第60話 スキル『ゲールクロー(疾風爪)』

俺とリリスは、体得したスキルを訓練することにした。


捕食で覚えたスキルが本当に使えるのか?のチェックも兼ねている。


例のゲールクロー『疾風爪』というスキルだ。


「まずは、ほれ?使ってみろ」


相変わらず無茶振りのリリス。


「……あのさ。使ってみろというけど、使いかたは?」


「スキルは固有能力じゃ、ワシがそんなん判るわけあるまい。」


く……。美少女の外見じゃなかったら、ぶっ飛ばしているところだ。


「お前、そういうところあるよな。」


「うるさいのじゃ。とにかく、まずは使ってみて発動しないようなら、そこから分析すれば良いのじゃ。」


「もう……、分かったよ。」


とりあえず、目の前の大きな大木をターゲットに使ってみることにした。


(えーっと、クローベアーはどうやったっけな……。)


こればっかりは、リリスも使い方は分からないとのことだ。


まず、イメージイメージ……。


(確か、あの熊は……。何か腕を上げて下ろしていたよな、クマがガォーって爪でひっかくみたく。)


同じようにやってみるか……。


俺はおもむろに腕を上げてみる。


そして、光る爪の斬撃を出すイメージで腕を一気に下ろしてみた。


シュワン! 


という音を立てて、俺の目の前に光る三本爪が現れた。


「で、でた!!ゲールクロー『疾風爪』!」


「おぉ!!」


喜ぶ俺達を後目に、光る三本爪が。ヒョロヒョロ〜っと木に向かってい、しかし、辿りつく前に力尽きて消えてしまった。


俺は唖然とした表情でリリスと顔を見合わせる。リリスは口元を押さえて、苦しそうな顔している。


「……プッ。」


笑いやがったな、この女……。


「くそ!もう一度だ!」


俺は同じ動作をやってみた……。


今度はもっと思いっきりやってみた。


しかし、全く同じ結末だった。


「どういうことだろう。物知りリリス君?」


「どーもこーもない、練習不足なだけのようじゃ。出ただけ奇跡じゃよ。本当にスキルを得ているのだからビックリじゃわい。」


「なるほど、何か俺の知っている異世界転生ものの本だと。楽にスキルもすいすいゲットして、すいすい使っていたから。」


「例の「らのべ」か? そんな都合良くはいかんじゃろ。」


「だよな……。となると、まだまだゲールクロー『疾風爪』は、実戦レベルじゃないな。」


「訓練あるのみじゃ!」

ヤマト達が修行を開始した頃。

場所は魔界。

ここは、とある魔界の王国。


魔界にはいくつか帝国や王国がある。


その国のトップに、各魔王がいる。


その中でも強い力を持ち、狡猾な政略を得意とする魔王がいた。


蠅の王ベルゼブブ。


醜悪な容姿をしており、手足も虫のそれだ。


玉座のようなものに座っているが、よく見るとその玉座は人の髑髏で出来ていた。


「ほう……。オリテリア不在の可能性がある?」


「はは!王よ!そのようで。どうやら、とある人間を探しに地上界に降臨しているようです。」


そう答える魔族は、ベルゼブブと対照的だ。


人型で大層美しい容姿をしていた。


執事のような恰好をしているが、その目は緑色に光っている。


あきらかに魔界の者であり、邪悪さを含んでいた。


「なぜ人などを……。そもそも神は地上界に手を出せないだろう。」


「噂ですと、悪魔バフォラットを使役しているとか。」


「なに?悪魔と手を組んでいるのか!?」


「あくまで噂ですが……。」


過去、神が悪魔を使役したことはあった。地上界不介入を理由に、悪魔を間接的に使役するのだ。


しかし、悪魔バフォラットは簡単に使役できるような悪魔ではない。


「あのバフォラットが動くということは何かあるな。面白い……。その人間を調べてこい。ラスター。」


「は?王よ、人間などをですか?」


「そうだ。」


「しかし……。どの人間か判りません……。」


「二度言わせるか?ラスター。」


「とんでもございません。王の仰せのままに……。」


そう言われたラスターと呼ばれる魔族は、直接地上界に行かざるを得ないと悟った。

【ヤマト視点に戻る】

魔法訓練もスキル訓練も順調だ。リリスも張り切っている。


「身体強化の低位魔法はほぼマスターしておる。とりあえずは良いじゃろう。」


「次は?」


「中位じゃが、とりあえずは良い。」


「俺の身体強化Lv2になってんだよな。」


「魔獣一匹倒してレベルアップなど信じられないことじゃ。」


「身体強化属性のみだけどね。」


「本当は属性が、2か3あれば良いのじゃがな……。特に光属性魔法が欲しい。」


「何故?俺は遠隔攻撃が必須だから、炎とか欲しい。」


「光は、治癒魔法が使える。今のヤマトには必須じゃ。」


「……ラノベとかだと、大体全属性なんだけどな。」


「アホ。全属性など神にも近い存在だ。」


「ちなみに過去いたの?」


「カリアースは全属性だった。」


「俺と同じ名前の人?」


「ワシはオヌシの前前世じゃと思っておる。」


俺は笑った。


「まさかぁ。」


しかし、リリスの顔は大真面目だ。


「そ、そんな訳ねーよ。俺はブラック起業に勤めていたサラリーマンだったし。」


「それは一つ前の前世じゃろう。」


「……ちなみにカリアースは半神だったわけじゃないの?全属性って凄くないか?」


「奴は素性が最後まで謎じゃった。孤児だったのをワシが拾ったのじゃが。」


「孤児……。そこは俺と似ているな。」


「奴は全属性のうえ混合魔法まで駆使していた。神とも対等に戦っていたぞ。」


「か、神とも……。」


俺は呆気に取られた。オステリアとか想像すると、他の神々とかと戦いなど想像もつかない。


「それでもカリアースは最後には神に殺されたがな。卑怯な手を使われたからじゃが……。ワシはオステリア達を絶対に許さん。」


そう言ったときのリリスは、憎しげだった。


「……。」


(いつか、オステリアとリリスの間での決着をつけるときがくるのかも知れない……。そのとき、俺はどう関わるのだろうか……。)


しかし、現在の俺は森で生きることに必死。神だの何だのは遠いものに感じた。


数日後、クローベアーの肉もあらかた処分してしまった俺。


久し振りに狩りいくことにした。


そこで俺は自分のステータスがおかしくなっていることに気がつく。

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