第61話 基礎体力向上

今日は久し振りの狩りだ。


クローベアーの肉を食べ尽くしてしまったので、食料確保と戦闘訓練を兼ねている。


戦闘訓練と言っても、ゲールクローはまだまだ使い物にならない。


ゲールクローも段々と威力は上がってきているんだけどね……。


結構、食料問題は深刻だ。捕食をしてから食欲がすごく旺盛で困る。


あの巨大なクローベアーを10日足らずで食べ尽くしてしまったんだから。


訓練3 食料調達7 という感じだ。


「良し!行くか!」


装備はいつも通りだ。


腰にはショートソードと水筒をブラさげて、麻袋を肩に担いで俺は出かける。


これ、すべて宿場町で襲ってきた男達の装備なんだけどね……。


かなり重宝してます……はい。


気合いを入れて出発したのは良いものの……。


しかし、いくら周辺を散策しても動物どころか。小動物も1匹も見かけなかった。


「……。何も居ないな。」


「うむ。動物のフンなども無い。気配すら感じないのじゃ。」


そういえば、クローベアーを倒してからか、この辺りには動物はおろか魔獣も全く見かけない気がする。


「おそらく、あのクローベアーとの戦闘で動物達が警戒しているのじゃろう。」


「誰を?」


「お前以外おらんじゃろう。」


仕方ないので、遠くまで遠征に行くことをリリスに提案した。


「あの山の中腹まで行ってみないか?あそこなら居ると思うんだ。」


「まぁ、戦闘レベルも上がっておるし。大丈夫じゃろう。」と、リリスも許可を出した。


「よし!またクローベアーを捕食してレベルアップと行こうぜ!」


俺が嬉々として言うと、リリスが呆れた。


「あほ、この前は偶然勝てたが、今度はそう簡単にいかんわい。」


あのクローベアーの肉は格別だった。


捕食でスキルまで手に入れたので、結果としてクローベアーとの遭遇で、俺は強くなった。実際、出会いたくない気持ちと出会いたい気持ちが混じっている。


俺は意気揚々と山を登りはじめたが、結構険しい。しかし、不思議と息が切れることが無かった。


俺はそれに違和感を感じることは無かった。……というより、単純に”絶好調”だからと思っていた。


調子に乗った俺は饒舌になっていた。


「クローベアー、また出ても返り討ちだぜ!あの肉が忘れられないぜ!」


リリスが釘を刺す。


「1頭だけ出てくるとは限られないぞ。数頭出てきたらどうするんじゃ。」


「へへん。それでも……。」


世の中には調子に乗ってると、天からの警告として本当に”バチ”が当たることがある。


どう言う訳か、俺は宝クジには当たらないが”バチ”には当たりやすかった。


今回のように……。


「グルルル……。」


「ガル……。」


「グォォ!」


3頭のクローベアーが現れた……。


俺は驚きのあまり口をパクパクとさせたまま、リリスに顔を向ける。


「さ、3頭のクローベアーじゃと……。」


「ま、まずい。」


「さっきの威勢はどうした。」


「ちょ、おま……。そんなことを言っている場合じゃねー……。」


俺がそこまで言いかけたときだった。


3頭のうち、1頭が襲いかかってきた。


「グアアォォ!!」


「ひぃ!」


俺は驚きのあまり後ろへ跳んだ。


ズン!


俺は軽くステップしただけなのだが……、凄いスピードで跳んだ。


「ヤマト!?」


2mは後方にジャンプしただろうか。


俺が元居た場所に、クローベアーがキョトンとして立っていた。


まるで瞬間移動。


そう見えるくらいの速度で、俺は跳んだのだ。


俺は目の前にいるクローベアーを見ながら、呆然とした。


「ヤ、ヤマト?いま身体強化を使ったのか?」


「い、いや……使っていない。」


咄嗟だったので、魔法を使う余裕が無かった。


たしかに魔法を使わずに、この跳躍を見せたのだ。


「い、一体……。」


「グォォ!!」


残り2頭のクローベアーはいつの間にか後ろに回り込んでいた。俺の視線がズレたのを幸いに狡猾にも、連携を組んでいたのだ。


俺の背中に噛みつかんと2頭同時に襲いかかってくる。


「ヤ、ヤマト!!後ろにいるぞ!」


「う、うわぁ!?」


俺は身の危険を感じて、身体強化魔法を右腕に纏って裏拳をブン回す。


ドシャ!


グシャ!


「え……?」


「は……?」


俺の裏拳は、クローベアー2頭の頭を砕いた。


ズズン……。


ズン……。


その一撃でクローベアーは2頭共に絶命した。


「こ、これは……。」


リリスは唸る。


「グゥゥゥ?」


俺のパワーに驚いたのか、残った1頭はジリジリと後退して去って行ってしまった。


俺とリリスは、それをただ見送った。


今、起きた現象に驚いていた。


「リ、リリス……。」


「う、うむぅ。これは……。」


「ど、どういうことだろう。スピード、パワーが桁違いになってるぞ。」


「以前、クローベアーを殴ったときにはヤマトの拳が逆に砕けていた。」


「そ、そうだ。そうだった……。」


「それが、今はどうだ。身体強化を使わずに大跳躍。それに身体強化を使った途端、クローベアーを一撃で2頭じゃ……。」


「な、何が起きてんの?一体……。」


「おそらくじゃが……。」


リリスの推測はこうだ。


おそらく捕食が原因であろうと……。


捕食でスキル吸収。状態異常回復は確認されていた。しかし、通常の「腕力」「瞬発力」など基礎的なパワー向上にも寄与していたのだろうと……。


「そ、それって。永続的に俺の基礎体力が向上したってこと?」


「うむ。間違いない。そうでなければ説明がつかん。」


「たった1頭を捕食しただけで、こんなレベルアップってあるか?」


「信じられん……。」


しかし、思い当たることがリリスにはあった。


かつてのカリアースだ。


彼は戦闘の度に、急激な成長を遂げていた。


その姿をリリスは覚えていた。


(やはり、ヤマトはカリアースの生まれ変わり……。)

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