第58話 魔獣を食う

クローベアーをマイホーム(穴ぐら)内へ持ち帰ることになった。


最近は穴ぐらに愛着すら感じるようになってきている。


つーか、俺の夢のマイホームってこんなんじゃないんだけどね。いつか、ちゃんとした一軒家を建ててみたい……。夢のまた、夢かもしれないけどさ。


マイホーム前に到着する前に、一応クローベアーの血抜きはしておいた。それをしないと魔物が寄ってくるだろうとのこと。


なので一生懸命やった。初めてだったけど、リリスが丁寧に教えてくれた。


身体強化魔法と、今回は使わなかったショートソード(クローベアーの体には、なまくらソードでは通用しないため使わなかった)を使い、クローベアーの適切な箇所に傷をつけて血を抜く。


血抜きは上手く行った。


クローベアーの重さはかなりのものだが、身体強化魔法でズルズルと引きずって持っていく。知らない人が見たらびっくりする光景だろう。こんな小さい子が巨大な熊を引きずっているんだから。


「よし!帰りに楽しみが出来た!帰ったら熊肉ステーキだ!」


「やめとけ、死ぬぞ。ヤマト」


リリスは本気で心配していた。


空腹が無い俺はかなり元気。


(しかし、不思議だな。捕食ってやつをしてから、本当に空腹感がなくなっている。)


ちなみに右拳は完全に治っている。全く痛くない。


右拳もそうだけど、体調はすこぶる良い。むしろ、体中から力が溢れてくるかのようだ。


熊も凄く軽く感じる。


そして、マイホームに到着。


早速、俺はリリスにお願いしてみた。


そう……。


食べて見たい!と、リリスに言ったのだ。


俺は本気だ。


「やめておけ。死ぬか気絶するぞ!」と、必死に止めたが、「一口だけ!」と言う条件付きで実験してみた。


何日も何も食べていないのだ。是が非でも、肉を食べてみたかった。


空腹は無いが、何も食べていないので精神的な空腹感があるのだ。


「うむぅ。すこーしじゃぞ?一口だけなら……。」と、リリスも渋々承知。


そして、実食することに。


俺は喜び勇んで火を起こし、そして肉を取り分けて焼いた。


ジュー、ジューと良い匂いに涎が止まらない。


「こ、頃合いだ。」


俺は待ちきれずに、がっついて食べた。


「こ、これ!少しじゃ!まだ半生じゃぞ!」


「うま!うまい!うまい!」


「こ、これ!一口じゃと言うたろ!」


言うこと聞かずに、むしゃむしゃ食べる俺にリリスは若干引いていた。


そして結果は……。


「何も問題無かった。」


リリスは衝撃を受けていた。


食べて数時間様子を見た。しかし、何とも無い。


ステータスで状態を見ても問題ない。


「し、信じられん。」


「でも、実際に食えたぜ?しかも、すげー美味い。」


ちょっと固かったけど、久しぶりの肉。


ジューシーさと、肉特有の甘みが最高だった。


「あ、味はどうでもいいんじゃが……。半生で食っておったよな。オヌシ。」


しかし、結果としてリリスは「ヤマトだからな。」と、言うことで納得していた。


俺は魔獣を食べても大丈夫だとわかった。

今日は体を休める意味で、穴ぐらでゆっくりしている。


連日歩き通しだったし、精神的にも追い詰められていた。ここらで休日も必要だ。


俺は新たに作った簡易ベッド(木を組み合わせて枯れ葉を敷き詰めたもの)にゴロリと横になる……。


「……。」


しかし、暗闇に一人いると孤独になる……。


テレビとか欲しい。せめてラジオ。あるわけないけど……。


やっぱり孤独……むっちゃ孤独。


俺は入口にいるリリスを呼んでみた。


「リリス!なぁ!リリス!」


「なんじゃ?」


しばらくすると、リリスが戻ってきた。


俺は話し相手が欲しかっただけなので、明日の予定でも聞いてみることにした。


「明日はどーすんだ?」


「食料(クローベアー)が手に入ったでの、しばらく狩りをしなくてよかろう。明日は魔法の練習とスキルを実験してみるぞ。」


「そうか。ここ数日は動物探しに終始していたもんな。」


「うむ。ようやくじゃ。あのクローベアーの強さは異常じゃ……。しばらく修行することにしよう。」


「やっぱり修行するのか。」


「うむ……。このまま移動しても死ぬだけじゃ。」


「……確かにな」


「まぁ、今日は良く休め。」


「そうだな……。ふぁあ……急に眠くなってきたぞ」


「では良く眠ることじゃ、ワシは入口を見張っておる。」


「うん。おやすみ。リリス。」


「おやすみ。」


簡易ベッドに寝袋を敷いてぐっすり眠った。むちゃくちゃ良く眠れた。


翌朝、起きるとリリスは決意したように俺に宣言した。若干嬉しそうだ。


「よし!修行じゃ!」


「なんかやる気だな!」


「ようやくじゃ。食料確保に時間を取り過ぎた……。」


「だな……。」


俺の生存確率が高まるのであれば、魔法訓練をやるしかない。


生き延びて、俺は10歳になったらリカオンとマリーシアにもう一度会いにいくんだ!


こうして俺は、魔獣の森でリリスと魔法訓練を開始した。

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