第67話 大岩

翌朝、俺は早く起きた。


「魚!魚ぁぁ!!」


川に猛ダッシュ。


クローベアーで食い繋いできたが、精神的にやばかったのだ。


俺は新しい食材に飢えていた。


家を出てからロクなものを食べていない。欲を言うならパンとか食べたいけど、食べ物が変わるのであれば何でも良かった。


川に到着するなり、魚の漁り方のレクチャーをリリスにせがむ。


「ど、どうすればいい?まずは釣り竿を作るか?」


「そんなにガッつくな。道具など要らない。」


「道具が要らない?」


不思議なことを言う。まさか手掴みで魚を取れ!っとか言わないよな。


「言う通りにするんじゃ。」


「わ、わかった。」 


「まず、そこの大岩を身体強化魔法無しで持ち上げてみぃ?」


リリスはそういうと、川から少し離れたところにある大岩を指さした。


「岩?」


大きさは俺の身長よりちょっと低いくらいだ。


大岩である。


地面に半分くらい埋まっている。


きっと何百年もここに居たのだろう。そんな大岩である。


「は?」


正気を疑った。


「ほれ、何しておる。さっさと持ち上げてみぃ?」


リリスはパン!パン!と大岩を叩きながら言った。


「お前、アホなの?身体強化無しで、こんな大岩を持ち上げられるわけねーだろ!」


「……。」


リリスは無言だった。


「……え?」


俺は徐々に不安になる。


「お、おい?マジで言ってるのか?」


「うむ。マジじゃ。」


「はぁ!?」


俺は後ずさりする。こんな大岩を持ち上げるとか不可能に決まっている。


「な、何言ってんだよ。ほら!この大岩、地面に半分埋まってんじゃん。これを……!?」


「良いからやってみろ。ヤマト、騙されたと思ってじゃ。」


「………まじかよ。」


俺は渋々と言った感じで、大岩の横に立つ。


ゴツゴツしていて「掴む箇所はありそうだな。」という感じはする。


「ふん!」


持ち上げるというより、”抱きつく”と言った形だ。


俺は岩に抱き着き、引っ掛かりに手をかけた。


ガシ!


「よし!そのまま腰を入れて持ち上げるのじゃ!」


「…………ぬぬぬ!」


俺は腰を下ろしてそのまま力を入れた。


しかし、岩はビクともしない。


「ぷはぁ……。」


俺は諦めて手を離した。


「やっぱ無理だわ。」


首を振ってリリスのほうへ顔を向ける。


「無理か……。」


「いや、無理だって。身体強化使ったとしても無理だぞ……。これは……。」


俺は”ほら!”という表情をしていた。しかし、リリスの表情は無表情だ。


「良い加減、魚の……。」


俺が言いかけたとき、リリスが口を開く。


「では、そっちじゃ。そっちの岩を持ち上げてみろ。」


リリスは、先ほどの大岩の横にある。岩を指さした。


「こ、これ?」


俺は改めて、その岩を見てみる。


先ほどの大岩が、俺の身長くらいだとすると。この岩は半分くらい。つまり俺の腰の位置くらいだ。


これでもかなり大きい。常人が持てる重量じゃない。


「無理だって……。」


「やってみぃ。」


リリスの表情は真剣だ。


俺はリリスの意図を悟った。


(なるほど。リリスは俺のステータスを計測しようとしているのか……。)


俺は黙ってその岩の前に立つ。


腰を下ろして、今度は岩の下に両腕を入れて腰を入れる。


(だ、だとしてもこれ……。かなり大きいぞ……。)


「身体強化は使うな。自力で持ち上げるのじゃ!」


「……わ、わかった。ふん!」


俺は気合を入れて腕と腰に力を入れる。


しかし、岩は動かない。


「諦めるな……!微動しておるぞ!」


確かに……。さっきよりも持ち上げられる感はある。


俺はそのまま力を込め続ける。


「ふぬぬぬぬ!!」


ズボォ!!


「おぉ?」


リリスが驚きの声を上げる。岩が地面から抜けて、数cm浮いたのだ。


「ぬおおおお!」


岩が完全に地面から離れ、俺は岩を肩に担いだ。


「や、やったぞ!素晴らしい膂力じゃ!」


俺は肩に担いだままフラフラしている。


「こ、これどーすんだよ……!す、すげー重い。」


「そ、そのまま川に投げ入れろ!力いっぱいじゃ!」


「おおりゃああああ!!」


リリスが言うか言わないかのうちに、俺は力の限り大岩を川に投げ込んだ。


ドグシャーーン!! 


川に水柱が立ち、あたり一面に水しぶきが襲いかかる。


「ぷあ!」


「冷た!」


ピチャ……ピチャ……。


俺もリリスもずぶ濡れである。


「ご、ごめん。リリス……」


「うむー……。思った以上じゃ。捕食のパワーアップは凄まじい。」


リリスは、俺のほうへ視線を向けて首を傾げた。


俺が呆けているからだ。


「何を見つめておる?な!?」


ずぶ濡れになったリリスの大きな胸が、張り付いた布によって形がくっきりと出てしまっていた。○クビなんかもクッキリ、


「な、なんか裸よりもエロい……。」


「何を見ておるか!?」


リリスが俺の頭を殴る。


バキ!


「痛い!」


リリスによく殴られている気がする。


「な、何しやがんだ!痛いだろ!不可抗力だろ!」


「まったく、このエロガキが……。カリアースそっくりじゃわい。」


リリスは胸を隠して顔を赤らめていた。何か可愛い。


「カリアースもエロかったの?」


「あいつは、むっつりスケベじゃったな。」


なんだか親近感が持てる奴である。カリアース。


「あ!魚!」


水面を見てみると大量の魚がプカプカ浮かんでいる。これが新しい漁法……。つーか、脳筋じゃん。


でも、成功は成功したみたい。


「良くやった。これだけ魚があれば食糧にこと欠くまい。今夜は焼き魚じゃな。」


「やったー!!魚だ!焼き魚が食えるぞぉ!」


俺がめちゃくちゃ喜んでいるので、リリスは苦笑いしている。ちゃんと胸を隠しているあたりが女性らしい……。


「あとは自由に料理せい。ちゃんと焼くんじゃぞ?」


「お前も実体化しているんだから、料理手伝えよ」


「わかったわい……。」


俺の筋力は、クローベアー並みだと判明した。

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