第53話 森のクマさん

ステータス鑑賞を終え、リリスと感想を言い合った。


謎過ぎる俺の体に、二人とも動揺していた。


称号も謎だが、種族もまさかの混血だ。


「うむ。まさか龍神と精霊の血も混じっているとは思わなんだ。」


「転生する前までは、間違いなく人間だったよ。」


「オステリアが何かしたのか。いや。それでも根源精霊などは神の力を超えておる。むむぅ…。」


リリスでも判らないようだ。


「そもそも、10歳を迎えず魔力を発現している時点でおかしかったのじゃ。まさか龍神族と精霊族の血が混じっているとは……。」


「龍神族とかって、10歳未満で魔力持つのかな?」


「知らん。龍神族自体が、存在するか疑問視されていた種族じゃ。」


「だよな……。」


しかし、暇つぶしにステータス覚えてから、大変なことになったな。


しかし、考えても仕方のないことだと言えた。


そのうち、おいおい判明していくだろう。


俺は意外と達観していた。


判らないものは考えない。


突き詰めて考えるのは大事なことだが。一旦、ペンディングしておくのも大事なことだ。


そう。


謎が多いが、それはそれとして考えるべきなのだ。


それに、そんなことで悩んでいる時間はない。俺に今必要なのは食料だ。


それを何とかせにゃならん。


ステータスが示しているように、このままでは餓死してしまうからだ。


俺は重い体に鞭を入れた。


「食料探しに行くか……。」


俺は足を引きずるようにして、今日も森を彷徨う。


行きがけに、川に新しい罠を仕掛けておいた。川魚が取れれば、かなりのカロリーが摂取出来る。動物が狩れなかったときの保険だ。


ついでに顔と体も汗っぽかったので、服を脱いで水浴びをしていく。


心身共にリフレッシュした俺は気合いを入れた。


「さて、行くか!」


森の中、動物探索を続行。


しかし、気合いを入れたのにまったく動物に出会わない。


今日は小動物一匹も見かけることすら無かった。


どうしたことだろう?


「はぁ……はぁ……。力が入らないことも問題だけど、思考がまとまらなくなってくるな。これが飢餓状態か。」


息も絶え絶えな俺。


「ぬぅ。困ったのぅ。こうなれば、森に火をつけて森の動物を全滅させるか。」


物騒なことを呟くリリス、しかし俺も死にそうになっている。その案を全力で否定できない。死ぬよりは……と、考えてしまう。


やらないけど。


夜になろうかという頃、俺は動物を捕まえられずに穴ぐらへ戻ろうと決意する。


「ダメだ。引き上げよう。リリス。」


「うむ。帰りに川の仕掛けだけ見てみよう。魚が捕まっているかも知れん。」


「だな……。」


俺とリリスは、森の中。来た道を戻ることにした。


もう少しで川の近くに着こうか、という時。


微かに動物の唸り音を耳にする。


「グルルル……。」


俺はそれを聞いて期待した。


「しょ!食料!?(動物?)」


「……そっちの方から動物の声が聞こえたのぅ。」


「な、なんでもいい。ゆっくり接近するぞ。」


唸り声が聞こえた方向へ進む俺。いくつかの薮を越えて、俺は動物を探す。


「ど、どこだ?たしかこのあたりに……。」


「グル……。」


「後ろ!?」


俺が振り返ると、そこにいたのは1匹魔獣だった。


そう、動物ではなく魔獣。


体は大きくて大人3人分くらいあるだろうか、一見すると熊だ。


しかし良くみると眼が赤く光っており、熊にしては異常に大きい鉤爪を持っていた。


こんな動物がいるはずない……。これは魔獣のほうの熊。


何だろ。初めてみる魔獣だ。


(や、やばい……。いつの間に後方に!)


とにかくデカい。


真っ黒な毛皮に、ギラギラした赤い目が真っ直ぐ俺を見ている。


奴は四つん這いの状態だが、俺の視線よりも遥か高い位置に首がある。


そして、いまにも襲いかかろうとしていた。


「た、戦うしか……。」


俺が臨戦態勢を取ろうとしたとき、リリスが叫んだ。


「魔獣クローベアーじゃ!!逃げろ!」


「え?」


「魔人ほどでは全くないが。今のヤマトは弱っておる。逃げるのが得策じゃ。」


「分かった!」


俺は全力で逃げようとするが、下半身に力が入らない……。足がもつれる。


俺の体はそれくらい弱ってしまっていた。


「あわわ……。」


「何しとる!早く逃げんか!」


そんな俺をクローベアーが放っておくはずがない。


「グアアア!!」


すぐに襲いかかってきた!口を開き、噛みつこうと俺の首に迫る!


「う、うわあああ!」


俺はとっさに下半身に魔力をこめて、身体強化魔法を発動。


横っ飛びに避ける。


ガチ!!という音がして、俺がいた空間に噛みつくクローベアー。


間一髪だった。


「今のはヤバかった。魔人ほどじゃないが、とんでもないスピードだ」


「クローベアーは、Bランク冒険者推奨の魔獣じゃ。何故、こんな森の入り口近くに……。」


「動物園とかで見るクマと、ぜんぜん違う!まったく可愛くないぞ!」


「当たり前じゃ!」


「リリス、どーしよう。力が入らん。」


俺の膝が笑っていた。


さっきの魔法で力を使い果たした感じだ。魔力があっても、俺の5歳の体が限界を迎えていた。


「マズイのぅ。戦うしかないのか。ん!?クローベアーがスキルを発動しようとしているぞ!ヤマト!」


「スキル!?」


クローベアーを見ると、何やら両手が光っている。


「な、なんだ!?あれは?」

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