第68話 侵入者

その後、俺とリリスは大量の魚を何とか拠点に運んだ。


そして、クッキングタイムに移行。


ちゃんと血抜きをして腹ワタを処理して下処理は完璧にした。


「おぉ……オヌシ。料理の腕はすごいのぅ」


「まぁな、前世ではひとり暮らしだったからな……。」


そう、俺は前世では趣味が料理ではあった。なので料理には自信がある。


料理が得意と言えば……。


「そういえば、雅も料理得意だったな……。」


ふと、前世の施設仲間を思い出した。


「ミヤビ?あの忘却人と同じ名前の?」


「そうそう、俺が地球に居たころの女の子。」

『小早川 雅』


俺は施設出身だ。そこの施設には沢山の子供達がいる。その中に彼女は居た。


俺よりも10歳ほど年下の女の子。小さい頃は「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」と、懐いていた。俺も妹のように可愛がっていた。


雅……。同じ名前で忘却人……。

俺がボーっとしていると、リリスが話しかけてくる。


「忘却人……しかも、同じ名前というのが引っかかるのぅ。」


「うん……。彼女も中学を卒業したらすぐに就職をしてしまった口なので、それからはたまに会う程度だったけど……。」


「しゅーしょく?」


「あ、ああ。働くってことだよ。俺と彼女は、12歳くらいから働いていたんだ。」


「何じゃい。普通じゃないかい。」


この世界では15歳から成人。


それまでに独立する子も少なくない。それからすると、12歳で働くことなど普通のことのように見えてしまうのだろう。


彼女が就職してからも交流はあった。


(最後に会ったのは彼女が15歳くらいの頃か……。)


彼女が15歳の頃、突然に連絡が取れなくなって。俺はひどく心配した記憶がある。


施設の人に聞いても、彼女の所在も連絡先も教えてくれなくなったのだ。


少し違和感はあったが。


(年頃の女の子の連絡先を教えるはずないか……雅は雅の人生を歩いているんだ。余計なお世話はやめよう。)と、思うようにした。


それから彼女のことは忘れるようにしていた。


地球で今も元気に居れば25歳くらいか……。もし、この世界に15歳で転生していれば10歳。転移していれば25歳となる


忘却人と同姓同名……。確かに気になる。


まさか……地球で15歳のときに何かあったのか?


(か、勘違いだよな!気にしないようにしよう!)


まぁ、それはいいとして!


「魚!魚!」


俺は魚を焼くまくって、食べまくった。


焼き魚の美味いこと美味いこと……。塩がないので今いちだけど、5匹食べてお腹いっぱい。


まだ魚はかなり余っている。このまま放置してしまうと腐るだけだ。


俺は腹を撫でながら、もう一仕事するために腰を上げた。


「勿体ないから、あまった魚は干物にするわ!」


「干物……?」


リリスが不思議そうな顔をする。


「ああ、そうか。こっちの世界には干物ってないんだ」


俺は干物の作りかたをリリスに教えた。


「なんじゃ、干し肉と同じじゃな。」


「原理は同じ、でも味が詰まって美味しくなるんだ。」


「なるほど……では、その干物とやらを作ろう。」


「匂いが心配だけどな……。」


「このあたりは魔獣や動物がいないことは判っておる。問題ないじゃろう。」


「だな。」


その夜のことだった。


いつものようにリリスと明日の打合せをしながら夜を過ごして、翌朝に備えて早々に眠りに入った。


「では、ワシは見張りに立ってやるからの。」


「いつも悪いな。」


「何、眠気はあるが。一度リセットすれば元通りじゃ。」


リセットとは、俺の右甲にある紋章の中に入ることだ。


不思議なことに、その中に入ると眠気や空腹などもすべて元に戻るらしいのだ。


それを俺とリリスは、「リセット」と呼んでいる。


「では……。」


リリスは、いつものように入口の見張りに立とうとしたときだった。


穴ぐらの入り口のほうで、何か音がした。


ザリ……。


俺の聴覚はかなり鋭い。その音が自然に出るものではないことは明白だ。


俺は強い口調に変わる。


「いまの音は!?」


「入り口のほうから音がしたのじゃ!」


「ま、魔獣か?」


「ここからでは判らん。」


「よし!入口にゆっくり近づいてみよう。」


俺とリリスは、ソローリ ソローリと入口に向かう。


段々と月明かりで明るくなってきた。


確かに何かが入口付近に居ることを確認した。


(あれは……獣じゃない。人……人だ!)


なんと、人影が確認された。


(リ、リリス……人がいるぞ!)


(ぬぅ……旅人か冒険者か?何者じゃろう)


(……。)


ここからなら、夜目が効く俺なら見えるだろう。目を凝らしてみてみると……。


(え?あれってもしかして……。)


そこには月明かりを反射する美しいゴールドロングヘアー。ピンと尖った耳を持つエルフだった。


女性のエルフが立っていた。


俺は相当驚いた。


「エ……エルフ!」


俺はうかつにも声を出してしまった。リリスが呆れたように言う。


「まぬけめ……。」


エルフは驚いて、こちらに振り向く。


「!」


エルフは背中に背負った弓袋から、矢を目にも止まらぬ高速持ち換えた。そして、それを弓につがえて、こちらにビタ!と俺に狙いを定めた。


1秒もかからないスピードだった。


(目にも止まらぬ高速技だ。すごい……。)


俺が感心していると、リリスが戒めた。


「感心している場合か。何か応えよ。射られるぞ……。」


俺は抵抗の意思がないことを伝えるため、両手をあげて前に出る。


「ま……待ってくれ!敵じゃない!」


俺の姿をみて、エルフは目を見開いた。


「こ……子供!?」

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