近い怪我を負わせている……。あのクローベアーを!?)


しかし、危険が去ったわけではない。


クローベアーはもう1頭いる。


(あぶない!)


「グアアア!」


もう1頭のほうが、リリスのほうへ牙を剥き出しにしながら走った。


(リリスが危ない!)


そう思ったとき、ヤマトがまた”消えた”。


フッ……。


消えたかと思ったら、クローベアーの真横に立つヤマト。


(ま、また消えた!?あの動きだ。すごいスピードで見えなくなる術だ!魔法!?)


そのあとは、あの邪神への祈りのような動き。


ヤマトが高速で腕を上から下に振る。すると、ベアーから血が吹き出た。


「す、すごい!?鎧のような皮膚を持つクローベアーに傷を負わせるなんて。」


しかし、ボクは見誤っていた。クローベアーが受けた傷は、即死レベルの裂傷だったようだ。


ブシャー!


血がクローベアーから吹く。


「グ……アア……。」


ドウン。


そのまま生きる戦車は倒れ込む。


(え?ちょっと!ちょっと!?一撃?)


どうやら一撃で絶命したようだ。


信じられない……。


タフネスで知られるクローベアーが一撃だ。


あのヤマトの術は、風魔法のエアー・カッターよりも威力があるということだ。


しかし、まだクローベアーは1頭残っている。


だが、その1頭は蹴られた衝撃から立ち直っていない。


ヤマトはゆっくりと悶えているクローベアーの前に向かう。


その前に立つと、ヤマトは可愛い顔を悪魔のようにして微笑んだ。


ニヤリ……。


ボクはあの笑顔を見て思った。


(絶対子供じゃないでしょ!あの子!)


ボクが呆気に取られていると、ヤマトは両腕を上げた。


そして、叫んだ。


「撃つべし!撃つべし!撃つべし!」


訳の分からない掛け声と共に、めったうちだ。


10秒後には、クローベアーは肉塊になっていた。


ボクは今日とんでもないものを見てしまった。


若干5歳かそこらの少年が、クローベアー2頭を単独で倒したのだ……。


彼は一体……。


特に最後の掛け声は一体……。

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