第47話 願う少女
///////////リーラン視点///////////////
ここは「結界内」。
その結界はクリスタルで出来た巨大ドームであった。内部は水のようなもので満たされていた。ブルーサファイアのようにきれいな水は、明らかに普通のものではない。
暖かい光の水中、一人の少女が水面に浮かんでいる。
水中を泳ぐ木の葉のように揺れていた。
少女は目を閉じたまま、輝くようなピンクロングヘアー、その美しい顔は妖精のようでもあった。
彼女の名前は、リーラン・ドラガラム。
かつて龍人国の女王リリス・ドラガラムの養子として育てられた娘。
結界はどこなのか、この世なのか。
まるで現世と天上界との間のような不思議な空間であった。
女神の娘と言われても遜色ない美しさを持つ娘。リーランはうっすらと、雲のような意識のなか考えていた。
(あたたかい。まるで赤子のような気分になるわ……。)
リーランは生きているのか、死んでいるのか。自分でも理解していなかった。
しかし、彼女は確かに意識をもっていた。
「先程からヤマト。ヤマトの波長を感じる。あぁ……懐かしい。でも彼は死んだはず。」
無言で彼女が感じられる「波長」と言われるものを、何度も確かめるリーラン。
目を閉じたまま眉間に皺がよるが、それが美しい。
「確かにヤマトね。会いたい。でも、でもここから離れられない。ヤマト、早く会いたい。」
そう思うリーランだが、自分の真下から感じる闇の波動に絶望の声を上げる。
「私の運命は魔王。やつに握られている。」
一種の芸術作品のように裸で浮かんでいる姿は、とても幻想的な雰囲気で美しい。
ただし、その真下には恐ろしい生き物が封印されていた。
魔王。
かつて魔王と呼ばれた史上最強魔族がそこに眠っていた。
魔王は人間と変わらない容姿を持っていた。
しかし、その外見と中身は別物である。間違いなく、その魔王は悪の化身。
幻想的な美しい少女と少年の姿の魔王。それが一種異様な雰囲気を醸し出す。
リーランは祈った。神ではなくヤマトに。
「ヤマト。もし生きているなら。魔王と一緒に私を殺して。」
///////////ヤマト視点に戻る///////////////
「森の入り口周辺の魔獣レベルは低いと思われる。夜中に魔物に襲われないような場所を探すのじゃ。」
そう言われたのは、昨日。
あれから24時間経過。
すでに翌朝を迎えている。
「はぁ……はぁ……。死ぬ。死んでしまう。」
一睡もしてない俺は心身ともに疲れていた。宿場でもらった干し肉はすでに食べてしまった。
圧倒的に足りない水分。
しかし、止まるわけにはいかない。歩きに歩いた。
そしてようやく辿り着く。
ここは山や崖に囲まれた比較的広い空間だ。近くに川もある。
リリスが叫ぶ。
「ここじゃ!」
やっと見つけた適当な場所。これを見つけるのに24時間かかってしまった。
魔獣の森というが、ここは多様だ。
山や川があり、さらに沼などもあるという。
やっと見付けたここは木々が少ない。それに小高い丘になっているので見晴らしも良かった。水場も近くて最高の場所だ。
すると、リリスが周囲を確認しながら満足そうに頷いた。
「ここなら問題なかろう。」
「ふぅ。つ、疲れた。」
俺は地面に倒れ込む。
「よし、ここに拠点を作るぞ!!」
「なぁ。ちょっとは休ませてくれ。死ぬって。寝て無いし、何も食べて無いし。J」
「アホ。夜になると魔物や魔獣がウヨウヨ出てくるぞ?また木の上で寝たいのか?」
「あれはキツかった……。」
「そして、拠点が築けたら。食料調達じゃ。その後、修行するんじゃ!」
「修行ねぇ。水と食料の確保が先だけどね。」
「まずは雨避けと、バリケードを作るんじゃ。」
「はいはい。」
「”はい”は、一回じゃ!」
俺はリリスの指示のもと、適当な木と大きな葉を集めた。
それを組み合わせて屋根やら風避けを作っていく。
とりあえずのテントが完成した。
「うむ。とりあえずこれで良い。雨が降ると急速に体温が奪われるからのぅ。これなら当面は凌げるじゃろ。」
「ま、魔人が来たりしないのかな?」
「ここの森は魔素に満ちておる。オヌシの魔力を隠すのに絶好の場所じゃ。魔人は絶対 見つけられない。」
「そ、そうか。」
リリスはどこまで計画していたのか。たしかに魔人に襲われない場であれば、魔獣の森は俺にとって絶好の場所だろう。
ちょっと危険過ぎる場所だけど……。
俺は汗だくになりながら、食料を探しにまた歩き始める。
「普通にサバイバルじゃん。俺、大丈夫かよ。」
こうして、俺はサバイバルモードに強制移行することになった。
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