第74話 監視宣言
「けいしょーけん?」
俺の頭の中には、「~軒」みたいな中華料理店が思い浮かんでいた。
意外すぎる発音に、頭が追いつかない俺。
(ヤマト……。オヌシ、まったく違う映像を頭に描いておらんか?)
(あ、あははは。)
そんな俺達を知ってか知らずか、ルシナは話を続けた。
「そう。イハネ・アレキシス・ブルーサファイア。エルフ王位継承権第2位の王女様だよ。」
「お、王女!?」
王女という単語で、ようやく俺の頭が追いついてきた。継承権ってあれか!王様になる権利ってことか!
(いま繋がったのか!)
(し、仕方ねーだろ!聞き慣れない単語なんだから!)
リリスは俺の代わりに感想をルシナに漏らした。俺では会話にならないと思ったようだ。
「ほほう。ハイエルフと言っていたから只者ではないと思ってはいたが……。まさか本当に王族とはのう……。」
俺は相槌を打つ。
「じょ、冗談みたいな話だな。」
俺が頭をかきながら苦笑いしていると、リリスが意味深な発言をする。
「冗談で済ませて良いのかの?」
「……え?」
リリスは何を……?
急速に頭を回す俺、そして思い出してきた。
「あ!」
(確か。あのハイエルフの子と、婚約しちゃってたような……。)
ルシナが怪訝そうな顔をする。
「どうしたのヤマト?何かあった?」
俺は誤魔化すように、慌てて言葉を繋いだ。
「いや何でもない!ち、ちなみに。何故、王家の子が王都レシータに?きっと人違いだよ。」
そうだ。
月の糸をくれた少女は、人族の王都レシータに居た。
エルフの王族が、そんなところに居るわけが無い。
ましてや、俺が出会ったのは繁華街の一角だ。あり得ない。
ルシナがズイっと顔を近づける。
「ヤマト。君がそのハイエルフの子と出会ったのは、どれくらい前?」
「えっと……。」
俺は記憶を遡ってみる。
(あれは、俺が5歳になる誕生日の2ケ月ほど前だったから……。)
「今から3ケ月前だね。」
すると、ルシナはさらに大きく目を見開いた。
「……間違いないよ。今から3ケ月前にイハネ様は王都レシータに訪問しているんだ。」
「え!?」
「エルフ王とラスタリス王の国際会議に同席したんだ。しかも場所は王都レシータだった。」
「で、でも。俺が出会った場所は、繁華街の中で……。」
「その日、イハネ王女様が姿を消して、大騒ぎになっていたんだ。」
リリスが唸った。
「それで、そのときにイハネ王女は”月の糸”を紛失していた?」
「ご名答。」
「……ま、まじですか……。」
俺は動揺を隠せない。
オロオロと、俺は動きまわり。
気持ちを落ち着かせるために、干物を干してある竿から、干物を一つ取って臭いを嗅いだ。
「くさ!」
「こんなときに臭いを嗅ぐな!ヤマト」
「な、何してんの……。」
「い、いや……。気持ちを落ち着かせようと……。」
「そんなんで落ち着くか!アホ!」
リリスやルシナから、大ツッコミを受ける俺。
ルシナはため息を吐く。
「はぁ。君が悪い人じゃないのは分かる。これは大問題だ。悪いが、エルフ王国へ報告させていただくよ。」
「え……それは……。」
マズいことになった。何か大事になりそうな予感。
俺はリリスをチラリと見るが、彼女は肩をすくめるだけだった。
(想定外じゃ。なるようになるわい。)
(なんて楽観的な……。)
ルシナは慌て出した。
「こ、こうしちゃいられない。すぐにブルーサファイアに戻らないと!」
「あ。もう行くんです?」
「うん。わ、悪いけど。今後も監視はさせてもらうから!」
「え?監視?」
俺がビビっていると、ルシナは大真面目だ。
「さっき、俺達のこと信用できるって……。」
「それとこれとは別物だよ!ちょくちょく来るから!今日はここらで失礼するよ。」
「いや。もう来ないでも平気ですよ?」
「……来るからね。」
そう言って、ルシナは南の方面へ大急ぎで帰って行った。
俺とリリスは、取り残された形になって、しばらく呆けていた。
俺らはエルフに監視されることになったようだ。
「行ったな……」
「まったく、騒がしいエルフじゃったわい。」
「監視するってさ。リリス、どうする?」
「ふん、問題なかろう。拠点をすぐに変えてしまえば、発見できなかろう。こちらは魔獣狩りと修行だけできれば良いのじゃ。」
それを聞いて俺は笑った。
「お前は前向きだよな。俺は色々心配だよ。監視とか。」
「心配無用じゃ。あれは危害を加える者ではない。」
「いや……用を足すときとかも見られているのかなって。」
「そっちかい!」
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翌日……。
朝起きて拠点周辺を探してみるが、ルシナはどこにもいない。
「まだ1日経っていない。このタイミングでは、まだルシナは戻ってこれないじゃろう。」
「は、早く拠点を移さないと。」
しかし、リリスは笑った。
「これから監視されるらしいが、しばらくは大丈夫じゃろう。良く聞け?」
「う、うん。」
「この放置時間の間に、新しい拠点を探さないといけないのじゃ。それは前提じゃ。」
「そ、そうだよね。じゃあ!」
「しかし、それには”ゲールクロー(疾風爪)”と、”瞬転”の訓練をし、スキル習熟を急ぐのじゃ。」
「え?拠点探しは?」
「魔獣探しと平行して行うが、まずはスキル習熟が先じゃ。急いで奥地へ行くと死ぬぞ。」
なるほど……。リリスの提案は非常に合理的だ。
拠点探し、魔獣探しも重要だが。まずはスキルだ。
絶対的にスキルを習得する必要がある。
この前のデビルウルフも相当強かった。奥地へ行けば行くほど、魔獣も強くなるだろう。
死んでしまっては元も子もない。
最悪、エルフに監視されても死ぬことは無い。拠点探しは後回しだ。
まずはスキル習熟が最優先。
「わかった!」
翌日から、俺はスキル訓練に励むことになった。
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