第54話 ヤマト vs クローベアー

クローベアーは光っている両手のうち、右腕だけを上げている。


「俺との距離は数mはあるのに……。一体?」


俺は何か違和感を感じた。危険な気がするのだ。


「ス、スキルを魔獣が使えるはずが……。」


リリスも理解出来ていないらしい。確かに、俺の読んだ本でも魔物ならまだしも……。魔獣がスキルを使うなんて聞いたことが無い。


「この距離で何をするつもりなんだ。」


「バンザイしているようにも見えるがの。」


「片手じゃん。挨拶しているように見えるぞ。」


「なるほどじゃ!「よぅ?元気か!」ってしているように見えるぞい。」


俺とリリスがくだらない会話をしていると。それは起きた。


ブン!!


クローベアーは何もない空間を切り裂くように右腕を素早く下ろした。


するとクローベアーの目の前に、光る三本爪が現れた。


「な、なんだ!?あれは!?」


「あれは!」


俺達が驚いていると、それを眺めている時間はすでになかった。


ズア!


超スピードでこちらに飛んできたのだ。


「!」


「避けろ!!ヤマト!!」


「く!」


リリスの叫びと同時に俺はとっさに足に魔力をこめると、速度を出来る限り上げて横に跳躍する。当時にリリスは視覚化して消える。


シュン!!


俺が避けた三本爪は俺の真横を通り過ぎた。


そして真後ろの大木に激突。


ズバ!!


大木は大きく抉りとられて、大きな3本の爪跡がついていた。


凄まじい威力だ。


「おい、あの木を見ろよリリス。まるで斧で叩きつけたみたいになってるぞ」


「見たことがあるぞ!あれは魔界の住人の有名なスキル、ゲールクロー(疾風爪)じゃ!」


「あ、危ねぇ……。あんなんに当たったら、重傷間違いないぞ。」


「ヤマトでなければ死んでおったじゃろうな……。」


俺の反応速度にリリスは感心していた。


俺の身体強化魔法はかなりのものらしい。


「強化魔法は慣れたもんじゃな。発動速度だけなら龍人の戦士なみじゃ。」


俺は褒められたので少し嬉しい気持ちになったが、今はそれどころでは無い。


「そんなことよりも!魔獣って爪の攻撃が飛ばせるのか!?」


「いや、あんなスキルを魔獣が持つはずがないのじゃが………。」


リリスは心底驚いていた。


「でも実際に……。」


「もしかすると……。この魔獣の森は通常とは、大分違うのか?」


「そうなの?」


「ワシの認識は数千年前の記憶から来ている。魔獣も進化したのかも知れない。」


「実際、スキル持ちの魔獣は居るにはいるのか?」


「……1000匹いて1匹いるかどうかじゃ。」


「めっちゃレアじゃん。ともかく、あんなんでやられたら………。」


「即死じゃな。」


「そくし!?」


「即死とは、即座に死ぬと書いてな………。」


「知ってるよ!」


「しかし、冗談抜きに深刻な状況じゃ。あのスピード、スキル。それにパワーも上回っておる。どう戦うか………。」


こうして俺とリリスは作戦会議を開いているが、クローベアーの前でそんな時間あるのか?と言われれば。今はある……。


クローベアーは、思ったよりも俺の動きが素早いせいか。俺の様子を伺っているのだ。


「あの、光る爪スキルみたいの避けながら殴りつける?しかも弱った俺の体で?無理ゲーだろ。」


「しかし、やらねば死ぬのみじゃ。」


「分かってるけど………。」


「グオオォォ!」


「!!」


またクローベアーが、腕をあげて爪スキルを発動させようとしている。やばい!


「ヤマト!ここでは不利じゃ。とりあえず森の中へ行くのじゃ」


「森の中こそ不利じゃねーか!?」


「いや……。そうでもないぞ!森を利用してやるのじゃ。木を盾にしながら戦うんのじゃ!あわよくば逃げる!」


「わ、分かった!」


俺は強化魔法を発動させて、後ろに広がる森林に向かって逃げた。


ダッ!!


「グォアア!」


逃げた俺を追いかけ、クローベアーも追いかけてきた。


「うぉぉ!?追いかけてきた!」


「そりゃくるわい!!」


光る爪を連発するクローベアー。


ブン!ブン!!


「ひぃ!?」


俺は左右にジグザクに駆けた。


光の爪は俺を捕らえることができずに、俺の近くの木々に当たった。俺は森の中へ無事入る。


木の皮はめくれ、まるで斧をブチ込んだようになっていた。


「なるほど……。これなら、意外と避けやすい」


「じゃろ?」


俺はそれを横目で見ながら走るのを止めない。


クローベアーも本気で迫ってきているため、俺は全速力で駆けた。


後ろから、ゲールクローが連続で来る。


数発が木の間を抜けて、俺に迫る。


俺は避ける。


「あっぶね!」


さらにクローベアーは爪スキルを連発しながら。


俺に後方から肉薄してきた。


俺は必死。


ヒョイヒョイとジグザグに木々を縫うように走り、何とか逃げる。


「くそ。あの熊ころめ。はぁ!はぁ!」


「ヤマト!逃げてばかりでは追いつかれるぞ!応戦じゃ!」


「そ、そんなこと言っても。はぁ、はぁ!」


「スタミナは向こうのほうが上じゃ。腹をくくれ!」


「…………くそぉ!」


走りながら魔力球を作ったことはなかったが、なんとかうまく作った。


そして俺はそれを右腕に纏う。


ブン!


右腕に力が宿るのを感じた。


「良し!」


俺は足を止めて振り返る。


「くらえ!!」


俺は熊の頭めがけて右ストレートを放つ。俺の拳がクローベアーに襲いかかる。

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