第55話 シャークヘッドとメッセージ
「グオ!?」
クローベアーは、まさか攻撃されると思わなかったのか、迫る拳を横に跳んで避けた。
しかし、クローベアーは避けきれずに左肩に被弾。
ドウン!!
「ギャオン!」
叫び声を上げながら、よろめいてゴロゴロと横に転がっていった。
「グオ!グオ!」
グローベアーは、痛がってゴロゴロ地面をのたうち回っている。
左腕にかなりのダメージを負ったようだ。
「痛っ!」
「どうした!?ヤマト!」
「み、右拳が砕けた。」
「なんと。」
身体強化魔法は、自らの肉体をも硬化、強化させる。それにもかかわらず、ヤマトの拳がくだけたことにリリスは驚いた。
「くそ!走りながら作ったから魔力圧縮が未完成だった。威力が足りてない。」
魔人のときとは違う感触だった。威力不足だ。
「しかし、チャンスじゃ。追い打ちをかけろ!」
「わかった!」
ゴロゴロ転がったクローベアーをおいかけると。
開けた場所に出た。
(ここは……。)
広場の先は切り立った崖だった。かなりの高さがある。
森から少し抜けた場所に、こんな場所があるなんて俺は知らなかった。
そこは小さな広場のようになっており、クマはそこで左腕の痛みに苦しんでいる。
「グ!?グォォ!」
俺に気がついたクローベアーは後退し、崖の方へじりじりと下がる。
かなりビビっているようだ。
「もう一発じゃ!奴の左肩を狙え!威嚇でも良い。」
「左だな!」
俺は、残った左腕全体に魔力を込める。右腕は使いものにならない。
俺は痛みを忘れていた。
(今度は念入りに……。)
両足と左拳に魔力を込める。
「よし!」
俺は左腕を振り回す。
ブン!ブン!
結構情けないパンチだ。ボクシングとか習っておけば良かった……。
「グォ!?」
しかし、相当ビビっているのか。
俺からみて左側にヨタヨタと逃げるクローベアー。
その後ろには崖だ。
「今じゃ!蹴落とせ!」
「よし!」
ドン!!
「グォ!?」
俺は魔力を足に込めて弾丸のように走った。クローベアーは崖と俺に挟まれていて動けない。
シュン!
最高スピードになった俺にクローベアーは反応できていない。
「うぉら!」
1m手前で軽くジャンプすると、クローベアーの顔をドロップキック。
ドガン!!
(く……重い………。)
俺は右足で蹴ったが、まるで岩を蹴り飛ばしたような感覚に顔をしかめた。
「グギャ!?」
ドッゴオオオン。
俺の強化魔法マックスの蹴りで、顔面を蹴られたクローベアーは崖の際まで横っ飛ばされた。
しかし、なんとか落ちずに土俵際で起き上がった。
「くそ!重いし、固いんだよ!こいつ!」
「何百キロかあるしのぅ……。くそ!惜しかったわい。」
そこは、崖まで数センチ。クローベアーにとっては危険な位置。
ガラガラ………!
地面は不安定そうだ。見ていて危うい。
ガラ!!ガラガラ!!!
「グギャ!?」
ヨロヨロと土俵際で踏ん張っていたが突如足元が崩れた。
そして呆気なく、クローベアーは崖下に落ちていった。
「グオオオオオオ………。」
雄叫びを上げていきながら。下に落下するクローベアー。
「ま、まじか!?」
俺はすぐに崖下まで確認する。
クローベアーが血を流してうつ伏せに倒れているのが見える。
「………死んでいるのか?」
「この高さじゃ。助かるまい。」
「か、勝ったのか……?」
「良くやった。ヤマト。」
そこで膝をついて、俺は仰向けに倒れ込んだ。
「はぁ、はぁ。なんとか倒した。もうダメかと思った……。ぐ!い、痛ぇ。」
安心した途端、空腹が俺を襲ってきた。それと同時に右拳が砕けたことによる激痛が襲いかかる。
激痛にもかかわらず、腹の減りは耐え難い。そこで、気がついた。
「も、もしかして、あのクローベアー。食べれるんじゃ!?」
「いや……。魔獣は食うと卒倒するぞ。死にはせんが……。」
「…………それでも食わないと死ぬ。」
とにかく崖下にクローベアー様子を確認しに向かった。
俺達は急いでクローベアーを確認しに崖下に回り込んだ。
森を迂回しながら進んだので、結構時間がかかった。
ようやく崖下に到着。
急いで来たこともあり、俺は息切れしていた。
「はぁ…、はぁ…。、着いた…。このあたりのはずなんだけど…。く、右拳が。」
ズキズキと右拳が痛む。まるで心臓を持っているかのようだ。
「痛むのは分かるが急げヤマト、そろそろ陽が落ちる。魔物が増える時間帯じゃ。」
「わ、わかってる。」
時刻も遅くなりつつあるため、急がなくてはならない。
夜になると魔物や魔獣が出てくるからだ。
(ここは随分と隔離されている空間だな……。)
周囲を見渡すと、この崖下は周囲の森から隔離されているような場所で動物や魔物も来そうもない。
リリスは焦っているが、ここなら暫くは大丈夫だ。
そうも言ってられないが……。
(えっと……クローベアーは……。)
「あ!いた!」
見るとクローベアーは崖下の大岩に直撃したのか、岩にもたれかかるようにうつ伏せになっている。
ピクリとも動かない………。地面には大量の血が流れているので、死んでいると思われる。
「し、死んでるか?」
「大丈夫じゃよ。死んでおる。」
「本当か?こえーよ……。」
「近くに行って確かめてみる以外あるまい……。」
「ガバ!と起き上がったらどーするよ。怖いって。」
「あほか。」
「うるせーよ。」
「このままジッと見つめているのか?」
「いや、確認する。そうだ石でも投げてみるか?」
そう思った俺は足元に落ちている少しデカい石拾って、片手でそれを遠くから投げつけてみた。
「ふん!」
ビュン!!
勢いよく石は飛んでいく。
ドガ!
クローベアーの腹のあたりに当たった。
シーン……。
反応がない。
あれだけの勢いで当てて反応がないのだ、死んでいるとみて間違いないだろう。
「し、死んでるよな?リリス」
「だから死んでるって言っているじゃろが………。」
「怖いんだって。俺、今襲われたら戦う力ないぞ?」
「ここから確かめる術がないわい。鑑定魔法でもあれば別じゃが……。」
「鑑定魔法!?使ってみたいぞ。」
鑑定魔法って、ラノベでもそれだけでチートスキル扱いされるやつだ。
この世界ではそこまでチートではない?とにかく俺は鑑定スキルに憧れがあった。
「あれは才能が必要じゃ、使えるか分からん。」
「えー?」
「頬を膨らますな…。あれもスキルに近い魔法じゃからな。」
「そうなのか……、それはともかくクローベアーだ。も、もう少し近付いてみようかな?」
そう思い、クローベアーにそろーり、そろーりと近付いていく俺。
もし死んでいるので、あれば本気で俺は持って帰って食うつもりだ。卒倒しようが、気絶しようが何か食わないと餓死してしまう。
俺のへっぴり腰にリリスが呆れた。
「とても龍神や根源精霊の血を引いているとは思えんな………。」
「うるせー。」
そう思ったその時だった。
クローベアーが全体的に光った。
「な、何だ!?」
「ヤマト……!お前の体も光っておるぞ!」
「何!?」
クローベアーのそれに呼応するかのように、俺の体から突如として淡い光りと共に巨大なサメの口のような形状のものが出てきた。
「な、何だこれは!?」
俺の胸から、飛び出すように出てきているサメの口……。
光のシャークヘッドとでも呼ぼうか。
俺の身体から光るシャークヘッドが飛び出しているのだ。
「な!?な、なんだ?これは?リリス!リリス!これ何?」
「やかましいわい、静かにせぇ!ワシにも分からん……。初めて見る現象じゃ。」
「な、何かの病気じゃないよね。」
「そんな病気あるわけなかろう。」
「リリスにも分からないのか。」
その時、脳内に不思議な声が響いた。
そして目の前にゲームのような、光る選択肢が現れた。
【魔のコアを確認しました、捕食しますか?】
【する】or【しない】
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