第70話 魔法契約

「そう。魔法契約だよ。ボクはこの森を監視する任務がある。曖昧にできない。」


「……魔法契約。」


急遽、俺はリリスにテレパシーで相談をする。


(ヤマト……何のことか分かっているのか?)


(わかってる……。本で知ってる。魔法契約は絶対的拘束があるんだろ?)


(……まぁ、やってみろ。)


(え?やっていいの?)


(条件次第だが、こちらに悪い考えがなければ問題ないじゃろう。むしろ、エルフは敵に回すと厄介じゃ。)


(わかった。)


「条件は?条件次第ですね。」


「そうだね。全てを語ることはボクも出来ないし……。この森に居る理由について、と限定しよう。」


「わかった……契約をしましょう。」


リリスは黙って見ている。


「さぁ、はじめよう。」


俺はコクリと頷くと、ルシナに同意を示した。


「魔法契約だと、魔法書と魔法ペンが必要ですよね?」


「要らない。」


「へ?」


「そんなものは要らない。僕は魔法陣を魔力で描ける。」


「ほう……。」


リリスが感心したような声を上げる。


「どういうことだ?リリス?」


「うむ。優れた魔法使いは道具が要らないのじゃ。魔法陣とそこに入れ込む魔力スキルがあれば、魔法契約も可能。」


「道具が要らない……。」


俺が想像できずに首を傾げていると、ルシナが笑った。


「まぁ、魔法杖は必要だけどね……。やってみれば理解できるよ。よし!はじめるよ。」


「……どうぞ。」


ルシナは思っていた……。


(この少年から悪意は一切感じない。もう放置しておいて大丈夫じゃないの?)と……。


しかし、軍の人間として報告する意味でも放置はできない。気を取り直して、ルシナは魔法契約儀式をはじめた。


「では……。」


ルシナが腰から取り出した魔法杖は、ステッキタイプの短いものだった。


それにルシナは魔力を込める……。


異様な雰囲気が流れはじめた。


俺は息を呑んだ。


シュアァァ……。


空中に魔法杖で線を描きはじめるルシナ。その軌跡が光る筋となって、魔法陣を描きはじめた。


(な、なんだ……あれは……。)


(見て分かるじゃろう?空中に魔法陣を描いているのじゃ。)


ルシナは口を開く。


「森の精霊よ……。」


突然、両手から光を放ち。その光を使い空中に描いた魔法陣をに魔力をさらに込めるルシナ。


シュバ!シュバ!シュバ!


器用に魔力で線を引いている。


見ていて、とても面白い。まるでCGを見ているようだ。


それに舞いを見ているようで、とてもルシナが美しく見えた。


「エルフって綺麗だよな。リリス」


「うむ。エルフは美形が多いが。あのエルフは特に美形なようじゃの。」


「魔法陣が完成しそうだ……すごい面白いな。」


「ほう……、ここまで見事に描き込むとは……。なかなか見所のあるエルフじゃの。」


リリスは、感心したかのようにエルフが描く様をみている。


何だか嬉しそうだ。リリスは敵味方関係なく、能力がある者を褒める癖がある。デビルウルフですら賞賛していたからな。こいつ……。


「普通は、こういう風に描かないの?」


「知ってのとおり、魔法ペンでインクを使って描くのぅ。無い場合は、地面にチョークじゃ。」


「やっぱりそうなんだ……チョークで描くのって情けない姿だよな。」


「実際は魔法使いなんぞ地味なもんじゃ。詠唱の暗記と魔法陣の研究。それに明け暮れる研究者がいかに多いか……。」


しみじみとリリスは遠い目をした。何か昔の自分を思い浮かべているのだろうか……。


すると、リリスが魔法陣を読み取り何かに気がついたようだ。ちょうど俺も気がついたことがある。


「ほう……。」


「むぅ……。」


俺は感嘆の声を上げる。


「ヤマト……お前も気がついたのか?」


「判るも判らないもないだろう、一目瞭然だ。」


「いつの間にそこまで成長を……ワシは嬉しいぞ。」


俺は腕を組み、ウン!ウン!と頷く。


「まぁ、俺も男として成長しているからな。」


「男として?は?」


リリスは俺の顔をまじまじと見つめる。ちなみに俺は一点を凝視している。


「ち、ちなみにヤマト。オヌシは何に気がついているんじゃ?」


「そりゃ、あれだろう。魔法陣を描いているとルシナが屈む。彼女のパンツが丸見えのところだろう?こりゃ絶景……。」


ボカ!!


リリスは思いっきり、俺の頭を殴った。


「痛っ!!何すんだ!リリス!!」


「オヌシに期待したワシがバカじゃったわい。」


俺は涙目になりながら頭をさする。。俺が悪いんだろうけど……。


少しでも場を和ませようとさ……。まぁ今言ってもリリスは信じてくれないだろう。


「ところでリリスは何に気がついたんだ?」


「ふむ。ほれ……見てみぃ。ルシナというエルフ娘。かなりの精霊使いじゃ。木と風の精霊、二つにアクセスしておる」


俺はじっと様子を伺ったが、どのあたりが「木」なのか、「風」なのか検討もつかない。


「全然わからん……とにかくあの魔法陣で精霊を呼び出しているのか?」


「そうじゃ。あれはただの契約魔法ではない。精霊を呼ぶ、精霊召喚式魔法契約じゃよ。」


「精霊召喚式魔法契約?」


ルシナの魔法陣は完成したようだった。


光る魔法陣が地面に横たわる。


「うむ。この魔法契約陣に立ち会い人を呼ぶんじゃな?」


「立ち合い人?」


人って誰かくるの?召喚でもされるのか?


「ふむ……立ち会い人とは精霊。この魔法陣の中に二人を立たせ、精霊の前で誓った言葉は絶対になるんじゃ。」


「「人」じゃねーじゃん。「精霊が立ち会う」?そんなバカな……」


精霊なんて見たこともない俺にはまるで言っている意味が分からなかった。精霊って概念的なものじゃないの? 


ちょっと想像がつかなかった。

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