第75話 撃つべし!

リリスの言うとおりスキル訓練を重点的に進めることにした。


食料問題?それは新しい漁法?で解決済みさ。


つーか、岩をぶん投げるだけだけどさ……。


まぁ、方法はともかく。


魚を安定して取れることになったので、訓練に集中できる時間ができた形になった。


「リリス、どれくらい訓練を出来る時間があるのかな?」


「おそらく10日じゃ。転移門を使ったとしても王族への報告やら契約やらで時間がかかるはずじゃ。まず10日はかかる。10日の間にスキルをモノにするのじゃ。」


「10日か……。よし!」


俺は早速スキル”ゲールクロー『疾風爪』”を練習することから始めた。


とにかく撃ちまくった……ええ撃ちまくりましたよ。


朝おきたら、ゲールクロー『疾風爪』。昼は身体強化魔法訓練。夜寝る前に”瞬転”。


修行という言葉がふさわしい毎日を送った。


スキルと魔法の練習をバランスよくやる毎日。


ふと、不安にもなる。


(いつになったら森から出れるんだろうか。 もしかしてリリスのやつ、10歳までここで修行させるんじゃないか)


しかし、それはともかく修行を繰り返した。くる日もくる日も……。


「撃つべし!撃つべし!えぐりこむように撃つべし!」


「なんじゃそれは……。」


「俺の尊敬する。ボクシングトレーナーの言葉さ。」


「はぁ?」


と、リリスに呆れられながら、俺は練習を繰り返した。


そして変化が起きた。


5日目、ゲールクローと瞬転の発動回数が、累計3000回を超えたあたりだ。


突然、ゲールクロー『疾風爪』の威力が上がった。


「ゲールクロー『疾風爪』!」


バキバキ!


俺の目の前に立っていた、俺の胴回りの半分くらいあるの木がなぎ倒される。


「おお!」


自分でやって、自分で驚く俺。


「ゲールクロー『疾風爪』がモノになりはじめているのじゃ!」


「はぁ……はぁ……。頑張ったもんな。」


「うむ。さっきの威力くらいなら、十分武器になるのじゃ。」


「あとは、瞬転だな。」


そして、翌日から瞬転を重点的に練習。そちらもコツをつかんだ。


「見てろ……リリス。」


「うむ。」


俺はリリスの前で、右足を前に左足を後ろに伸ばして腰を低くする。


構えはあまり意味がないんだが、こうやると俺の場合発動しやすいんだ。


「瞬転!!」


シュン!!


俺は元いた場所から、1mほど高速移動することに成功していた。


「おぉ!すごいぞ!まるで見えんかった」


「1mだけだけどな。」


「それでも、これなら実戦で使えるぞ。でかした。」


「へへ……。」


とうとう瞬転を身につけた。1m程度だけど……。


「もう8日目じゃからギリじゃな。魔獣探しと拠点探しを開始するぞ。」


俺達は翌日か新たな拠点探しをはじめた。


その間もずっとエルフの気配は感じなかった……本当にまだ大丈夫なのか? 


(鼻ほじるのとかトイレ行くのに、気を使うんだけど……)


※※しかし、ヤマト達が予想していたより、ルシナの行動は素早かった※※


///////ルシナ視点//////////


【監視1日目】

ボクは大急ぎで王国へ報告を済ませると、すぐに魔獣の森に戻った。往復で6日ほどだ。


ふふん。王国随一の飛竜乗りを甘く見てもらっては困る。転移門もあるから、これくらいで戻ってこれるのさ。


戻ってから、さっそくヤマト達の監視をはじめた。


リリスの監視も忘れない。


月の糸を持っていたのはヤマトだけど、保護者のような立ち位置のリリスが何か関わっているのは間違いない。


王国から、さらなる使いがやってくるだろう。それまでは目を離せない。


ただ……、監視をはじめて気がついた。


ひたすら退屈だ。


おかしなことに、来る日も来る日もヤマト少年は、穴ぐらの前で手を上げては下ろしている。その繰り返しをしているのだ。


リリスに至っては、横で昼寝をする始末。


「な、なに?あれは?邪神への祈り?」


遠目からは何もわからないけど、魔法っぽいのも出しているようにも見える。風魔法の練習?


まさか……。あの年齢で魔法が使えるわけがない。遠いから何とも言えないけど……。


奇妙過ぎて怖い……でも監視は続けないと!


【監視2日目】

伝達フクロウで国と状況を伝えあっているけど返信があった。


『現在王女と事実関係を確認中。引き続き監視続行。』とのこと。


指示があったので、監視を続ける。


少年は奇妙な術を使うようになっていた。


風魔法のエアカッターのような術だ。それに高速移動だ。


どちらも凄まじい威力とスピードに見える。


「すごい……あの年齢で魔法なんて使えないはずなのに。何なの?あれ……。」


ちなみに、リリスは横で何もしていない。一体、彼女はどういう人なのだろう。


【監視3日目】

とうとう動き出した、ヤマト少年とリリスが森の奥へと進みだしたんだ。やっと動いた。


ヤマトと女は特に話す様子もなく、無言で森の奥へとズンズン歩いている。


どこへ?


少年は時おり通った道を忘れないように木に傷をつけたり、草を抜いたりしている。大人顔負けの用心さだ。


本当に変わった子供だ。


いや、リリスが指示しているのかも知れない。彼女は年齢的に15か16歳くらいか。それくらいなら、あーいうことを指示してもおかしくないから。


あの二人の関係って何なのだろう?


姉と弟?


でも話ぶりから、そうじゃなさそうとも言える。


しかし、遠目で見ていて思うけど、二人ともすごく整っている顔をしている。見ていると吸い込まれるような美しさを感じる。


エルフよりも美しい。


ヤマト少年なんて、絵画から出てきたような顔をしている。


そんなことを思っていると……。


「うん?あれは……クローベアー!」


いつのまにか少年の道を塞ぐようにベアーが現れた。しかも2頭だ。


「しまった。ボクとしたことが、うっかりしていた!」


殺されてしまう!エルフでも5人がかりで倒せるかの魔獣だ。


か細いリリスがそれほど強いとも思えない、少年を守らねば!


「クローベアー2頭なんて……く!ここからだと間に合わないかも。」


ボクが飛び出そうとしたとき、信じられない光景を目の当たりにした。

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