第45話 拾う神あれば

誰かが話しかけてきた。


(チャンス!こやつ、こんな時間に泥棒かも知れんぞ。ブチころ……。)


(リリス!お前は黙ってろ!)


「あの…。坊や?」


俺が無言なので、男は戸惑っている。


暗闇で分からなかったけど、服装からするに兵士だ。


年齢は初老だ。優しそうな顔をしている。


「あ、すみません。何でもないです。はい。」


「坊や。服がボロボロだが、追いはぎにでもあったのかい?血とドロがすげーな。しかも、裸足じゃねーか。」


俺は自分の身なりが、かなりボロボロだったことに気がついた。服はちぎれまくって、腹なんか血と泥ですごい色になっている。


(2階から落ちたり、腹に穴開けられたからな~。靴は履く時間なんかなかったし……。)


「え、ええ……。まぁ。あはは…。」


俺は、しどろもどろに答えた。


「かわいそうに、捨て子だな?兵士達のテントに来な。そこには近くに水場もあるし、洗っていけ。」


(捨て子って?)


「え?でも……。」


(何か勘違いしているようだけど。兵士のテントなんか行ったら。面倒なことになりそうだ。)


「あ、そうか。大丈夫だよ。俺はここの宿場の見張り兵士だ。変な身元詮索なんかしない。」


「……。」


(どう思う?リリス?)


(行かんほうがええじゃろ。兵士は信用ならん。)


(だよな。)


「あ、あの!」


「ん?来る気になったか?」


「お気遣い。あ、ありがとうございます。でも先を急ぎますので。」


「……。そうか。じゃあ、ちょっと待ってろ!」


兵士はそう言うと走り去った。


「?」


悪い人では無さそうだったので、俺はそのまま待つことにした。


兵士はすぐ戻ってきた。


「ここはお前さんみたいな捨て子が多いからな。子供用の服があるんだ。これを使いな。」


すると、長袖と長ズボン、そして靴のセットを差し出す兵士。


「ありがとうございます!」


「いいってことよ。しかし、お前さんみたいな子供を捨てるなんて…、世も末だな。」


「あの、捨て子……?」


「ああ。ごめんな、知らなくていいんだ。」


「もしかして……。親に口減らしに捨てられた子のことですか?」


「な、なんだ。知ってるのか。そうだ。坊やみたいな子が多いんだよ。」


「(俺は捨て子とは違うけど)僕みたいな子は多いんですか?」


「ああ……。毎年かなりの数の子供や老人が森に捨てられる。ここは魔物が多いから、遺体の痕跡が残らないからな。」


「そ、そうなんですね。」


「王国は問題視しているんだが、福祉視察なんか無いしな。見て見ぬふりだよ。」


「それで、身元確認をしないんですね。」


「ああ、すまねーな。」


心底良い人のようだ。


この人は、捨て子を見るたびにこんな施しをしているのだろう。


「あ、これ!干し肉だ。これもやるよ。腹減ってるんだろ?」


「色々。すみません。本当。」


「俺にしてやれるのは、これくらいだ。」


「十分です。」


俺は有り難く干し肉をもらった。


明日以降は食料に困るはずなので貴重だ。


「それで、これから魔獣の森に行くのか………?」


「ええ。」


「そうか。自らの足であそこになぁ……。グス…。気をつけてな?南門は開いている。さっきも言ったが、見張りも森に入る子供を止めない。好きなタイミングで入れるぞ。」


兵士は涙を流しながら、去っていった。


なんか知らんが、憐れみの目で見られた。


しかし、壮絶だな。


この森は、口減しの捨て山になってたんだな。初めて知ったよ。


(リリス。何だか、やるせないな。)


(うむ。では干し肉と靴も得たことだし。南下を続けるかの。)


(そうだな。)


俺達はその宿場を去ろうとしたときだった。


善人も居れば、悪人もいる。


俺は2名の男達に囲まれていることに気がついた。


「!」


「おいおい。坊や〜?捨て子かい?へへへへ。」


「こりゃーいけねー。俺達が保護しないとなー?」


「な、何ですか?あなた達は?」


「へへへへ。ここは捨て子が多いからなー?奴隷商人に売れば金になるのよ。」


「バカなガキだ。1人で夜中にこんな場所によ〜。」


「あなた達は、捨て子を攫うのですか?」


「正解!子供は高く売れるからな〜。この前のガキは泣き叫んでうるさいから殺しちまった。まったく短気は損気だぜ。せっかく捕まえたのに損したぜ!」


「ぷひゃー。お前、顔の形が変わるまで殴って首を絞めて遊んでたもんな〜。そりゃあ、泣くだろうよ。ぎゃはははは!」


「ガキを大人しくさせるのは、なかなか難しいんだよな〜。ふへへへ。」


こいつら……。人間じゃないな。


なんて惨いことを……。


命を何だと思ってんだ。さっきの兵士と大違いだ。


捨て子は、ただでさえ絶望しているのに。


さらに地獄を見せたのか。


悲しかっただろうな。親に捨てられた絶望に、知らない男達に地獄を見せられて……。


俺は決意した。


こいつらは生かしておいてはいけない。生かせば、また被害者が増えるだけだ。


(リリス。)


(何じゃ?)


(チャンス到来だよ。)


(うむ。間違いない。)


俺と人攫い達の戦闘が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る