第62話 匍匐前進
俺は自分の底知れないパワーに冷や汗をかいていた。
リリスの推測が正しければ、俺は捕食一回でかなりステータスが向上したことになる。
スキルだけでなく、筋力。敏捷性など……。普通の人間が何年も鍛えて手に入れられるものだ。あり得ない。まさにチートと言って良いだろう。
だって、さっき忍者みたいに跳躍したよ?自分でもビックリだ。
「ほ、捕食って一体なんなの……?」
「これほどのステータス向上。あり得ない。異常じゃ。」
美少女な容姿のリリス。
眉間に皺を寄せているのがちょっと可愛い。
俺はそのとき嫌な予感がした。
「は!も、もしかして……。この2頭も捕食するってこと?これから更にステータスアップ?」
俺はジト汗をかいていた。
パワーアップは嬉しいが、あの激痛は勘弁願いたい。
「メ、メッセージは?どうじゃ?」
俺は焦ってクローベアーに視線を戻す。
以前は、クローベアーから黒い球体が発生していた。それに伴い捕食メッセージが発生したのだ。
「あれ……?」
しかし、俺がいくらキョロキョロしてもメッセージが発生することは無かった。
「ヤマト?ないな?」
「う、うん……。どうしたことだろう?」
俺とリリスはしばらく、そこに滞在していたが変化は無い。
待ちぼうけ、みたいな状況だ。
つーか……待ってないけど。
ツンツンとクローベアーの死体をつついてみたり、以前のように石を投げてみたが変化無い。
「「ど、どういうこと(じゃ)?」」
俺とリリスは、顔を見合わせたまま立ち尽くしていた。
その後、いくら待っても変化無し。
クローベアーを倒したのに、捕食を促すメッセージは表示されなかった。
もしかして、この前のはボーナスモードだったのか?
そんなことをリリスと話しあったが、とりあえず獲物をマイホームに持ち帰った。
リリスと打ち合わせの結果。
この後も狩りを続けていくしか確かめる手段がない。ならば、狩りをしまくろうということになった。
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という訳で、今日も狩りに出発。
場所は昨日の山だ。あそこは獲物が居そうな気がする。
急ぎ、まったく同じ場所に行ってみた。
「よし!獲物を探すぞ!」
「頑張れヤマト!」
「おう!」
しかし、ブラブラ探すこと数時間。
相変わらず動物には出会わない。魔獣にも出会わなかった。
(またかよ…。)
おそらく昨日の騒ぎで周辺の動物が危険を感じて逃げたのだろう。
どんどん狩場を失っている気が……。
しかし、そう絶望することもない。
まだまだ俺の拠点が森の入口付近ということもあり、全体から見ると動物も魔獣も少ない場所だ。 奥は行くほど魔物は多いだろう。
(ここらで拠点を移動すべきなのかも知れないな……。)
しかし、愛着すら湧いている俺のマイホーム。移動するのがちょっと嫌。
そう思ったが、その考えを振り払うように首をブン!ブン!と、振る俺。
(く……。あんな穴ぐらに愛着湧いてどーする。)
それから結構移動を繰り返した。
しかし、結局は何も収穫なし。
時刻は夕方近くで、そろそろ帰るかという段になった。リリスなんか暇すぎて、欠伸をしている始末だ。
「お前もっと真剣にやれよ……。」
「暇なんじゃもん。」
「じゃもんって……。そろそろ帰る……」
「ん?」
リリスの表情が真剣になり、俺に向かって「しっ!」と静かにするようジェスチャーをした。
(な、なんだ!?何かいたのか!?)
リリスが頷き向こうのほうを指で指し示す。
(……ん?)
俺はその先に視線を凝らす。
その先には5頭の狼がいた。
(おぉ……狼だ!ようやく動物に出会えた。)
(たわけ……。あれは魔獣じゃ。デビルウルフじゃな。)
(また魔獣かよ。動物が良いんだけどな。)
確かによくみると、地球で知ってる狼と違う。
つーか全然違う。
そもそもフサフサじゃない。毛皮でなく、なんとなくツルッとしてる肌で肌感が気持ち悪い。顔も狼というよりも、人の顔に近い感じがする。
口裂け女的な顔に耳がついているようなと言えば判りやすいだろうか。
(気持ち悪い!あんなん倒しても食べるの嫌だな……。)
(ヤマト。食う前提なのはやめい……。)
(そう?)
(やるなら真剣にやれ。デビルウルフは強いぞ。しかも5頭じゃ。普通に考えれば逃げるのが得策じゃ。)
俺は身を正した。
(わ、分かった。)
(しかし、魔獣とやり合うのに絶好の位置におるのぅ。こちらに気がついていないぞ。)
(チャンスじゃないか?)
(先制を取れれば殺れる。5頭は厄介じゃ、間引け!奇襲でやるのじゃ。)
俺はそこらにある手頃な石を3個ほど拾った。
身体強化魔法で投げれば、弾丸のような速度と威力で重傷を負わすことが出来るかも知れない。
しかし、デビルウルフまでかなり遠い。外れると、こちらの位置がバレて不利になる。
(伏せして行くぞ!)
俺は意を決して匍匐前進で近付いていった。
シャカ!シャカシャカ!
(誉れ高い龍人が、ゴキブリのようじゃのぅ。)
(うるせー!)
(頭が痛いわい。)
俺とリリスはテレパシーで罵り合いながら進んでいった。
ちなみにリリスは視覚化だけして歩いている。
彼女は他の人には見えないので、隠れる必要すらない。便利な奴。
(よし、ここまでくれば……。)
とうとうデビルウルフまで10mの位置まできた。まだ奴らは気がついていない。
よし、この位置ならいける!!俺は魔力を右腕に纏った。
その時……。
「ガルルル」と真後ろから唸り声が聞こえた。
「後ろ!?」
俺は後ろを振り返ると、そこにはデビルウルフが2頭立っていた。
そして口を大きく開けて今にも噛みつこうとしている。
「うわ!」
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