第59話 子を想う。

ヤマトが森の中で魔法訓練を開始。その頃、マリーシア達は……。


/////////リカオン視点/////////


心配だ。マリーシアの精神状態が不安定すぎる。


あの魔人の襲撃から10日が過ぎた。


マリーシアは妊娠中だが毎日ヤマトを探している。今日も遠くの街まで聞き込みに言っているようだ。


もちろん俺も探しているんだが、もう絶望的とさえ思っている……。


ヤマトは不思議な子だった。まだ5歳で大人顔負け理解力と判断力をもっていたし、どんなに難しい本でも理解しているようだった。


森であの子と出会い、幸せな日々だった。


ヤマトがいたから、我々夫婦はやさしい時間が過ごせたのだ。


(あの子に会いたい、もう一度。)


あの日、魔人が襲ってきた日。すべてが変わった。


魔人に俺は呆気なくやられ、ヤマトがマリーシアを魔人から守ったのだ。


庭に残されていたのは、魔人の焼け焦げた死体のみだった。ヤマトの姿はどこにもなかった。


魔人の死骸からするに、魔人は何かとてつもない力に焼かれたと思われた。


一体何があったのかは分からない……。


俺もマリーシアも気絶していたからだ……。


マリーシアが最後に見たのは、魔人に突進していくヤマトの姿。


二階の窓から落ちていく姿だった。


普通であれば、それで死んでいると思う……まして魔人と落ちたのだ……。魔人に殺されているか食べられているだろう。


しかしヤマトは本当に死んだのか? 


せめて遺体が見つかれば諦めもつくんだが……。


マリーシアも、俺もヤマトが死んだとは信じられないでいる。


衛兵やギルドにも、依頼を出している。


しかしどこも「魔人に食べられたんだろう」と結論を出してしまう…。もはや動いてくれない。


本当にヤマトは死んだんだろうか。俺は父親失格だ…。家族も守れない父なんて……。


マリーシアも心配だ。


身重なのに毎日ヤマトを探しに森やギルドへ確認をしに行っている。


家にいるときも、良くヤマトが使っていた日用品などを見ながら涙を流している。


「ヤマトちゃん……どこなの?」


とノイローゼ気味だ。そんなマリーシアの姿を見ているのが辛い……。本当に辛い。


しかし無理もない……、血がつながっていないとはいえ、マリーシアはヤマトを本当に愛していた。


神はなぜこのような試練を与えるのか。


しかし、生きているのでは?という希望も我々夫婦は持っている。


実は目撃情報が一つだけあるのだ。


事件があった日、南の宿場町で一人青い髪の少年を見た、という兵士がいるのだ。


「たしかに青い髪の子で、とてもきれいな顔をしていた。捨て子だと思っていたが……。」


とのこと。重要な証言だ。


しかし、その目撃された証言がヤマトだとすると、何故 ウチに帰ってきてくれないのだろう。なぜ一人で?もしかしてヤマトじゃないのか? 


そんな希望と諦めで、いつもループしている。


でも俺たちは諦めない、俺はあの子の父親なんだから。


ヤマト……お願いだから姿を見せてくれ。俺の子よ……。


////////マリーシア視点///////


ヤマトちゃんがいない……。


私の一人息子。


あの子は最後に言っていた……。


「僕はほんとうの子供じゃないんでしょ?」と………。


どこで知ったのかしら。


あの子は、一人で苦しんでいたのよきっと。


私はそれを知らずに………。妊娠してから、私とリカオンは新しい赤ん坊の話題でいっぱいだった。それを見ていたあの子はどんなに傷ついていたんだろう。


そう思うと胸が張り裂けそうになる………。もう一度会いたい。あの子にもう一度………。


皆は、「魔人に食べられた」と言っているけど、信じないわ。絶対にどこかで生きている。私の大事な一人息子……。



//////ヤマト視点に戻る//////


「信じられん………………もう5日で身体強化魔法の基礎を覚えてしまったぞ。」


毎日、リリスと魔法訓練をつづけている。


リリスは超リリス理論で俺に教えてくれている。


かなり無理のある教え方であるが、魂が同化しているせいか。


何とか彼女の考えていることが伝わってくる。


また、この体はスペックが高いらしい。もの凄く記憶力が良い。そのお陰か、俺はリリス理論を超スピードで理解し、体得していた。


リリスは驚いていた。


俺の魔法を覚える速度が尋常ではないらしい……。あと数日で低位魔法をすべて覚えてしまう勢いだ。これは異常なことらしい。


「たしかに覚えるのに苦労したことがないな………全部一発で成功しちゃうな俺。」


「それが異常なんじゃ……天才という言葉では片づけられん。異常じゃ。詠唱を覚える必要がないとは言え、早すぎる。」


「確かに詠唱暗記しなくていいからな………。でも、本当に詠唱覚えなくていいのかな?」


「無詠唱じゃから必要ないが、いつか覚えておく必要はある。魔法学としては必要な知識なんじゃ」


「いまは生き残るのに技術のみ必要ってことか……。習得が早いのは前世で読んでいたラノベで、魔法のイメージを大体もっていたせいもあるんじゃないか。」


「そのラノベ?というのか?その下地があったのも大きいとは思うが………、まぁとりあえず早く訓練を終えられそうで良かったわい。」


「普通と比べてどれくらい早いんだ?」


「基礎だけで普通は2年以上の訓練が数日じゃ。オヌシは早過ぎじゃわい。」


無茶苦茶、早いらしい……。

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