第71話 精霊と会話

精霊を呼ぶ、そんな荒唐無稽に俺は疑心暗鬼になっていた。


「疑っているようじゃの。それが出来るんじゃ。精霊魔法はエルフの18番じゃ。」


「すごいな……それは魔法なのか?召喚に聞こえる。」


「うむ……厳密に言うと魔法ではない。召喚と精霊魔法の一種じゃ。正式には魔法召喚術式と言われる分野じゃ。」


「術式……。」


「魔法陣を使った魔法のことを術式という……と、覚えておけ。それに精霊召喚術を混ぜておる。」


ふと、俺のステータスに「根源精霊」というものがあったのを俺は思い出した。何気なくリリスに尋ねてみる。


「俺も属性が追加されたら出来るのかな。それ使えば、何か色々便利そうだな」


「無理じゃ。各種族の中でも、エルフしか使えん術式じゃ。」


きっぱりと宣言するリリス。そうなん?血筋とか関係あるのかね?


「リリスでも?」


「そうじゃ。ワシでも精霊魔法は行うことは出来んかった。」


「リリスでも出来ないことあったんだな。」


魔法系は万能なようなイメージがあったんだが……。


「ふははは……あたり前じゃ。ワシには出来ないことだらけじゃよ。」


リリスはそう言うと楽しそうに笑った。俺が「万能」と思っていたところを愉快に思ったらしい。


そんな会話を他所に、ルシナは魔力を高めているようだ。何やら呪文のようなものを詠唱している。


「############!####!」


通常の詠唱とか異なり、厳かなものを感じる。なんだか不気味だ。


「本当に精霊が現れるのか?何かこわいな……。」


「いま、精霊が現れる。見ておれば判るのじゃ。」


俺は急に心配になってきた……。なんか怖い……。


「リリス……なんか変な感じだな。」


「降霊術なども同じ雰囲気じゃがな……。」


「高齢術?お年寄りの術なんかあるのか?」


「そんな術あるかい!!降霊術じゃ」


なるほど……降霊ね……。


「ちなみに魔法契約をもし破ったら?」


「立ち会い人に……精霊に殺されるじゃろうな。」


「こ、殺されちゃうの?精霊って怖いな。」


「ああ、契約は絶対じゃ。」


それって、精霊なんじゃなくて悪霊なんじゃねーの?と俺は思ったが、エルフの手前何も言わずにおいた。


「めっちゃ怖いじゃん……。」


「なに、誓えないものは誓わなければいいだけじゃ。あまり怖れるでない。わりとメジャーな儀式じゃよ。」


(そんな怖い儀式がメジャーって、違和感しかないんですけど……。)


俺はあからさまに嫌そうな顔をして、エルフ……ルシナのほうへ顔を向ける。すでに詠唱は終盤のようだ。


「そろそろのようじゃな……。」


ルシナは目を閉じて、両手を胸の前で組んで祈るようなポーズをしている。その姿が神々しくて俺は目を離せなかった。


やがて、ルシナは俺にもわかるこの世界の言葉で精霊を呼び出しはじめた。


「我、エルフ族ウールー族長ルシナの名において誓いの儀式を行う、願わくば風の精霊エアリアルの眷属、もしくは木の精霊ラクーンの眷属よ。立会人として誓いを見届けよ。」


(ウールー族?ルシナってウールー族なんだ……。)


(エルフ族の中にも、いくつもの族長がいるからのぅ)


ブア!!!


周囲に風が巻き起こり俺は驚いた。一瞬目を閉じてしまった。


「うわ!つむじ風!?」


目をすぐに開けると、そこには透明な何かが立っていた。人の形のような……まるで水人形のような「何か」がこちらを見つめているのだ。


ゾォ……


(な、何かいる!!?)


俺は背筋が冷たくなるのを感じる。目の前に立っている「何か」の存在の大きさを魂が感じる。


(な、なんだ……この存在には逆らってはいけない気がする。)


(ふむ。風の精霊が降りてきたようじゃの……。)


(そ、そうなの!?)


確かに、すさまじい存在感を「そこ」に感じる。


(うん?なんか、うっすら風が渦巻いているような……)


(なに!?そこまで見えるのか?ヤマト!?)


リリスがかなり驚いたような様子で俺に確かめた。


(うん……。ほら、そこに……風のオーラを感じる……。)


(ワシには全く見えん……オヌシは一体……?)


リリスが俺のことをマジマジと見つめてくる。本当にリリスには見えないようだ……。


「……。」


俺はいたたまれなくなり、風の精霊とやらに話しかけてみることにした。


「あの……風の精霊さん……。そこにいらっしゃいますか?」


そういうとルシナは笑った。


「風の精霊と交信できるのは、ハイエルフか相当力のあるエルフだけだよ」


「無理じゃよ。ヤマト。」


しかし……二人の予想に反して。精霊からの反応があった。


ビュオ!


一際大きい風が起きた。まるで、俺の言葉に反応したように見える。


「な!?い、いま!?」


「ど、どうしたことじゃ!ヤマトの言葉に反応したように見えたぞ!?」


「……なんか反応してくれたね。風の精霊さん」


「ばかな……ボクでも出来ないのに……ははは!ぐ、偶然だよね」


ルシナが納得しようとすると、俺は続けて呼びかけてみた。


「俺の声が聞こえてますかぁ?もし聞こえていたら、2回だけ風を起こしてください。」


すると……


ビュオ! ビュオ!


「に、二回反応した……し、信じられない……。」


ルシナは、本当にびっくりしているようだ。


「なんか、俺って精霊と交信できる系?」


「系ってなんじゃい!」


リリスがツッコミを入れてくるが、出来るものは仕方ないじゃん……。


「でも、応えてくれるぞ?」


「うむ……そのようじゃの。信じられんが……」


特にビックリしているのは、ルシナだ。


「な……な……。」


驚くルシナを他所に、俺は面白いので続けて精霊に語りかけてみることにした。


うーんと……そうだな。質問形式にしてみるか!


「風の精霊さん、今度スカートめくり手伝ってください。YES=1回 NO=2回」


「バ!」


リリスとルシナが形相を変える。


「バカ!ヤマト!何てことを!」


「?」


怒るルシナを他所に、精霊は回答してくれた。


ビュ!!


1回だったので、今度手伝ってくれるようだ……。わりとフレンドリー?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る