第46話 瞬殺

「おら。ガキ!こっちに……。」


その男はその次のセリフを吐く事は無かった。


俺は身体強化魔法を使い、大ジャンプ。


そして、急降下。


真上から男の頭を殴りつけた。


一撃で頭部が陥没する男。


俺はバックステップを取って反撃に備えたが、その必要は無かった。


男は、そのまま倒れた。


目と口から血を流しながら絶命していた。


「このガキ!!」


もう1人の男は、俺の背後から剣を振り下ろした。


しかし、俺はそれを難なくかわすと、そのまま回り込んだ。


「え?はや…。」


呆気に取られる男。


「ボーっとしてる暇ある?」


「!」


俺は喧嘩キックで蹴る。技もへったくれも無い。


「ふん!」


「がは!」


そして、終わった。


俺が蹴りを入れると、男は血を吐きながら吹き飛んだ。


男はそのまま絶命していた。


俺はそのまま立ち尽くす。


「…………。」


俺は自分の手足を見つめながら驚いていた。


初めて人を殺した。


そこに罪悪感は不思議なほど無かった。


かわりに俺は自分の力に驚くしかなかった。


全て一撃だった。それも大の大人相手に。


「こ、こんな簡単に……。嘘だろ?」


「見事じゃ。身体強化を使いこなしてきたのぅ。技のセンスは無いが。」


「成人男性2人を一瞬で殺してしまった……。こんな力が……。」


リリスが眉を上げる。


「意外か?しかし、理由もある。身体強化能力が使えることもあるが……。」


「あるが?」


「オヌシに魔力操作訓練をさせていたことも起因する。オヌシは間違いなく、身体強化では上位ランカークラスじゃろう。」


「で、でも魔人のときには通用しなかったけど……。」


「そりゃそうじゃ。下級とは言え、オヌシが戦ったのは魔界の住人じゃ。おいはぎなど相手にもならん。」


「そうなのか……。俺、本当に身体強化属性は得たみたいだな。」


「ワシらは勘違いしていたのかも知らぬのぅ。」


「何が?」


「普通。魔力が備わると属性も備わる。」


「うん。だから俺が無属性だから才能ないって。」


「しかし、考えてみれば10歳で魔力を備わっていることが異常なんじゃ。」


「ど、どう言うこと?」


「つまり10歳未満で魔力を得ただけで、魔法属性はこれから得るタイプなんじゃなかろーか?」


「え!?」


「しかし、かなり稀有な存在じゃろう。」


「ほ、他にも開花したりして?」


「うむ。それはあり得る。それは後日調べるとして……。まずはそこの死体から金品を奪うのじゃ!」


俺の属性に可能性があるのか気になるところだが、リリスに賛成だ。


「これ。俺は強盗殺人とかで捕まらないかな?」


目撃者が居ないだけに。正当防衛が主張できないのがイタい。


「こいつらは犯罪者じゃ。ワシらは正当防衛じゃ。一つも犯罪など犯しておらん。それにコイツらは社会のゴミじゃ。気に病むことはない。」


「いや、気には病んでないんだ。不思議なほど……。」


「はっははは!オヌシ!気が弱いところがあるかと思っておったが、大丈夫そうじゃの!良し。良し。ほれ!さっさと金品を奪ってズラかるのじゃ。誰か来ると厄介じゃ。」


「わ、分かった!」


多少の金と、俺はロングソードとショートソードを手に入れた。


聞けば、この世界では正当防衛で倒した相手のものは全て自分のものに出来るらしい。だから、悪いことはしていない。


さらに水筒と水。麻袋3つに、ランタンも手に入れた。


それに、寝袋をもっていたのでそれも取っておいた。


これから森に入るのに助かる。


しかし、ロングソードは大きいため、泣く泣く持っていくのを断念した。


「この死体はどうしよう?」


「放っておけ。そら。行くぞ!」


こうして、俺は多少の装備を手に入れて。さらに南へと進むことになった。

それから宿場町を離れ、南へ数km歩いた。


そして、俺はとうとう森の入り口に到着した。時刻は早朝。朝陽が眩しかった。


思ったよりも時間を使ってしまった。


「や、やっと着いた。」


「ようやく到着じゃのぉ。」


森はすでに何か雰囲気を持っていた。暗く、陰鬱なオーラを森全体から感じる。


「こ、ここに入るのか。俺。」


尻込みする俺。


「うむ。入る前に説明しよう。これからの道順じゃ。」


「お、おう。」


ここからがスタートだと言う事実に目眩がする。


「まず。魔獣の森は広い。ここから南へ100kmほど、森や崖が続く。」


「ひゃ、100km……。」


知識で知ってはいたが、改めて聞くとビビる距離だ。


「そこを抜けると、竜のトンガリ山という岩だらけの山が現れる。ここが難所じゃ。」


「トンガリは、トンガリ〇ーンだけにして欲しい。」


「何じゃ、その美味そうな名前は……。」


「いや、こっちの話……。」


「うむ。それでだな。竜のトンガリ山を越えると、セイルシールドの丘という見晴らしの良い丘が現れる。」


「丘……。」


「うむ。そこまでくればゴールは近い。ワシが案内するので、そこが龍人の里じゃ。」


「な、長いな……。むちゃくちゃ長い。」


「しかし、入り口からそのまま真っ直ぐ南下すると、間違いなく命を落とすじゃろう。」


「え!?」


「そんなアホみたいな顔をするな。ヤマト。」


「う、うるせーよ。命を落とすって?どういうことだよ!」


「魔獣の森は、南へ行くにしたがって魔物の力が強くなる。」


「そ、そうなの?」


「うむ。今の実力で奥へ進むと魔物の餌食じゃ。」


魔人の食料を回避したのに、魔物の食料で終わりとか嫌になる。


「なら、どーすんだよ。」


「一旦、森へ入ったら適当なところに拠点を構えて修行する。」


「え?」


「森で生活しながら、力を付けるのじゃ。ワシが稽古つけてやる。」


「う、うそだろ。さっさと森を抜けたい。」


「ダメじゃ。力をつけるのが先じゃ。」


「まじかよ…。」


こうして、俺達は森へ足を踏み入れた。



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