第63話 ヤマト vs デビルウルフ

俺は咄嗟に下半身に魔力を纏う。


ブン……。


足に身体強化魔法をかけて、力を込める。


ドン!!


俺はロケット発射し、前転の要領で前にゴロゴロと緊急回避した。


ガチ!!


俺がいた地点に、デビルウルフの牙が噛み合う音がする。


「あ、あぶね!」


まさに危機一髪……。俺が前転回避したのでスカったのだ。


俺の動きにリリスが驚いた。


「ゴキブリダッシュのようじゃ。」


「言い方!」


「しかし、いつの間に2頭が後ろに!」


俺が前に飛び出したせいで、最初にみつけたウルフ5頭も俺を睨んでいる。後ろを振り返ると先ほどのウルフ2頭だ。はじめから、デビルウルフは7頭だったのだ。


「やばい、挟み撃ちにあった!」


「違うぞ、ヤマト!!」


「え?」


リリスに質問しようと思っていたら、さらに右横から2頭、左横から1頭が出てきた。


「え?!」


気がつけば、俺は前後左右10頭のデビルウルフに囲まれていた。


「やられた……。囲まれてるぞ。」


「ガルル。ガルル!」


デビルウルフは俺を囲みながら威嚇してくる。


「ぬぅ。獣の狩り技術を侮ってはいかんかった!奴らは狩りのプロじゃ。」


「くそ……。こうなったら全部食ってやる。」


「食われるのはオヌシかも知れないぞ。」


「嫌すぎる。もうお家に帰りたい……。」


しかし、そうも言ってられない。


戦うしかないんだ。四方から囲まれているから、一瞬も気を許せない。


「ガォ!!」


ダッ!!


「前のウルフがきた!!」


俺はとっさに前に石を投げつけた。


「ふん!」


かなりのスピードで、俺の石は発射された。


シュン!!


しかし、デビルウルフ達は余裕をもって避けた。


「さ、避けた!?」


デビルウルフは冷静に俺の動きを見ている。さすがに貫禄がある。


「くそ!」


「お前の魔法発動が遅いんじゃ!もっと即射できんのか?」


俺なりの速度で発射したつもりだが、リリスからするとまだまだ遅いらしい。


「習って数日なんだから仕方ないだろ!」


と、悔しがっていたら今度は後ろのウルフが襲ってくる。


「ガオ!!」


「こ、この!!」


同じように石で迎撃するが、これも外す。

デビルウルフはすぐ引き返して距離を取る。


こちらの様子を見ている。


その目がクールに見えるから不思議だ。


「な?遊んでやがるのか!?」


「なるほど、こうやって交互に襲うふりをして、体力戦に持ち込もうとしているのじゃ。巧みじゃのぉ。」


「そんなこと言ってる場合?!うわ!またきた!」


デビルウルフ達は交互に前後左右から繰り返してくる。


無視すりゃいいだろ?と思うだろうけど、本当に噛みついてくる可能性もあるので気を抜けない。


このやり取りを数時間……。


「この!やろ!この!」


俺はその度に蹴りや突きで応戦する。


ここまで振り回されれば息も荒くなり、次第に俺の体力と魔力も尽きかけてきた……。


……と思うだろ?


しかし、俺は疲れる兆候すらなかった。


「ゼ!ゼ!ゼ!」


むしろ息が荒いのはデビルウルフのほうなのだった。デビルウルフは明らかに疲れはじめていた。


「キリがねーぞ。なんだかウルフがしんどそうな顔をしているような……。」


「信じられん。オヌシの体力と魔力はどーなっておるんじゃ?」


「いや、なんか疲れないんだよ。」


確かにおかしい。


もう何時間でも、このやり取りができそうだ。


魔力も尽きないしスタミナも尽きない。


「異常じゃ。これは一体……。ステータスが数値化していないのが悔やまれるのぅ。」


リリスが悩みはじめている。


ウルフより、俺のステータスが気になりはじめているようだ。


「ステータスを気にしている場合かよ。」


俺が無視していると、狼たちが唸りはじめた。


「ガルル……!」


「ガウ!」


何を言っているのか不明だが。


『無視すんな!テメェ!』とか、言っているように聞こえる。


デビルウルフ達はまだまだやるつもりらしい。


「ヤマトよ、このままではキリがないぞ?どうするのじゃ?」


リリスが俺の判断を促してくる。


指示してこないあたり、俺がどう判断するのかを見ているのだろう。修行の一環というわけか。


俺は考えた末に作戦を一つ思いついた。


ウルフ達の攻撃をかわしながら、俺は石を拾い始めた。


「ヤマト。石攻撃は効かんぞ。」


「まぁ、見てろって!よし、じゃあ。やるぞ!!」


俺は魔力を掌にこめると、両手を地面においた。


「お、おい。何をするつもりじゃ、ヤマト。」


「まぁ見てろ。」


ブオン!


俺は両腕に魔力を流しはじめる。


ズア……。


大量の魔力が俺の両腕に浸透していく。


「……すさまじい魔力じゃ」


俺は習いたての魔法を発動。


「部位硬化!」


俺の肘から先が、まるでコンクリートのように硬くなるのを感じる。


「これは……。教えた肉体硬化魔法、何を……。ヤマト。」


俺はそのコンクリートのよう硬い腕を振り上げた。


「おりゃあ!!おりゃおりゃ!おりゃ!」


人間スコップのように、ザクザクと地面を掘る俺。


そして、その度に土をデビルウルフの上空あたりに放る。


高速でそれを繰り返す。結果、大量の土が舞い上がる。


ゴシャ!ゴシャ!ゴシャ!


高さ4メートルほどまで舞い上がった土砂はそのまま雨のように、ウルフ達の上に降り注いだ。


「キャン!?」


「ガルル!?」


デビルウルフ達は完全に動揺している。土を避けきれないでいる。


「チャンス!」


俺はその隙を狙って、拾っておいた石礫を手に取る。


そして、力一杯に投げる。それも連続で。


「ふん!ふん!ふん!!」


高速の弾丸と化した石礫が、デビルウルフに迫る。


ドン!グシャ!ブシャ!ドシャ!ズン!ガン!


「キャイン!」


「ギャン!」


デビルウルフの6頭の頭と腹に命中。


そして、弾丸のようにそれは貫通した。

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