第50話 リリスの確信
穴ぐら(マイホーム)に到着した俺は、まず火をつけた。
これが結構大変。
無事に火が起きたら、備蓄しておいたドングリを放り投げ入れる。
頃合いを見て皮をむいて食べる。
味は悪くないが、圧倒的にカロリー不足だ。
「これしかないと思うと余計に腹が……。」
「早々に寝るしかないのぅ。」
水筒を取り出し、川から取っておいた水を飲む。
はい、夕飯終了。
「ぜ、全然足りない。」
「うむ……。ワシは飯を食べんでも大丈夫じゃが。ヤマトはそうもいかないしのぅ。」
「……明日も動物を狩れないことになったら餓死する。」
「すぐに餓死することもないと思うが……。」
「いいや。餓死するね。さむ……。今日は寒いなぁ。」
この森は夜になると急速に気温が下がる。
「はよ、寝袋に入って寝るのじゃ。」
「寝袋を、あの宿場町で手に入れておいてよかったよな。」
はじめ、あの男たちが入っていた寝袋など冗談では無いと思っていたが。背に腹は代えられない。この森は夜は冷えるのだ。
この世界にも四季はある。
今は秋とはいえ夜になると気温はかなり低い。
幸い(奪っただけだけど)にも寝袋があるのでなんとか大丈夫。
「さて、明日に備えて眠るのじゃヤマト。」
「穴ぐらで寝るのって怖いよな。真っ暗だしさ。」
「明るいと、魔獣や魔物に発見されるじゃろう。」
「……そういや入口を塞いでなかった!」
「ワシが見張る。それにここは高台なので魔物も近寄らんわ。」
「そうか……。そういやさ。」
俺は少し疑問に思っていることをぶつけてみた。
「あのさ。魔人って、魔獣や魔物に分類されるの?」
「あれは別じゃ。「魔族」と呼ばれている魔界の住人じゃ」
「じゃあ、悪魔と同じ世界にいるの?この魔獣の森にはいないよな?」
「いや、魔獣の森にいるかも知れんがの……。」
「いるの!?」
俺は飛び起きた。
「魔界は地上界へ降り易い。故にあり得る。しかしオヌシを発見する可能性は低い。これだけの広さと魔素が満ちているのでな。」
「そ、そうか……。」
俺は少し安心したような声を上げた。
しかし心配だ。こえーよ。
「ワシが入口で見張ってやる。魔人も来ないから安心するのじゃ。ゆっくり休め。」
「わかった……。」
リリスが入口のほうへ去っていくのを見送り、俺は洞窟内にゴロリと横になる。
そして、目を瞑る。
固い地面に横になっている俺。
ただ真っ暗……(これキツイ)。
闇の中……一人で眠ると不安になってくる。
数時間経過しても俺は眠れなかった。
お腹が空きすぎるのと、普段と違う環境でどうしても眠りモードに入らない。
地面で寝るのって背中や頭が激痛いのよね……。
寝袋があってもそれは緩和されなかった。
普段、俺は母親に添い寝されて、暖かく気持ちいいベッドの中で眠る生活だったのだ。眠れるわけがない。
(……数日で環境違い過ぎだろ?)
グルグルと思考が巡る。
リカオンとマリーシアは大丈夫だったろうか?
俺が突然いなくなっているから驚いているだろう。
俺が死んだと思ってくれれば良いんだけどな……。変に心配かけたくない。
(でも……、俺が死んだあと妹か弟が生まれて……。俺のいない新しい生活が始まるんだな。)
もともと、俺はマリーシア達の子供ではない。
血の繋がりがないので本来の姿に戻ったと言える。
そう思うと、俺は無性に悲しくなってきた。
「……あれ?涙がこぼれてきた。くそ!眠らないと!」
とにかく、孤独で朝が恋しかった。
光がないから、こんなネガティブになってしまうんだ。
「5年……。5年辛抱すれば両親に会える。5年の辛抱だ……。」
しかし、眠れない。
(くそ!これ幼児だったら、暗闇恐怖症になるぞ?あ、おれ幼児だったわ。)
(そうだ!!入り口で寝ようかな……。しかし、それはそれで魔物が怖い。)
なんか、外で「ワォォーン」って遠吠えとか聞こえるし。
入口にはいかないほうが良いよな……。
俺はテレパシーでリリスを呼んでみる。
「おい、おい!リリス!」
すると、リリスが戻ってきた。
「なんじゃ?見張りに戻らねばならぬが……。」
入口から戻ってきたリリス、若干面倒くさそうだ。
「話し相手になってくれよ。眠れないんだ。」
俺の目が赤くなっていることに気がついたリリスは、俺のことを優しい目で見つめた。
「……分かった。早く寝ることが肝要じゃぞ。」
「眠れないから頼んでるんだよ。」
「わかったわい。仕方のない奴じゃ……。」
リリスを俺はみると、彼女は暗闇の中でもはっきりと見える。
不思議だ。
実体化しているとは言え、普通は見えないだろう。
これは魂が同化している影響?
光とか関係なく俺の視界には入ってくる仕組みなのが不思議だ。
夜の中でも彼女の美しさが際立つ。女神と呼んでも間違いではないくらいだ。
「ところで何を話すのじゃ?」
「話と言っても改まって話すことはないんだけどな……。」
「まぁ、眠れないのは分かるぞ。オヌシの今までの生活と違い過ぎるからの。」
「ここ寒いし、暗いんだわ。」
「眠れるまでワシが付き合ってやる……。安心せい。」
何だか優しいリリス、その優しさが身にしみる。
「ありがとう。リリス。お前がいてくれてよかったよ」
いつになく弱気な俺に、リリスは少し笑った。
「まぁ離れようにも離れらんがな。さぁさ、魔物や魔獣が来たら起こしてやるから、安心して眠るのじゃ。」
「そんな起こしかた最悪だろ!」
「ふはは……。」
リリスの言葉に、笑ったら少し安心した。
落ち着いたせいか、俺は目を瞑ると疲れが一気に襲いかかってきた。
そして、落ちるように眠った。
「スー……。スー……。」
寝息を立てるヤマトにリリスは微笑んだ。
寝顔を見つめるリリスは、まるで聖母のようでもあった。
「前世も、今生も辛い目ばかりじゃの……。カリアースよ……。」
ヤマトの寝顔を見つめながら、リリスはそう呟いた。
確証など無い。名前が同じというだけだ。
しかし、リリスには確信に近いものがあった。
ヤマト・ドラギニスは、ヤマト・カリアースの生まれ変わりだと……。
その二人の姿は闇の帳の中、幻想的に映った。
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